第2の柱の15%ミニマム実効税率の実施に係る欧州委員会の指令案(EU)

2022-03-07

2021年12月22日、欧州委員会(EC)は、EU加盟国における、OECD第2の柱の15%ミニマム実効税率に係るモデルルールの実施を目的として、EU域内多国籍グループに対するグローバルでのミニマムレベル課税の確保に係る理事会指令案、を公表した。本指令案は、いわゆる所得合算ルール(IIR)、および軽課税支払いルール(UTPR)を定めたOECDモデルルールに忠実に従っている。ただし、EU法への準拠を保証するためにいくつかの必要な調整を加えることで、モデルルールから乖離している。主な違いは、以下のとおりである。

  • IIRは、過去4年間のうち2年以上、連結収入が7億5千万ユーロ以上の大規模な純粋国内グループに拡大されている(ただし、本規定の適用後5年間、トップアップ税をゼロレート適用とする移行規定がある)
  • 最終親事業体(UPE)、中間親事業体(IPE)、または部分保有されている親事業体(POPE)によるIIRの適用は、同じ加盟国に所在する軽課税の構成事業体(当該UPE、IPEまたはPOPEを含む)にも拡大されている

関連するOECD第2の柱の租税条約特典否認ルール(STTR)に関して、現段階ではEUの措置は示されていない。なお、OECDは、2022年3月に、STTRのモデル規定案とそのコメンタリーを公表予定である。

本指令案の採択には、全27加盟国の全会一致が求められる。採択された場合、加盟国は、2022年12月31日までに国内制度で本規定を取り込み、2023年1月1日(IIRの場合)および2024年1月1日(UTPRの場合)から、関連実施規定を適用することになる。

本指令案の全体構造

本指令案では、OECDモデルルールに沿って、以下の2つのルール(「EU GloBEルール」と総称)の相互作用により、大規模な多国籍企業に15%のミニマムレベルの課税を確保することを目的とした、一連のルールのEU内での適用を規定している。

  • IIRで、構成事業体の軽課税所得に関して、UPEでトップアップ税を賦課
  • UTPRは、構成事業体の軽課税所得がIIRの課税対象とならない範囲で、バックストップとして適用され、国・地域の有形資産の価値、および従業員数の2配賦要素に比例して、当該国・地域でトップアップ税を課すことになる。なお、UTPRトップアップ税の課税方法(たとえば、控除否認その他の手法により)について、本指令案では、明示的な言及はない。

特に、OECDモデルルールに沿って、本指令案は、加盟国に所在する多国籍企業グループの構成事業体が、トップアップ税の情報申告書を提出する義務を規定している。なお、加盟国が情報交換協定を締結している他の国・地域の多国籍企業グループが当該申告書を提出する場合には、本義務の例外規定がある。当該申告書は、関連会計年度終了後、15か月(初年度は18か月)以内に提出する必要がある。本指令案ではまた、加盟国が、国内実施規定に違反した場合にペナルティーを適用する義務を定めており、特に申告書提出義務に関連して、当該ペナルティーには、関連する会計年度における構成事業体の売上高の5%以上の行政ペナルティーが含まれる。要請を受けてから6か月以内にトップアップ税の情報申告書が提出された場合、ペナルティーは適用されない。なお、本指令案では現在、コンプライアンス負担軽減のための執行簡素化措置を定めていない。

指令案のいくつかの主要な特徴

本指令案の実施規定は、OECDモデルルールに忠実に従っている。しかしながら、欧州委員会によると、EU法への準拠を保証するためにいくつかの必要な調整を加えており、新たな法的枠組みが、設立の自由を含め、EUの基本的自由と両立するという法的確実性を納税者に提供するために、特定の側面で、OECDの文書とは異なる。OECDモデルルールと異なる部分を含め、指令案の主要な特徴は以下の通りである。

  • 本指令案では、クロスボーダーと国内状況との差別のリスクを回避するため、IIRの適用を、すべての構成事業体が同一加盟国に所在する大規模な国内グループに拡大している。なお、本規定の適用後5年間、トップアップ税をゼロレート適用とする移行規定がある。
  • 本指令案では、UPE、IPE、またはPOPEによるIIRの適用を、同一加盟国にある軽課税の構成事業体(UPE、IPEまたはPOPEを含むが、一定のIPEおよびPOPEについては除外規定がある)に拡大している。
  • 本指令案では、国際活動の初期段階にある多国籍企業(構成事業体の所在地国・地域が6以下、かつ、(総有形資産が最大の関係国・地域を除く)すべての国・地域に所在する全構成事業体の有形資産純簿価合計が5千万ユーロ以下)のためのUTPRの一時的除外を、IIRにも拡大している。
  • 本指令案では、第三国の法的枠組みを、EU GloBEのIIRと同等とみなす規定を定めている(親事業体が当該多国籍企業グループの軽課税の構成事業体のトップアップ税の配分可能分を計算・徴収する一連のルールを規定、15%以上のミニマム実効税率を規定、同一国・地域に所在する事業体の所得のブレンディングのみ許容、および、本指令案のIIRを適用して加盟国で支払われたトップアップ税の救済を規定、が条件となっている)。
  • 本指令案では、加盟国が、適格国内トップアップ税(構成事業体が、その加盟国でトップアップ税を納付)を採用するオプションを規定している(採用後4か月以内に欧州委員会に通知要)。

第2の柱の指令案の法的根拠は、EUの機能に関する条約(TFEU)の第115条であり、27の加盟国すべてによる全会一致の承認が必要となる。非常に厳しい実施スケジュールを考慮して、委員会はパブリックコンサルテーションを行わないことを決定している。採択された場合、加盟国は、2022年12月31日までに本指令の規定を実施するために必要な法律、規則、および行政規定を施行し、2023年1月1日からIIR、2024年1月1日からUTPRの関連実施規定を適用する必要がある。

出典: PwC, Tax Policy Alert
「月刊 国際税務」 2022年2月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修