2023-12-13
2023年9月12日、欧州委員会は、以下の新たな提案パッケージを公表した。
(i)EU域内での事業に係る単一の税規定(欧州における事業に関する理事会指令(所得課税の枠組み(BEFIT))
(ii)EU域内の移転価格税制の調和(移転価格に関する理事会指令)
(iii)零細・中小・中堅企業(SMEs)向けの本店税制(指令2011/16/EUを改正する理事会指令(HOT提案))
(i)のBEFITは、事業者にとって簡素化となる可能性がある一方、非常に多くの新しい概念を導入しており、GloBEルールとの整合性について慎重に取り扱う必要がある。(ii)は移転価格に関する公平な競争条件が期待される一方、移転価格原則の法制化は、欧州委員会の意図と加盟国の主権との間でバランスを取る必要がある(対応的調整制度の義務化により本提案を改善できる可能性がある)。(iii)はSMEs向けの本店税制の提案による簡素化が期待される一方、その適用範囲は非常に狭く、実際の利用は限定的であろう。これら3つの提案はいずれも、来春のEU委員会の任期終了までに、EU加盟国による全会一致の合意が必要である。
BEFIT(Business in Europe: Framework for Income Taxation)は、欧州委員会の提案であり、EU域内でクロスボーダーの事業を行う大企業の税務コンプライアンスコスト削減を目的としている。欧州委員会によると、この提案は、企業グループの課税ベース算定に係る新たな単一ルールを導入し、企業と税務当局の双方にとって利便性を向上させるものである。この提案は、欧州委員会のCCTB(共通法人課税ベース)およびCCCTB(共通連結法人課税ベース)提案に代わるものである。採択された場合、加盟国は2028年1月1日までにBEFIT規定を導入し、2028年7月1日から適用する必要がある。
BEFITルールは、年間収入が7億5千万ユーロ以上(第2の柱と同じ閾値)のグループおよびその75%出資子会社(BEFITグループ)に強制的に適用されよう。EU域外に本拠を置くグループの場合、EU域内の事業体は、直近4事業年度のうち少なくとも2事業年度において、EU域内における合計年間収入が5千万ユーロ以上の場合、またはそれらの事業体の合計収入がグループの総収入の5%以上の場合のみ、BEFITグループに含まれる。これらよりも小規模なグループについても、連結財務諸表を作成する限り、この規定を選択できる。この提案にはセクター別の適用除外は含まれていないが、EUの収入計算にはセクター固有の特性が反映される。
ワンストップショップにより、申告事業体(原則として最終親事業体)は、一のEU加盟国の税務当局にグループのBEFIT情報申告書を提出できる。この税務当局は、グループが活動する他の加盟国と情報を共有する。税務調査および紛争解決は、各加盟国のレベルで行われる。
欧州委員会はまた、EU域内の移転価格(TP)規定を調和させ、TP問題に対する共通のアプローチを確保することを目的とした指令も提案している。解説文書によると、ほとんどのEU加盟国がOECD加盟国でもある一方、OECDのTPガイドラインの役割や位置づけは加盟国ごとに異なっている。さらに、国内法の違い(例えば、支配の概念)により、複雑さおよび二重(非)課税のリスクを生み出している。このような背景から、本指令案では、独立企業原則と主要なTPルールをEU法に組み込み、OECD TPガイドラインの役割と地位を明確にし、特定の側面に関する共通の拘束力のある規定をEU域内に確立する可能性を生み出すものとなろう。この指令は、EU加盟国において登録されているか課税対象である納税者(EU加盟国にある恒久的施設(PE)を含む)に適用されよう。一般的な規定として、EU加盟国は、企業が関連企業とクロスボーダー取引を行う場合、当該企業が独立企業原則(本指令で定義)に沿った方法で課税利得を算定する必要があろう。さらに、本指令では、特定の移転価格の中核的要素に関する共通ルールを規定する。なお、EU加盟国は、TP規定が、OECD TPガイドラインと整合する方法で適用されることを確実にするための規定を国内法に盛り込む義務があろう。加えて、EU理事会は、独立企業原則およびその他の規定の特定取引への適用に関して、OECDのTPガイドラインに整合する形で、さらなる規定を定めることができる。提案されている指令では、EU法をOECD TPガイドラインの第1章から第3章に整合させることを目的としている。無形資産(評価困難な無形資産を含む)、サービス、費用分担契約(CCA)、金融取引、事業再編、および本支店間取引に関しては、さらなる作業が必要であろう。提案されている指令によれば、EU加盟国は、2026年1月1日までにこのTP規定を施行しなければならない。
本店課税(HOT: Head Office Tax)制度は、独立型のSMEsが域内市場でPEによって事業拡大する際に直面するコンプライアンス上の課題を軽減することを目的としている。このオプション制度により、本店所在国の規定に従ってPEの課税利得を算定できるようになろう(なお、税率や、本支店間の利得帰属に関する規定は、HOTの影響を受けない)。さらに、税務申告、賦課、徴税を本店所在国においてワンストップで行うことができるようになろう(本店およびPE所在加盟国の権限ある当局間の協力を規定(PE利得に係る税収は本店所在国の当局が徴収し、PE所在国に移転)しているほか、PE所在国の当局の要請による共同税務調査の可能性も含まれている)。なお、SMEsとは、指令2013/34/EUの定義(貸借対照表合計2千万ユーロ、純収入4千万ユーロ、事業年度の平均従業員数250人の3つのうち、少なくとも2つはこの閾値を超えない)によることになる。他のEU加盟国で専らPEによって事業を行う適格SMEsとしてのその他の重要な要件として、直近2事業年度において、A. PE(複数)の合算収入が本店収入の2倍以下、B. 本店所在国の税務上の居住者、C. 適格SMEs、という要件を満たす必要がある。承認されれば、HOTは2026年1月1日から適用される予定である。
出典:PwC, Tax Policy Alert
「月刊 国際税務」2023年11月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修