第2の柱・グローバル・ミニマム税制に関する執行ガイダンスを公表(OECD)

2023-05-11

2023年2月2日、OECDは、第2の柱・グローバル税源浸食防止規定(GloBEルール)に関する執行ガイダンス(Administrative Guidance)を公表した。本ガイダンスは、OECD/G20のBEPS包摂的枠組み(IF)により承認された(公開協議の対象外)。本ガイダンスでは、主にGloBEルールの下でこれまで対処されていなかった一定の分野に焦点を当てており、IFメンバーによる早急な明確化・簡素化が最も必要とされる広範な課題に対処している。本ガイダンスは、2022年3月公表のオリジナル版に代わり、今年後半に公表予定のコメンタリー・事例集の改訂版に組み込まれる見込みである。OECDは、本ガイダンスが、IFメンバーがGloBE実施フレームワークの一部として示すことをコミットしたGloBEルールに係る最終作業部分とする一方、GloBEルールが引き続き協調的に実施・適用されるよう、IFは追加ガイダンスを継続的に公表する予定であるとしている。なお、本ガイダンスの公表に先立ち、OECDは、2022年12月20日、第2の柱・適用免除基準(セーフハーバー)と罰則等の免除に関するガイダンスを公表している(本誌2023年2月号参照)。本ガイダンスでは、米国のミニマム税(GILTI)を、GloBEルール上のCFC税制と位置づけている。また、GILTIなどの(国別でない)CFC税制(Blended CFC Tax Regime)の機械的な(税額)配分方式を定めており、適格国内ミニマムトップアップ税(QDMTT)、(一部の)税額控除やインセンティブの取扱いに関するガイダンスを示している。

会計の動向(FASB・IASB)

2023年2月1日、米国財務会計基準審議会(FASB)のスタッフは、GloBEトップアップ税が、米国会計基準で規定する代替ミニマム税になるとの考えを示した。したがって、第2の柱の将来予想影響額に対して繰延税金は計上されず、トップアップ税額は発生期間で計上されることとなろう。このFASBスタッフの見解に先立ち、2023年1月9日、国際会計基準審議会(IASB)は、IAS第12号の改訂を提案する公開草案を公表した(2023年3月10日までコメント募集)。本改正案では、第2の柱のルール実施に伴う繰延税金について、一時的ではあるが強制的な例外処理を導入し、広範な開示要件を伴うとしている。(注)

(注)わが国の企業会計基準委員会(ASBJ)も、2023年2月8日、「グローバル・ミニマム課税に対応する法人税法の改正に係る税効果会計の適用に関する当面の取扱い(案)」を公表した(2023年3月3日までコメント募集)。税効果会計の適用にあたり、原則的な取扱いの適用を認めず、特例的な取扱いを一律に適用する(グローバル・ミニマム課税制度の影響を反映しない)ことを提案している。

QDMTT(モデルルール第10.1条関連)

2021年12月公表のGloBEルールでは、QDMTTにはあまり言及されていなかった。本ガイダンスでは、QDMTTの採用を決定した国・地域のために、QDMTTの特徴を定めている。本ガイダンスによると、ミニマム税は、GloBEルールおよびコメンタリーで規定される結果と整合する方法で実施・管理される(かつ、当該法域において、当該ルールに関連するいかなる恩典も提供されない)場合に限り、QDMTTとして適格となる。一般的に、QDMTTの計算には、GloBEルールと同様のデータポイントが必要となる。しかしながら、本ガイダンスでは、各国・地域におけるQDMTTのある程度の独自性は想定されるとしており、ミニマム税とGloBEルールの差異により制度上より大きな税負担増となる場合(例えば、加算調整となるペナルティーの閾値の引き下げにより)には、その税がQDMTTとして扱われることを妨げないとして、制度設計の柔軟性を許容している。本ガイダンスによると、QDMTTでは、実体基準の適用除外やデミニマス所得の除外規定を設ける必要はないとし、設ける場合には、GloBEルールで認められているこれらの除外規定より拡張的なものであってはならないとしている。本ガイダンスでは、IFが、QDMTTに係る情報収集・報告要件についてさらなるガイダンスを示すことを検討するとしているほか、QDMTTのセーフハーバー措置および各国・地域のQDMTTの評価に係る多国間レビュープロセスに取り組むとしている(注1)。なお、QDMTTであるためには、国内の構成事業体(CE)は、自国・地域のCFC税制における外国CEの所得に係る支払・未払税額を除外しなければならない(さらに、外国CFC/ハイブリッド事業体に対して課すすべての税額を除外することもできる)。また、一般的にCFC税制の下でCE所有者が支払った国内CEに配分可能なクロスボーダーの税額や、QDMTT実施国・地域内にある恒久的施設に配分可能な本店(main entity)の支払税額を除外しなければならない(注2)。これらにより、CFC税額の配分に係る複雑な計算の必要性が排除されるであろうとしている。なお、QDMTTは、小規模な多国籍企業グループや純国内企業グループにも適用可能である。

(注1)多国間で合意されたグローバルミニマムトップアップ課税ルールの国内での採用を評価するピアレビューを2023年中に開始し、最終的にその結果を公表する予定としている(Source: OECD Tax Talks No. 20)。

(注2)QDMTTは、IIR、UTPRおよびCFC税制の適用に優先する。QDMTTに係る各国・地域の外国税額控除の取扱いなどにも留意が必要となろう。

(国別でない)CFC税制(GILTIなど)に係る発生税額の配分(モデルルール第4.3.2条(c)関連)

本ガイダンスでは、米国GILTIを、GloBEルール上のCFC税制と位置づけており、GILTI を含む (国別でない)CFC税制に期間限定(2025年12月31日以前に開始する事業年度(2027年6月30日後に終了する事業年度は含まない))で適用される、簡易的なCFC税額配分方式(CFC税制で計算された所得、および国・地域のGloBE実効税率とCFC税制の適用低税率閾値との差を考慮して、CFC税額を配分)の概要を示している。

適用範囲に関するガイダンス(モデルルール第1.1条関連)

本ガイダンスでは、GloBEルールの適用範囲に関して明確化を行っている。金額の閾値の再設定について、本ガイダンスでは、GloBEルールに含まれるユーロ建ての閾値が、他の通貨で現地法に制定されている場合、毎年再設定すべきであると規定している(注)。使用するレートは、対象となる事業年度開始の日を含む暦年の前年12月の平均値であり、一般的には、欧州中央銀行のレートを適用する。

(注)令和5年度税制改正に係る法律案では、「特定多国籍企業グループ等」(法人税法第82条①四)の判定に係る閾値は、「七億五千万ユーロ…を財務省令で定めるところにより本邦通貨表示の金額に換算した金額」としている(なお、「特定多国籍企業グループ」(租税特別措置法第66条の4の4④三)の判定に係る閾値は、「千億円」を使用している)。

以上のほか、連結財務諸表の作成が要求されていない場合のみなし連結テスト(承認された財務会計基準の選択等)について、非公開企業や投資事業体に関するいくつかの設例を示しつつ、明確化している。また、多国籍企業グループのCEの個別財務諸表に繰延税金費用が計上されていない場合(企業内の会計実務や財務会計基準によるものを含む)、連結財務諸表上のCEに係る繰延税金費用が代わりに取り込まれるとしている。このほか、除外事業体の定義の明確化もある。モデルルール第1.5.2条(a)(事業活動テスト)について、事業体が行うすべての活動が除外事業体の定義の範囲内にある場合には、除外事業体と扱われるとしている。また、資金の借入れおよび資産の直接取得は、資産の保有または資金の投資とされ、事業活動テスト上、付随的と扱われないとしている。

所得および税額

本ガイダンスには、コストベースで会計処理されるグループ内取引への独立企業間価格の適用(モデルルール第6.3.1条関連)、投資ヘッジに係る除外資本損益・金融商品に係る除外配当・債務免除益・発生年金費用(モデルルール第3.2.1条関連)、欠損事業年度に係るトップアップ税の繰越控除(選択制)およびマイナスの調整後対象租税がある所得年度に係るトップアップ税額の繰越控除(モデルルール第4.1.5条・第5.2.1条関連)(注)、CFCの親会社で欠損の場合の代替的(例外的)な繰越外国税額控除/欠損のリキャプチャーによる外国税額控除(モデルルール第4.4.1条(e)関連)、資本損益を除外しない旨の国・地域別選択(5年間の有効期間中、所有者持分に係る損失をGloBE上取り込んでいた場合、当該所有者持分については取り消し不可)および適格所有者持分に係る適格フロースルー税恩典(持分法投資に関連する特定の税額控除に係る特別規定(一定の要件を満たすタックスエクイティストラクチャーに関しては、GloBE所得・損失および調整後対象租税には含めず、税額控除は調整後対象租税に加算する等))の導入(モデルルール第3.2.1条(c)関連)など、が含まれる。

(注)令和5年度税制改正案にも反映されている。

保険会社

保険会社に関連して、GloBEルール第7章に係る多くのアップデートがある。モデルルール第7.5.条(投資事業体の税の透明性に関する選択)および第7.6.条(分配時課税制度の選択)に関連して、第7.6条が保険投資事業体にも投資事業体同様に適用され得るとしている。このほか、第7.5.条の選択には相互保険会社が保有する保険投資事業体も含まれる旨、制限付きTier1資本はその他Tier1資本同様それらに係る分配が費用処理になる旨、Unit-Linked型保険事業などに係る除外配当・除外資本損益に対応する責任準備金の控除否認、(短期に限定しない)ポートフォリオ持分に係る除外配当の適用選択(簡素化の観点)、中間親事業体・部分的被保有親事業体(POPE)に保険投資事業体が含まれない旨などの明確化がある。

移行期間の論点

税額控除(モデルルール第9.1.1条関連)-本ガイダンスでは、移行年度前に発生した税額控除に係るGloBEルール上の取り扱いについてさらなる詳細を示しており、外国税額控除の繰越しなどの税額控除に関連する繰延税金は、(会計上認識されていなくても)GloBEルールの調整後対象租税の計算上考慮される可能性があることを明確にしている。これらの繰越税額控除は、最低税率と当該税額控除に係る税率のうち、低い方の税率で再計算しなければならない(繰越税額控除を再計算するための簡便な計算式はガイダンスに記載)。15%未満の税率で計上された繰延税金資産は、GloBE上変更されない。また、移行年度前に発生した還付可能な税額控除の還付等は、適格還付税額控除か非適格還付税額控除かに関わらず、調整後対象租税を減少させないとしている。
グループ内資産移転(モデルルール第9.1.3条関連)-グループ内資産移転について明確化している。一般的には、処分を行うCEが課税される場合において、取得したCEで原価(すなわち、公正価格)で計上された取引について、15%の税率または売却を行った国・地域の適用税率のうちいずれか低い方に基づく繰延税金資産を考慮できると規定している。公正価格で計上された取引の場合、公正価格と簿価の差額に最低税率を乗じた額の繰延税金資産を認識できるような場合に限り、計上された価格(すなわち、公正価格)を使用できるとしている。本ガイダンスでは、7つの設例を掲載している。

出典:PwC, Tax Insights
「月刊 国際税務」2023年4月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修