2022年財政法案(アイルランド)

2023-01-12

2022年10月20日、財務省は、9月27日に予算の一部として公表された措置の法制化に係る2022年財政法案を公表した。改正は主に個人税と生活費にフォーカスしているが、本法案にはR&D税額控除の改正規定その他の特定の事業関係税措置が含まれている。本法案は、年内の署名を見込んでいる。

税額控除

本法案では、R&D税額控除を改正し、新しい国際的な定義に沿うようにし、同税額控除を第2の柱における適格還付可能税額控除の範囲に含めることを目的としている。以下が主な改正事項である。

  • 本新制度は、2022年1月1日以後開始会計期間に遡及して導入見込みである。移行規定の適用により、2022年1月1日以後、遅くとも2022年12月31日までに開始する会計期間について、法人は現行制度に基づく請求が可能である(実質1年の移行期間)。また、2022年1月1日前開始会計期間から繰り越されたR&D税額控除の分割払い(つまり、2回目、3回目の分割払い)について、2022年1月1日以後開始会計期間での請求を認めている(現行制度で繰り越された分割払いを2022年の確定申告で処理可)。
  • R&D税額控除の還付申請について、新たに3年間の定額払い制度が導入されよう。本新制度では、法人はR&D税額控除を現金で定型的に3回に分けて還付申請できる。また、各支払額の一部を法人の他の税債務と相殺可能である。
  • R&D税額控除の上限は適用されないことになろう。
  • 法人は、R&D税額控除のうち、少なくとも最初の25,000ユーロを初年度に支払うよう請求可能である。
  • 法人は、取引開始前の支出について、取引開始後3年間にわたり還付税額控除を申請できよう。

Knowledge Development Box(KDB)制度は、2023年1月1日以後開始会計期間から終了見込みとなっているが、本法案によれば、4年間延長されよう。KDBは、国際的な税環境の変化、特にOECDの第2の柱の合意の一部分である租税条約の特典否認ルール(STTR)の影響を受けることになる。本合意の実施に備えるため、KDBの実効税率は10%に引き上げられよう。本改正は、大臣による開始命令が必要となる。

その他の措置

  • 本法案では、特許権売却に係る課税関係法の技術的改正を規定している。本改正により、特許や出願中特許の完全売却は特許権の売却ではなく、33%のキャピタルゲイン税が課されることが確認された(特許権の売却は25%の法人税)。さらに、特許権のグループ内移転について、特許のグループ内移転同様の救済措置が適用されるよう改正が行われる。
  • 利子制限規定(ILR)について、税務当局が以前公表したガイダンスと本規定を整合させるため、様々な細かい技術的改正が行われた。これらの改正には、新旧混合負債に係る返済の取り扱いの明確化(先入先出法の適用)がある。その他の改正点として、ILR規定で制限された利子の繰り越しと、特定無形資産の提供に係る利子との関係がある(Section 291A(資本控除)関連)。
  • 本法案では、関連貨幣項目の定義に技術的改正を加え、事業法人において、取引債務者や取引銀行口座に関して生じる外国為替差損益は、事業所得の計算に含まれることを確認している。
  • 移転価格ガイドラインの定義が改正され、OECD移転価格ガイドライン2022年版を参照している。

以上のほか、昨年の財政法で導入された、デジタルプラットフォーム事業者に対するEUの新しい税透明性規定(DAC7)のアイルランド法への取り込みに係る改正や、アイルランド赴任者に係る所得税の軽減措置(SARP)の3年延長・年間所得下限の100,000ユーロへの引き上げなどがある。

出典:PwC, Tax Insights
「月刊 国際税務」2022年12月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修