EU財務相会議、第2の柱の指令案で全会一致に至らず(EU)

2022-06-07

2022年3月15日、EU財務相会議が開催され、EU加盟国によるミニマム税導入に関する妥協案の議論・投票が行われた。本妥協案について、広範な支持は得られたものの、全会一致には至らなかった(注)。本妥協案では、加盟国が指令の内容を国内法に取り込んで発効させる期日が、2023年1月1日から2023年12月31日に変更されている(また、UTPRは、2024年12月31日に延期)。エストニア、マルタ、ポーランド、スウェーデンが留保した(注)。本指令案は、特別立法手続きに基づき、全会一致の合意が必要である。

2022年3月12日、EU議長国であるフランスは、EU域内の多国籍グループに対するグローバルなミニマムレベル課税の確保に関する理事会指令案の修正文を提案した。当初の指令案は、2021年12月22日に欧州委員会により提案されていた(本誌2022年2月号参照)。これは、EU加盟27か国が、OECDの包括的枠組みが提案する第2の柱のGloBEルールを実施するための枠組みを規定するものである。3月12日の指令案では、以下の通り、いくつかの注目すべき変更点があった。

  1. 加盟国が本指令の内容を国内法に取り込んで発効させなければならない期日が、2023年1月1日から2023年12月31日に変更された。また、本妥協案では、UTPRは2024年12月31日に延期される
  2. 第47条aでは、加盟国における、対象となる多国籍企業グループの最終親事業体(UPE)が10社(注)以下(売上高7億5千万ユーロ以上)の場合は、上述の例外が設けられている。このような加盟国は、2023年12月31日から2025年12月31日(注)までに開始する会計期間について、IIRおよびUTPRを適用しない選択ができる。一方、そのような選択をしない(または、対象UPEが数多くあることから、非適格となる)加盟国は、当該非選択・非適格加盟国の構成事業体が、2023年12月31日開始会計期間において、その加盟国に割り当てられたUTPRトップアップ税額の対象になるようにしなければならない
  3. 第15条では、純税額(net taxes expense)の定義に、繰延税金が含まれる
  4. 本妥協案の第51条では、EU域外国が、適格IIR(QIIR)を有しているか判断する際、欧州委員会が、同等制度の実施法を提案し、EU理事会がこの実施法について(欧州委員会の決定ではなく)投票することを定めている。この実施法の批准には、理事会の全会一致が必要である(注)

妥協案に関する欧州財務相理事会の決定

EU加盟国の財務相が本妥協案についてコメントしたところでは、加盟国は、本提案、議長国フランスによる指令案の推進、およびOECDの包摂的枠組みによるこれまでの作業について、大筋で支持を表明したものの、以下の国々からは、留保がつけられた。

  1. ポーランド:第1の柱と第2の柱はパッケージとして考えるべきであり、第2の柱の策定を先行して進めるべきでない
  2. マルタ:IIRとUTPR適用除外の利用に関し、加盟国における対象UPEの数を増やすとともに、ルール実施に関する追加延長が必要
  3. スウェーデン:全般的な支持を表明する一方、第2の柱の実施に関する追加作業なしに指令の一般的なアプローチに合意するのは時期尚早
  4. エストニア: 追加の技術的な作業が必要であることを指摘し、多国籍企業に対するルールの不均衡な影響を防ぐ必要性に言及

本提案について、今後数週間のうちにこれらの懸念に対処し、2022年4月5日予定の次のECOFIN会合で、全会一致を目指すとしていた。
(注)2022年4月5日のECOFIN会合でも全会一致に至らなかった(ポーランドが留保)。なお、3月28日の修正妥協案では、IIR・UTPRの適用延期特例(第47条a)について、1.加盟国の対象多国籍企業グループのUPE10社以下→12社以下、2.2023年12月31日から2025年12月31日まで→2029年12月31日まで(6年間)、とし、また、EU域外国の適格IIR(QIIR)判定(第51条)について、理事会の投票(全会一致)をはずし、欧州委員会での決定のみに戻している

参考)

  1. 欧州議会では、フランスのAurore Lalucq氏より、EU指令案を修正し、第2の柱の最低税率を15%から21%に引き上げる提案もなされている(最初の意見交換では合意に至らず)(Source: PwC US, Tax Readiness)
  2. 2022年3月17日の欧州議会(税制小委員会)公聴会で、EUのタックスヘイブンブラックリスト(租税回避を促進する法律や政策を持つ非EU加盟国の特定に用いられるソフトローツール)について、「第2の柱」をその基準に加えることも提案されている(Source: PwC, Latest digital tax byte)

出典: European Council website / PwC, Tax Policy Alert
「月刊 国際税務」2022年5月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修