2021年一括税法案(オランダ)

2020-11-05

2020年9月15日、特定のその他の税制上の措置とともに、2021年一括税法案が提示された。多国籍企業にとって特に影響があるものとして、法人所得税(CIT)率の改正、利子控除制限規定の明確化、清算損制度の制限、およびオランダ投資に係る賃金税(wage tax)の減額(discount)の公表、が含まれる。さらに、議会では、2022年1月1日発効となる欠損金利用規定の改正が提案されており、税務上の調整(fiscal correction)を独立企業原則に基づくものにより合わせることを意図した追加法の提案を2021年に予定している。2021年税制改正案は、議会で審議中であり、12月前半に第一院(Senate)での可決が見込まれる。審議過程で、本法案にいくつか若干の修正が加えられる可能性がある。

法人所得税率の改正

20万ユーロまでの利得の税率は、16.5%から15%に引き下げられる。この最初の所得区分の閾値額は、20万ユーロから39.5万ユーロに、2段階で引き上げられる(2021年から24.5万ユーロ、2022年から39.5万ユーロ)。

以前公表された、最高所得区分の法人所得税率の25%から21.7%への引き下げは、実施されない。

オランダのイノベーションボックスの実効税率は、2021年より7%から9%に引き上げられる。

利子控除制限規定

  • 現在、特定の税源浸食取引(base-eroding transactions)に関して、関連事業体からの借入に係る利子控除(費用および為替差損益を含む)は、特定利子控除制限規定(article 10a)で制限される可能性がある。
  •  マイナス利子/為替差益となる借入は、有利になる可能性がある。現在の本規定適用上、相殺免除(net exemption; 年間のすべての適格負債に係るマイナス利子/為替差益の額が、プラスの利子/コスト/為替差損の額を超える場合)になる可能性がある。
  • 本改正案では、各適格借入について、特定利子控除により、より低い純利得(lower net profit)とはならないこととなっている。したがって、各借入について、納税者は、これらの借入に係るマイナス利子/為替差益の額が、プラスの利子/為替差損の額を超えるかどうか、判定しなければならない。超える場合、本規定適用上、超える額の免除とはなり得ない。

ハイブリッドミスマッチ、および30%EBITDA規定の明確化

  • 現在の一般的アーニングストリッピング規定(article 15b)とオランダのATADⅡ実施(ハイブリッド防止規定)は重複する可能性がある。本改正案では、重複する場合、ハイブリッド防止規定を、アーニングストリッピング規定に優先して適用すべきことを明確化する。その結果、利子控除がハイブリッド防止規定で制限される場合、アーニングストリッピング規定での追加的な制限はない。
  • さらに、本文書では、ハイブリッド防止規定に含まれる「二重所得算入規定(dual inclusion income rule)」が、オランダ法に含まれるその他の利子控除制限規定とどのように相互作用するか、明確にする。

清算損制度の制限

  • 現行規定では、資本参加免除(participation exemption)規定および国外源泉所得免除(object exemption)規定により、外国への資本参加および外国支店は、オランダ法人所得税が免除される可能性がある。一般に、資本参加および外国支店から生じる損失は、損金不算入であるが、撤退活動(ceasing activities)から損失が生じる場合、このような損失は、清算損規定(資本参加は、「liquidatieverliesregeling」、外国支店は、「stakingsverliesregeling」) で損金算入ができる可能性がある。
  • 本法案では、5百万ユーロを超えるこれらの損失の損金算入は制限され、当該損失が以下の追加要件を満たす場合のみ、損金算入可能となる。

(i)             適格持分(interest)(決定的支配(decisive control))

(ii)            EU/EEA(欧州経済地域)の居住事業体

(iii)           EU/EEAの居住事業体の活動終止/当該決定から3年以内の清算(liquidation)結了。なお、外国の恒久的施設の撤退損失は、EU/EEAの状況でのみ、損金算入可能となる。

本新規定は、2021年1月1日の発効が提案されている(2021年1月1日前に発生した清算損(deferred liquidation losses)には3年の経過措置)。

COVID-19準備金(reserve)

法人が、2020年にオランダ政府が制定したロックダウン措置に直接関連して損失を被った場合には、2019年の申告でCOVID-19準備金の積立が可能である(翌期取崩し)。

炭素税、持続可能税(EB/ODE)、およびETS間接排出コスト補助制度

  • 工業生産および廃棄物焼却に係る炭素税(national carbon dioxide levy)が2021年に導入される(Industry Carbon Tax Act [Wet CO₂-heffing industrie])。本税は、EU-ETS(欧州連合内排出量取引制度)に係る既存制度と並行して導入される。2021年予算では、炭素税に加え、(持続可能)エネルギー税(EB/ODE)の改正も規定される。ETS間接排出コスト補助制度も本年で終了する。
  • 財務省によると、本税は、235法人のみに適用される。

その他の公表措置

予算書(Budget Day documents)の中で、連立政権(coalition)は、2020年または2021年に追加法案を出す考えも公表した。追加法案には、以下が含まれる見込みである。

  • 2021年一括法案では、新たな暫定投資減額(investment discount)を含めるよう改正される。投資・雇用創出を行う法人は、雇用関連投資減額を受け、賃金税の軽減が可能となる。本減額は、投資の一定割合である。
  • 欠損金の繰越し・繰戻し規定が2022年に改正され、繰越欠損金の利用が無期限になる可能性がある(現在は、7年)。ただし、年間の利用は、百万ユーロ、または、百万ユーロ超の課税利得の50%(最初の百万ユーロは常に繰越欠損金と相殺可)、に制限される。
  • 税務調整(fiscal correction)の取扱いを独立企業原則により整合させることを意図した法案が、2021年春に出される見込みである。これは、他の法域が、対応的調整(corresponding correction)の相当額を課税ベースに含めない場合には、みなし控除(deemed deduction)を否認することを意図している。

 

出典: PwC, Tax Insights
「月刊 国際税務」 2020年11月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修