税務戦略グループ(TSG)文書の公表(アイルランド)

2022-11-10

2022年8月10日、予算に先立って公表される年次の税務戦略グループ(TSG)文書が公表された。TSGは政府高官や政治顧問で構成され、税制政策を担当する財務省の事務次官補エマ・カニンガム氏が議長を務めている。TSG は意思決定機関ではなく、本文書は、予算編成プロセスで検討されるオプションと論点の単なるリストである。法人税関連では、以下の重要ポイントがある。

本文書では、法人税の好調な実績(2021年の純税収は153.2億ユーロで、総税収の22.6%を占める)や、国際競争と企業に確実性を与える魅力的で安定的かつ透明性のある法人税制を規定するという目的から、12.5%の税率の重要性を指摘している。また、特定の税額控除制度を見直すとしている。

  • 研究開発税額控除は、同省のガイドライン(Tax Expenditure Guidelines)に沿って評価されている。2022年初めにコンサルテーション(本誌2022年7月号参照)が行われ、その回答や税額控除の見直しに関するより詳細な分析が2022年後半に公表される見込みである。本文書では、同控除が第2の柱上の「適格」還付税額控除として扱われるために必要なこと、また、米国の外国税額控除規則(本誌2022年3月号参照)の対象となるために必要なことを示している。
  • 2022年12月31日に期限切れとなるKnowledge Development Box(KDB)は、そのサンセット条項を前に、第2の柱の租税条約特典否認ルール(STTR)との関連で見直しが行われている。本制度について3つのオプションが検討されている。
  1. KDBを現行の実効税率6.25%で延長
  2. KDBは延長するが、実効税率を9%以上に引上げ
  3. 本制度を廃止
  • 2024年12月31日に期限切れとなる税額控除制度(Film Relief credit)も見直されている。

また、本文書では、2021年法人税ロードマップで取り上げられている項目や、継続中の項目の進捗状況も検討されている。

  • テリトリアル制度: テリトリアル制度への移行を検討中(2022年前半にコンサルテーション実施)であり、その焦点は資本参加免税や支店免税であるとしている(完全なテリトリアル免税は考えていない)。また、第2の柱のグローバルミニマム税率の導入で、アイルランド・グローバル税制にBEPS対抗措置が追加導入されるとしている。したがって、仮にテリトリアル制度への移行が決定した場合、現在2023年財政法案で見込まれているGloBEルール導入と並行して進めることを意図している。
  • 利子制限ルール: 長期公共インフラ免除の適用を公正に評価するためのプロセスが提案されている。しかし、その判断基準は技術的であり、国家補助ルール違反を判断するためには高度な専門知識が必要である。
  • 国際相互支援法案(International Mutual Assistance Bill): 本法案は間もなく政府に提出見込みとしている。
  • EUの非協力的法域リスト上の国・地域への対外支払いおよび追加的な防御措置: 本文書では、2021年12月に対外支払いに係るコンサルテーションを開催し、引き続き検討中としている。また、本リストの掲載国・地域について、必要に応じた追加的制限措置の導入を検討中としている。これらの措置には、アイルランドから掲載国・地域への相当な支払いについて、控除否認や源泉税の賦課などが含まれる可能性がある。

以上のほか、国際税務の動向として以下も含まれている。

  • 第1の柱と第2の柱: 本文書では、これまでのプロジェクトの進捗状況とアイルランドの関与についてハイレベルな概要が記載されている(本誌2022年7月号も参照)。また、2023年にGloBEルールをアイルランドの税法に統合するため進行中の作業についても言及している。なお、このOECD合意により、現時点で年間20億ユーロ程度のコスト(税収減)を見込んでいるが、この合意は国際課税の枠組に安定性をもたらし、投資決定に重要であるとしている。
  • EU税制の動向: 本文書では、EU委員会が提案した、ペーパーカンパニー(shell companies)の利用に関連するアグレッシブなタックスプランニングに対処するための指令(ATAD 3)(本誌2021年7月号、2022年2月号参照)、資本と負債のバイアス削減に係る控除(DEBRA)(本誌2021年7月号、2022年7月号参照)、BEFIT(欧州でのビジネス:所得課税の枠組み)(本誌2021年7月号参照)の立法案について、またこれらに係る理事会の全会一致の承認の必要性について言及している。このほか、税制上のEU非協力的法域リスト年2回の更新や、技術発展に歩調を合わせたEUルールの伸展によるDAC8(暗号資産と電子マネー)の改正などが近いうちになされるとしている。いずれも2022年後半の見込みである。

その他の留意点として以下がある。

  • Apple社の国家補助訴訟(143億ユーロの還付案件): 本文書では、同訴訟の進捗状況について概観している(本誌2020年9月号参照。その後2020年9月25日、欧州委員会(EC)は欧州連合司法裁判所(CJEU)に上訴)。しかし、ECの上訴について欧州連合司法裁判所(CJEU)による審理期日が未設定で、2022年中の新たな進展はない。
  • デジタルゲームに係る税額控除 - 第 481A 条: デジタルゲームに係る税額控除の導入は、欧州委員会の国家補助に係る承認、開始命令が必要であり、準拠のためにいくつかの細かい技術的な修正が必要である。
  • 非ユーロ通貨取引: 非ユーロ通貨(特に、英ポンドと米ドルを念頭)の変動に係る取引の特例的税務取扱い(キャピタルゲイン税(33%)ではなく、法人税(12.5%/25%)の対象)を、i) 取引債務者(現在は、取引債権者のみ)、およびii) 取引銀行口座に保有する非ユーロ通貨(現在は、非ユーロ現金のみ)に拡大することに関連して、TSGから意見を求める。

出典:PwC Ireland website
「月刊 国際税務」2022年10月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修