2022年秋季連邦経済声明(カナダ)

2023-02-09

2022年11月3日、フリーランド副首相兼連邦財務大臣は、2022年秋季連邦経済声明(2022 Federal Fall Economic Statement)を公表した。本声明では、法人税や個人所得税の税率変更はないが、以下のような内容が含まれる。

  • クリーンテクノロジーとクリーン水素製造のための投資税額控除を導入(2023年連邦予算公表時に発効)
  • 2024年1月1日から適用される、カナダの上場企業による自社株買いに対する新税の提案
  • 以前に公表された国際的な税制改革措置の状況について最新情報を提供
  • 2022年後に行われる取引について、住宅用不動産のフリッピング(一定の転売)に係るルールを完成前物件の譲渡(assignment sales)に拡大

また、財務省は、過大利子・金融費用の制限(EIFEL)制度に関する改正法案を公表し、カナダの義務的開示ルールの強化案の一部について新たな発効日を公表した。

事業関係税措置

環境インセンティブ

クリーンテクノロジーに係る投資税額控除 – 本声明によると、還付可能なクリーンテクノロジー投資税額控除が導入される。本税額控除は、2023年連邦予算の公表日以降に取得され使用可能となる適格な新規設備の資本コストの30%に相当する。一定の労働に係る要件(財務省が利害関係者(ステークホルダー)と協議の上決定)を満たす申請者は、税額控除率全額が適用され、それ以外の場合は、20%の控除率が適用される(税額控除は、2032年から2034年にかけて漸減予定)。

クリーン水素に係る投資税額控除 – 本声明では、クリーン水素製造のための投資税額控除を進めるという政府の意向(2022年連邦予算で表明)を確認している。
投資税額控除は還付可能で、2023年連邦予算公表日現在行われている適格投資に適用され、2030年後は段階的に廃止予定である。本控除には一定の労働に係る要件が付され、この要件を満たす申請者は最大40%の率で控除を受けることができる(それ以外は30%までとなろう)。財務省は、本税額控除案の実施に関するコンサルテーション(協議)を開始予定である。

自社株買いに対する課税

本声明では、最近米国で導入された措置と同様、カナダ国内の上場企業によるあらゆる種類の自社株買いの純額に対して2%の課税が提案されている。本新税の詳細は2023年連邦予算で公表され、2024年1月1日施行予定である。

過大利子・金融費用の制限(EIFEL)制度

財務省は、昨年春の最初の協議期間中に寄せられた意見に基づき、EIFEL法の草案を大幅に修正し、公表した。EIFELルール案では、特定の納税者が課税所得の計算において控除できる純利子・金融費用の額を、EBITDAの一定割合に基づき制限する。本ルールは、2023年9月30日後開始課税年度(以前は2022年後開始課税年度)からの適用が提案されている(2023年1月6日まで、改正法案に対する意見を募集)。

国際的な税制措置

デジタルプラットフォーム事業者の報告ルール - カナダは、デジタルプラットフォームによる所得報告について、OECDのモデルルールを導入する意向である。財務省は、OECDモデルルールをカナダ所得税法に取り込むための法案を公表した(2023 年 1 月 6 日までコメント募集)。

第1の柱(課税権の再配分) - 本経済声明では、新制度の技術的なルールの確立に大きな進展があり、OECDは引き続き公開協議を実施するとしている。包摂的枠組みでは、第1の柱を実施するための条約を2023年前半に署名できるよう多国間交渉を完了させ、2024年の発効を目指している。

第2の柱(グローバルミニマム税) - 本経済声明では、カナダがグローバルミニマム税に取り組むことを確認し、引き続き、国際的なパートナーと緊密に協力して、タイムリーに実施されるよう調整された実施フレームワークを策定することを表明している。

個人関係税措置

住宅用不動産フリッピングルール(RPFR) - 2022年連邦予算で公表されたルール案では、12か月未満の所有住宅用不動産の特定の処分から生じる利益は事業所得とみなされよう。本声明では、RPFRを完成前物件の譲渡による住宅用不動産の購入権利の処分から生じる利益にも拡大する。本改正案を含め、RPFRは、2022年後に行われる取引に適用される。

その他 - 以上のほか、カナダ労働者給付金(Canada Workers Benefit)関連の改正や、高所得者ミニマム税の改正などが見込まれる。

その他の税措置

義務的開示ルール - 財務省は、義務的開示ルールの強化案を、制定法が国王の裁可を得た日(以前は2022年後に締結される取引)から実施すると公表した。特定法人に係る不確実な税務処理(uncertain tax treatments)の報告義務は、これまで通り2022年後開始課税年度からの実施とし、罰則は制定法案の国王裁可によってのみ適用されよう。
本声明では、2022年連邦予算で公表された措置やその他の既公表の措置(2022年8月9日公表法案、ハイブリッドミスマッチ取決め(2022年4月29日法案)、ミューチュアルファンドトラストの償還(信託・投資主の二重課税調整)関連・当局(CRA)の税務調査関連・EIFEL・暗号資産マイニング(2022年2月4日法案)、デジタルサービス税(2021年12月14日法案)を含む)について、協議を踏まえ修正しながら進めるとしている。また、政府は、既発表の協議(移転価格(2021年連邦予算)および一般的租税回避防止ルール(2022年8月9日付協議文書))を進める方針である。

出典:PwC, Tax Insights
「月刊 国際税務」2023年1月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修