2023年予算案(アイルランド)

2022-12-07

2022年9月27日、2023年予算案が公表された。主要な措置には、以下が含まれる。

個人税

主な措置として、独身者に係る標準税率(注1)適用範囲の36,800ユーロから40,000ユーロへの引き上げが含まれる。また、一定の税額控除等の拡大もある。なお、雇用者社会保険料(PRSI)の税率引き上げは含まれていないが、後日、政府の個人税制改革に係る中期ロードマップの一部として実施される可能性がある。このほか、中小事業者向けの支援措置(新設・拡充)もある。

法人税

第2の柱実施に係る進行中の作業と合わせて、テリトリアル制度(資本参加免税)導入の選択肢を真剣に検討するとしている(本誌2022年10月号参照)。また、2024年12月31日に期限切れとなる税額控除制度(Film Relief credit)の2028年12月まで延長や、一定のテレビ番組制作部門の支援に焦点を当てた見直しもある。2022年12月31日に期限切れとなるKnowledge Development Box(KDB)は、4年間延長し、新たな実効税率を10%(現行6.25%)とするとしている。金融サービス関連では、Section 110制度(注2)の見直しと、ファンド・生命保険・その他の投資商品への課税を検討するワーキンググループの設置を確認している。また、REITやIREF(Irish Real Estate Fund)制度の見直しも公表されており、2024年予算措置での検討が見込まれる。銀行税(Bank Levy)もさらに1年延長(2023年末まで)されているが、長期的な課税のあり方については、リテールバンキングに係る見直し(Retail Banking Review)公表後に検討される見通しである。

研究開発(R&D)税制

R&D税制を国際的な税制動向に対応させるため、その運用に係る改正案が公表された。現在、法人は、R&D税額控除について、3年間にわたる還付可能な税額控除適用前に、当期・前期の法人税額から控除する必要がある。本改正案では、還付可能R&D税額控除に係る上限を撤廃し、3年固定期間での全額支払いとする。これにより、納税者は、R&D税額控除の現金での還付、またはこの3年間での租税債務からの税額控除を柔軟に選択できるようになる。本改正により、アイルランドのR&D税制を最近の国際的な税務動向に合わせる(R&D税額控除制度に対するアイルランドのコミットメントを示す)ことになる。なお、本予算案によれば、中小企業については、R&D税額控除に係る最初の25,000ユーロまでについて、初年度に還付可能となる。これらの改正の詳細は財政法案に含まれる予定である。

その他の税制改正

以上のほか、住宅開発の促進や民間賃貸市場の支援に重点を置いた多くの施策も公表されている。また、気候変動関連の改正案もある。超過利潤税(‘windfall’ tax)について、政府はEUレベルでの進展をモニターし、EUでの対策が実現しない場合、国内で本税の措置を進めるとしている。更に、VAT(付加価値税)や物品税関連の改正(電気・ガスに係るVAT9%軽減税率の適用を2023年2月28日まで延長、2023年1月1日より新聞のVAT税率を9%から0%に軽減など)もある。

(注1)アイルランドの所得税率は、20%(標準税率)と40%の2区分である(Source: PwC, Worldwide Tax Summaries)。

(注2)Section 110は、アイルランドのストラクチャード・ファイナンス制度であり、一定の条件を満たすことで、税務上中立(neutral tax position)になる。Section 110法人は、適格資産を保有・管理するアイルランド居住の特別目的ヴィークル(SPV)である。タックスヘイブンや透明性に対する国際的な関心が高まる中、本制度はオンショア投資のプラットフォームとして多く利用されている。

出典:PwC Ireland website
「月刊 国際税務」2022年11月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修