行政府が税制法案を議会に提出(チリ)

2024-05-13

2024年1月29日、行政府は、税収増を目的とした新たな「納税義務の履行」に係る税制改革法案を議会に提出した。本法案では、脱税や租税回避に対処し、税務行政を近代化するための措置を講じるとしており、所得税法、付加価値税(VAT)法、租税法典(Tax Code)などの改正も提案している。本法案には、以下が含まれる(このほか、移転価格税制などの重要な改正もある)。

租税法典(Tax Code)関連の改正

一般的租税回避防止規定(GAAR) - 本法案では、現在のGAARに含まれている「濫用」と「仮装(simulation)」の定義を修正し、「濫用」の主な特徴は、「不適切な」方法で税恩典を得ること、すなわち、取引の法的形式が、取引締結時に納税者が求めた経済的効果と一致していない場合であることを強調している。加えて、本法案では、ルール適用に係る現行制度を廃止し、租税回避防止委員会(Anti-Avoidance Committee)とGAAR諮問委員会(GAAR Advisory Panel)を設置する。本改正により、本規定の適用範囲が拡大する可能性がある。

税務当局の査定権限 - 一般原則として、税法では、税務当局が「通常の(normal)市場価値」と著しく異なる価値で行われた取引に異議を唱えることを認めている。本法案では、「通常の市場価値」を、業種、セクター、機能、資産、リスク等の関連する特性を考慮し、第三者が比較可能な(comparable)取引や状況において合意したであろう価値、と定義している。本法案によれば、納税者は、取引が公正な市場価値で行われたことを証明するために、a)割引キャッシュフロー法、b)マルチプル法(類似の特性を持つ一定の参考比率値に基づく推定価値)、c)修正簿価法、d)その他の評価方法、に従わなければならない。税務当局は、納税者の評価額に異議を唱える場合、これらの方法のいずれかを用いる必要があり、(適用可能な場合)外国当局からの情報を求めることもあろう。

事業再編成 - 事業再編成に適用される税制適格制度が改正され、国内組織再編成と国際組織再編成に区別される。国内組織再編成(合併、スピンオフ、チリ国内での現物出資等)は、正当な事業上の理由があれば、税制適格となる。この場合、移転資産の課税ベースは移転先事業体に引き継がれる必要があり、現物出資の場合、現物出資事業体は、現金を受領できない。国際的組織再編成は、それがチリ国内に影響を及ぼす(例えば、チリ国内に所在する資産、株式または出資持分(quota rights)に関連する)場合であって、以下の要件を満たす場合、税制適格となる。

  • 正当な事業上の理由がある。
  • 企業グループ内で行われる。
  • 現物出資事業体が現金を受領しない(出資の場合)。
  • 移転、譲渡または現物出資資産の課税ベースが取得事業体に引き継がれる。
  • 取引に関係する他国・地域の法的要件が満たされている。
  • チリの課税権が影響を受けない。

所得税法関連の改正

間接譲渡規定 - 間接譲渡規定に関しては、「タックスヘイブン・テスト」を適用しており、チリ税務上タックスヘイブンとみなされる国・地域に所在または設立され、チリの資産を間接的に保有する事業体の持分の譲渡から生じるキャピタルゲインは、非居住者に係る源泉税率35%の課税対象となる(本テストは、間接譲渡されるチリの事業体の価値に関係なく適用される)。現行法では、(i)税務上の居住者が、譲渡される外国事業体の持分の5%以上を直接保有しておらず、また5%以上の利得に対する権利を有していない場合、および(ii)タックスヘイブンに居住する者が、譲渡される外国事業体の持分の50%以上を直接・間接に保有しておらず、また50%以上の利得に対する権利を有していない場合、タックスヘイブン・テストは適用されない。本法案では、上述のテストの(i)における5%要件を改正し、この保有要件が間接的なベースでもテストできることを明確にしている(現在の表現では、直接保有に限定されている)。

その他の改正

付加価値税(VAT)法関連の改正案として、国外に所在する一定の資産の譲渡に係るVAT課税、事業再編や一定の株式譲渡等に係るVATの租税回避防止規定、がある。
また、税恩赦(Tax Amnesty)として、本法案では、以下の2つの制度を提案している。

  • 未報告の海外資産と所得の報告について、当該資産と所得の価値に係る12%の代替税
  • 税務訴訟(租税犯罪に関わるもの以外)の早期終結選択について、遅延利子と罰金を軽減

本法案に加え、政府は、主に所得税法のその他の改正に焦点を当てた追加の税制改革法案を議会に提出する見込みで、これには第2の柱の規定の採用も含まれる可能性がある。

出典:PwC, Tax Insights
「月刊 国際税務」2024年4月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修