2021年度予算案(インド)

2021-04-05

財務大臣はこの度、COVID-19による厳しい経済環境を背景に、2021-22年度予算案(Union Budget)を提示した。これまでのインドの税制改正措置を考慮して、本予算案では、全体的に同様の税構造を維持しているが、税の安定性(tax certainty)の達成、税務執行の円滑化、および税務紛争の減少を目的とした、いくつかの措置が含まれている。多国籍企業は、事前ルーリングのための新たな委員会(board)の創設規定を含め、本予算案の主要提案が事業に与える影響を分析する必要がある。

ビジネスのしやすさ(ease of doing business)は、依然として、政府の優先事項である。本予算案では、引き続き投資を奨励しており、公共部門の事業の民営化と、インフラ資産の収益化(monetization)の計画が含まれている。本予算の主要税提案には、以下が含まれる。本予算案は、両院が可決し、大統領の承認(Presidential assent)が得られると、発効する。

法人(companies)、有限責任パートナーシップ、および企業(firm)の税率

法人(国内および外国)、企業、および有限責任パートナーシップの所得税率(付加税等(surcharge and cess)を含め)は、ミニマム代替税率を含め、変更はない。

外国のポートフォリオ投資家(FPIs)に支払われる利子・配当に係る源泉税率の軽減

本予算案では、FPIsに支払われる利子・配当の源泉税率は、関連租税条約の規定税率、または1961年インド所得税法に規定する税率の、いずれか、FPIsにより有利な方に従うことを提案している。

以前は、FPIsに支払われる利子・配当の源泉税率は、20%と規定されていた。しかしながら、本予算案では、文書化を条件として、FPIsがより低い条約税率を適用できることを提案している。

デジタル税 – 平衡税(equalization levy)規定の合理化

非居住者が受領する対価に課される平衡税に関する既存規定を明確化するため、本予算案では、以下の改正を提案している。

  • 租税条約および法律に基づく技術サービスのロイヤルティー、または料金(fees)として課税される支払いは、平衡税の対象にならない
  • 平衡税の対象となる電子商取引の供給/サービスから非居住者が得た所得は、2020年4月1日から法人所得税が免除とされている(以前の発効日は2021年4月1日)
  • 「商品のオンライン販売(online sale of goods)」および「サービスのオンライン提供(online provision of services)」について提案された定義には、さまざまなオンライン活動、つまり、オファーの受け入れ、注文(purchase orders)の発出と受け入れ、および対価の支払い、が含まれる
  • 電子商取引の供給/サービスには、商品が所有されていない場合、または電子商取引事業者によってサービスが提供されていない場合であっても、商品の販売およびサービスの提供に対する対価が含まれる

ミニマム代替税(MAT)規定の合理化

本予算案では、MAT計算上、15%未満の税率で課税される外国法人の配当所得は、会計上の利得(book profits)から除外されることを提案している。同様に、配当所得を得ている一方で、外国法人が負担した支出は、会計上の利得の計算上加算される。さらに、過年度の所得が、事前確認(APA)または第二次調整(secondary adjustment)に従ってある会計年度で課税される場合、過年度の会計上の利得も、MAT上調整される。

精査調査通知(scrutiny audit notice)を発行するための期間制限の短縮

本予算案では、以下を提案している。

  • 精査調査通知を発行する期限が、納税申告書が提出された課税年度の終了から3か月(6か月ではなく)に短縮される
  • 所得逃れ(income-escaping)の調査通知の発行期限が、課税年度終了から4年(7年ではなく)に短縮される。ただし、重大な脱税(serious tax evasion)の場合は、課税年度終了から11年まで、調査通知が発行される可能性がある
  • 精査調査を完了するための期限を、課税年度終了から21か月(24か月ではなく)に短縮する

税務執行手続きの簡素化

申告所得が5百万ルピー(約7万米ドル)以下、紛争額が百万ルピー(約1万4千米ドル)以下の小規模納税者のため、非対面で紛争を解決する紛争解決委員会の創設が提案されている。

本予算ではまた、事前ルーリング方法をより効果的かつ効率的にするために(そして既存の権限を置き換えるために)、事前ルーリングのための1つ以上の委員会(Boards)を創設することを提案している。

物品(goods)購入に係る源泉徴収

本予算案では、売上高が1億ルピー(約130万米ドル)超で、インド居住者である販売者から5百万ルピー(約7万米ドル)超の価値の物品を購入する者の物品購入に、0.1%の源泉税を適用することを求める新たなセクションを提案している。居住者の売り手がインドの税務ID(permanent account number)を提出しなかった場合、源泉税率は5%になる。

無形資産からののれん(goodwill)の除外

本予算案では、事業(business)/専門的職業(profession)ののれんを無形資産の定義から除外することを提案しており、課税事業所得の計算上、このようなのれんの償却が認められないこととなる。

前払税(advance tax)の配当所得への不適用

納税者は、四半期毎の前払い納税を計算する際、配当所得の見積もりについて、実務上の困難に直面している。これに対処するため、本予算では、配当所得の見積もり誤りから生じる前払税の不足に対して、利子の支払いがなくなることを提案している。本提案の恩典を受けるためには、配当の支払い/決議(declaration)を受け、該当する前払い税をその後分割で支払う必要があろう。

「Slump sale」(継続企業としての事業譲渡)にすべての種類の移転(transfer)を包含

本予算案では、slump saleの範囲を拡大し、あらゆる手段(事業と証券(securities)の交換を含む)で行われる、すべての種類の移転をカバーするよう提案している。現在の定義では、「売買(sale)」を通じた移転のみカバーしている。

第2段階控訴プロセス(所得税控訴裁判所(income-tax appellate tribunal))の非対面手続き

本予算案では、租税裁判所(第2段階控訴)での非対面の控訴手続導入を提案している。これは、以前導入された非対面の調査、第1段階の異議申し立てプロセス、およびペナルティスキームに加わるものである。

オフショアファンドの国際金融サービスセンター(IFSC)への再本拠地化(redomiciliation)に係る免税

IFSC規定は、海外の金融サービス事業体がインドに拠点を設け、現在はインド国外で行われている金融サービス取引を行うことを促し、これを可能とするようにするために導入された(IFSCユニットは非居住者として取り扱われる)。本予算案では、2023年3月31日より前のIFSCへの再本拠地化に伴うオフショアファンド(元のファンド)から、新ファンド(resultant fund)への資本資産(capital assets)の譲渡に係るキャピタルゲイン税を免除することを提案している。本予算案ではまた、新ファンドの株式/ユニットの対価としての、元のファンドに保有されている株式/ユニットの譲渡に係るキャピタルゲイン税を免除することとなろう。本予算案では、新ファンドによるインド法人の株式の譲渡から生じるキャピタルゲイン(再拠点化による取得)について、そのようなキャピタルゲインが元々再拠点化前には免除となっていた場合には、免除することを提案している。本予算案ではまた、このようなIFSCへの再拠点化により、議決権付き受益持分に変更があっても、インド法人の繰越欠損損失を認めることを提案している。

非居住者へのその他の免除

本予算案では、非居住者に以下の免除規定を提案している。

  • 2024年3月31日以前に運用を開始したIFSCのユニットによって支払われた航空機リースロイヤルティに係る外国企業の所得は、税免除となる。
  • (2024年3月31日より前に運用を開始した)IFSCのユニットに生じる、航空機または航空機エンジンの譲渡から生じる所得は、税免除となる。

出典:PwC, Tax Insights
「月刊 国際税務」 2021年4月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修