パテントボックス税制に関する協議を開始(香港)

2023-12-13

2023年2月に公表された2023-24年度予算で示された通り、パテントボックス税制が導入され、香港源泉で、研究開発(R&D)活動を通じて発生した適格な知的財産(IP)資産に関連する利得に係る税制優遇措置が規定されることになろう。2023年9月1日、商務経済発展局は、パテントボックス制度案に関するコンサルテーションペーパーを公表した(2023年9月30日までコメント募集)。提案されているパテントボックス制度は、OECDのネクサスアプローチ(BEPS行動5)に忠実に従っている。概要は以下のとおりである。

対象となるIP資産 - 特許およびその他の機能的に同等の知的財産(特許同様に法的に保護され、類似の承認・登録プロセス(これらの手続きが関連する場合)を経るもの)が対象で、以下が含まれる。

(a)特許
(b)著作権で保護されたソフトウェア
(c)植物品種権(plant variety rights)

本コンサルテーションペーパーによると、対象となるIP資産には、香港内外で取得した特許および植物品種権、ならびに特許および品種権の出願が含まれる。ただし、当該出願が最終的に取得に至らなかった場合、該当するIP所得部分には標準税率が適用される。なお、OECDのガイドラインでは、商標などのマーケティング関連のIP資産は、IP制度による税制上の優遇措置を受けることはできないとしている点、留意が必要である。

登録特許および植物品種権の要件 - 香港内外で取得した特許および植物品種権は適格IP資産として認められるが、本コンサルテーションペーパーでは、関連する特許または植物品種権が、指定された現地の登録制度に基づいて提出された出願に含まれていなければならないという要件を提案している。ただし、適格IP資産の出願日が、パテントボックス制度の開始日から24か月以内の経過措置期間内であれば、この要件は適用されない。

適格IP所得 - 適格なIP所得には、以下が含まれる:

(a)香港の内外を問わず、適格IP資産の展示/使用、展示/使用する権利、またはその使用に直接的または間接的に関連する知識の伝授/伝授を請け負うことから得られる所得(基本的にはロイヤルティまたはライセンス料)
(b)適格IP資産の売却から生じる所得
(c)適格IP資産が組み込まれた製品またはサービスの販売による所得のうち、当該適格IP資産に帰属する部分(当該適格IP資産に無関係な所得の部分(例えば、マーケティングおよび製造の対価)は、正当かつ合理的な根拠(例えば、移転価格原則に基づく)に基づいて分離しなければならない。

OECDのガイドラインでは、IP所得に配分可能で、その年に発生したIP支出は、優遇税率適用前に、同年の稼得IP総所得から控除する必要があるとしている。なお、他国・地域のパテントボックス制度では、一般に権利侵害に対する損害賠償金などをカバーしているが、この点は現時点では明確でない。

対象となる支出 - 納税者が適格IP資産を開発するために生じたR&D支出のみが、ネクサス(関連性)比率の計算において考慮される。そのため、IP資産の取得費用は、適格支出とはされない。本コンサルテーションペーパーでは、対象となる支出の範囲(ネクサス比率の分子)を決定するために、(事業体別ではなく)国・地域別アプローチが採用されるとしている。このアプローチでは、適格支出は、以下の研究開発活動に対する支出を対象とする。

(a)納税者が香港内外で実施したもの
(b)第三者に委託し、香港内外で行われるもの
(c)居住者である関連者に委託し、香港内で行われるもの
なお、対象となる支出に費用分担契約(CCA)に基づく支払いが含まれるかどうかは明確でない。

優遇税率 - 優遇税率は未定である。政府は、この制度を競争力のあるものにする必要性を認識しており、香港の既存の優遇税率(主に8.25%)や、国外のパテントボックス制度を参考にする予定である。政府は、この点に関する利害関係者の意見を募集した。

損失控除の取り扱い - 異なる税率が適用される損失の相互控除に関する現行の規定と同様の仕組みが採用される。これにより、パテントボックス制度の恩典を受ける所得に関連して発生した損失は、この制度に規定されている税率以外の税率(例えば、標準税率16.5%)が適用される利得からの控除が認められる(ただし、控除可能な損失額は、税率差を考慮して調整される)。

記録保存の要件 - ネクサスアプローチにおける重要な要件の一つは、研究開発支出と適格IP資産から生ずる所得の記録保存である。これには、例えば、当該所得が適格IP所得であることを立証するのに十分な情報や、当該所得に係る適格IP資産の詳細を含む、詳細な記録保管メカニズムが必要である。なお、経過措置として、OECDのガイドラインに沿って、納税者は、3年移動平均の適格支出と総支出の比率を適用できる(経過措置期間終了後は、3年平均から累積比率への変更が必要)。

実施スケジュール - 本コンサルテーションペーパーには、パテントボックス制度の施行日は明記されていないが、政府は、2024年前半に関連改正法案を法制審議会に提出する予定である。

なお、この新しい提案は、2018年に導入された適格R&D支出に係る追加控除(200%/300%)制度を補完する重要なものである。

出典:PwC Hong Kong Tax, News Flash
「月刊 国際税務」2023年11月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修