第2の柱の討議草案を公表(ドイツ)

2023-06-14

第2の柱の討議草案を公表(ドイツ)

2023年3月20日、連邦財務省(MoF)は、EUにおける多国籍グループおよび国内の大規模グループに対するグローバルミニマム課税を実現する第2の柱指令の実施に係る法律案(ミニマム税指令実施法 - MinBestRL-UmsG)を公表した。これは、2022年12月15日、EU理事会で第2の柱が正式採択されたことを受けたものである。本討議草案は、EU指令、OECDモデルGloBEルールや、セーフハーバールールなど他のOECD文書におおむね準拠している。EUミニマム税指令の実施は、別の法律であるミニマム税法(MinStG)により規定される。本討議草案は、合計89パラグラフで構成され、11のパートに分かれている。

Part 1: 一般規定

OECDモデルルールやEU指令と同様に、MinStGの適用範囲には、最終親事業体の直近4つの連結財務諸表のうち少なくとも2つにおいて、年間収入が7億5千万ユーロ以上の閾値に達しているグループが含まれることになろう。本討議草案では、EU指令に沿って、MNEグループだけでなく、当該収入閾値を満たす純粋にドイツで活動するグループに対しても追加課税を行うことを規定している。MinStGの対象となるグループには、法的形態に関係なく、連結財務諸表に完全に(または部分的に)連結されているすべての事業体と、その各恒久的施設(構成事業体)が含まれよう。なお、EU指令の追加規定として、本討議草案には、ミニマムタックスグループに関する規則が規定されている(MinStG Section 3)。ミニマムタックスグループは、MinStGに基づきドイツで課税される構成事業体と国内グループ親会社で構成される。追加税額はグループリーダーに割り当てられ、グループリーダーは税務当局に対して唯一の納税義務者となり、構成事業体は連帯責任を負うことになる。

Part 2: トップアップ税制

トップアップ税額は、3つの異なるメカニズムで課税される可能性がある。

  • 所得合算ルール(IIR)は、最終親事業体のレベルで課税され、場合によっては中間親会社でも課税される。
  • IIRによる軽課税事業ユニットへの課税がない場合、軽課税所得ルール(UTPR)が適用されよう。UTPRでは、ドイツ国内の各構成事業体は、MNEグループ全体のトップアップ税額から比例配分された追加税額を割り当てられることになる。
  • 軽課税の国内構成事業体については、Part 10に規定する適格国内ミニマムトップアップ税 (QDMTT)を通じて、トップアップ税額を優先的に徴収する可能性も規定されている。

Part 3~Part 5: GloBE所得・損失、調整後対象租税、実効税率およびトップアップ税額の算定

Part 5では、実効税率(ETR)とトップアップ税額の算定を規定している。トップアップ税額は、ETR が最低税率15%より低い課税管轄国・地域に所在する構成事業体に関して生じる。ETRは、GloBE所得・損失の総額に対する調整後対象租税の総額の割合であり、国・地域ごとに算定される。

Part 3では、GloBE所得・損失の算定を規定している。GloBE所得・損失の計算の出発点は、最終親事業体の連結財務諸表作成に適用される会計基準に基づき、当該会計年度において算定された構成事業体ごとの会計上の利益または損失であり、多くの加減算調整が必要である。

Part 4では、調整後対象租税を規定している。調整後対象租税は、各構成事業体の会計上認識される当期税金と繰延税金からなり、一定の加減算調整を行う必要がある。ETRと最低税率の差は、実質基準の適用除外調整後の当該国・地域GloBE所得・損失の総額に適用されるトップアップ税額となる。その結果、国・地域ごとのトップアップ税額が算定される。

Part 6~Part 7: 企業再編と株式保有構造、ならびに最終親事業体、損金算入分配制度および投資事業体の特例

Part 6およびPart 7には、特別規定が含まれている。これらは、特に、グループへの参加・離脱に関連する規定、ジョイントベンチャーに関する規定、特定の最終親事業体に関する特別規定、および投資事業体に関する規定が含まれる。

Part 8からPart 11: 執行、移行年度・移行期間・当初期間の特別規定、課税手続き、その他の規定

MinStG草案では、MNEグループが満たすべき様々な執行上の要件が規定されている。原則として、MinStGの下で課税対象となる各構成事業体は、その事業年度のグローブ情報申告書(GIR)を連邦中央税務庁(BZSt)に提出しなければならない。ただし、特定の状況下では、特定の構成事業体が他の構成事業体に代わってGIRを提出することができる。GIRは、事業年度終了後15か月(初年度は18か月)以内にBZStに提出しなければならない。意図的にGIRを提出しなかったり、期限内に提出しなかったり、すべてを提出しなかったりした場合は、行政処分の対象になる(罰金の額は未定)。本討議草案では、GIRに加え、各国内課税構成事業体による所轄税務署への税務申告書の提出を規定している(国内ミニマムタックスグループが存在する場合、グループリーダーのみがグループの税務申告書提出を行う)。事業年度のトップアップ税額は、その事業年度が終了する暦年の末日に生じる。本討議草案の説明文書によると、申告書の提出については、一般財政法(GFC Section 149)の一般規定が適用される。納税の期限は、申告書の提出から1か月後である。本討議草案には、国別報告(CbCR)に基づく経過的セーフハーバールールなど、OECDのセーフハーバールールが含まれている。セーフハーバーの要件を満たせば、トップアップ税額は零となるが、この場合でも、MinStGに基づくGIRおよび申告義務は影響を受けない。さらに、本討議草案では、GloBE収入、GloBE所得・損失、重要性の低い事業体の調整後対象租税の算定を簡素化するためのさらなる選択規定、およびQDMTTを通じてミニマム税がすでに課税されている場合の救済を規定している。また、MNEグループが従属的な国際活動しか行っていない場合、最初の5年間はトップアップ税が免除される。さらに、本討議草案には、移行年度以降のETRの算定に関する規定、2021年11月30日後の繰延税金や構成事業体間の資産移転の取扱いに関する規定も含まれている。

MinStGは、2023年12月30日後に開始する事業年度から適用される。UTPR規則は、2024年12月30日以後に開始する事業年度から適用される。(注)

(注) 他国の状況として、たとえば、韓国では、2022年12月23日、国会で第2の柱の法案(本誌2022年9月号参照)が可決された。IIRとUTPRを2024年1月1日以降開始事業年度から適用(QDMTTは含まれていない)し、2023年2月公表予定の大統領令および施行規則で制度の詳細が明らかになる予定であった(本誌2023年2月号参照)が、2023年3月16日、企画財政部は、他国の第2の柱ルールの制定状況をモニタリングした結果、大統領令の公表を2023年2月の予定から2023年後半または2024年2月に延期することを決定した。大統領令および施行規則は、厳密には韓国の第2の柱ルールが発効する前に発効する必要はないが、他のIF(包摂的枠組)参加国での導入状況によっては、韓国での第2の柱ルールが1年遅れる(2024年からではなく、2025年から発効する)可能性もある。

カナダでは、2023年3月28日公表の2023年度予算案の中で、デジタルサービス税(DST)、第1の柱および第2の柱の計画を示している。DSTについて、政府は、国会に修正法案を提出する前に、パブリックコメントを求める予定である。第2の柱について、政府は、IIRと国内ミニマム税(QDMTTとして認められることを目指す)の法案を今後数か月の間に公表予定であり、UTPRの法案はその後に公表予定である。IIRと国内ミニマムトップアップ税は、2023年12月31日以後に開始する多国籍企業の会計年度に適用されよう。UTPRは、2024年12月31日以後に開始する会計年度に適用されよう。なお、実施法の草案は、第2の柱に関するパブリックコンサルテーション(2022年7月7日期限)で寄せられたコメントを考慮するとしている。詳細なモデルルール、コメンタリー、およびIFで合意された執行ガイダンス(セーフハーバーを含む)に従うことになる。英国や日本と同様、カナダもUTPR実施法案の公表を当面見送るとしている。

アイルランドでは、財務省が、2023年3月31日に、GloBEルールの実施に関する文書(法律案を含む)を公表し、国内トップアップ税を含むGloBEルールの実施に関するフィードバックを募集している(2023年5月8日まで)。QDTT(Qualified Domestic Top-up Tax)、登録、自己査定、申告、納税、記録保存などの執行上の要件に関して取り得るアプローチなど、いくつかの特定の質問も含まれている。これは、2段階の公開協議の第1弾であり、第2弾は夏に公表予定である(最終規定は、2023年10月の財政法案で公表見込み)。財務省は、別途、利害関係者を含むフォーラムを開催している。

ベルギーでは、2023年3月3日、財務大臣が、第2の柱の制定を第1フェーズとする段階的な税制改革を公表している(第2の柱の実施により、3年間で20億ユーロ(2024年に6億3,400万ユーロ、2025年に7億1,400万ユーロ、2026年に7億4,800万ユーロ)の財源確保の見込み)。政府は、連邦予算の中で、第2の柱の導入に係る基本原則を決定している。国内トップアップ税(QDMTT)を導入し、既存の税予納スケジュールに第2の柱を含めるなどとしている。納税義務は一のグループ事業体で生じ、他のグループ事業体は連帯納税義務を負うことになる。研究開発税額控除は、第2の柱の要件(適格還付税額控除)に合わせるために改正されよう(払い戻しの期限が、5年から4年に短縮)。

スペインでは、EU内の多国籍企業グループおよび国内の大規模グループに対するグローバルミニマムレベル課税の確保に関する2022年12月14日付け理事会指令(EU)2022/2523の国内法への取り込みに関するパブリックコンサルテーション(2023年3月6日から3月26日まで)を開催した。

ケニアでは、大統領が、2023年3月30日、DSTを廃止し、第1および第2の柱の合意に参加する旨を表明している。ケニアは、2021年10月のIF合意を、ナイジェリア、パキスタン、スリランカとともに保留していた。また、ケニアは以前、2022年の財政法案で、DSTを1.5%から3%に引き上げることを提案していたが、その提案は取り下げられた。

一方、国連(UN)租税委員会では、2023年3月28日、国連版モデルSTTR条約規定およびコメンタリーの草案テキストに関する報告書が承認された。本規定の適用は、利子やロイヤルティーなどの税源浸食性のある支払いや、関連者間取引に伴う所得に限定されず、ミニマム税率(IF合意では9%)の記載はない(交渉当事者に委ねられる)。なお、IFでは、合意したSTTRモデル条約条項を今夏に最終決定し、公表する予定となっている。

なお、オーストラリアでは、2022年10月25日の連邦予算で公表された、低税率または無税(税率15%未満)の国・地域で保有する無形資産に係るクロスボーダー特定支払いの損金算入制限(本誌2022年12月号参照)に関して、2023年3月31日、連邦財務省が関連法案および説明文書を公表し、パブリックコメントを募集した(2023年4月28日まで)。本措置は、大規模(連結会計収入10億豪ドル)グローバル企業のメンバーである特定事業体(Australian Significant Global Entity: SGE)に対し、その関連者への直接および間接の支払いに適用される見込みである(2023年7月1日以後の支払い等に適用)。本措置において低税率国・地域の判定は(実効税率ではなく)法定法人税率で行うが、本説明文書によると、(州税、地方税等は含まず)国税のみでの判定となる。本法案によると、法定法人税率を決定する際に複雑な点もある。また、十分な経済実体を伴わない優遇パテントボックス税制を有すると関係大臣が認める場合、立法措置で当該国・地域を本措置における低税率国・地域と認定する条項も含まれている。本討議草案では、具体的な対象国・地域は示されていないが、OECD のガイダンスが判断要素となることが示されている。また、無形資産の定義などについても追加的な見解を示している。一方、本措置とCFCルールや第2の柱(IIR・QDMTT)との関係を含め、依然として多くの不確定要素があり、留意が必要となろう。

出典:PwC, Tax Policy Alert
「月刊 国際税務」2023年2月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修