2021-09-06
2021年7月1日、OECDは、OECD/G20のBEPS包摂的枠組み(IF)の加盟139か国・地域のうち130か国・地域が、国際課税ルールを見直して、多国籍企業が事業を行う場所において公平な税を負担することを確保するための新たな2つの柱について合意し、「経済のデジタル化から生じる税務上の課題に対処するための2つの柱の解決策に関する声明」を公表した。2021年7月5日の時点で、131の加盟国・地域(注)がこれに同意している。
(注) 131か国・地域には、G7メンバー(カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、英国、米国)、ブラジル、中国、インドなどの新興経済国、およびスイス、シンガポール、バミューダ、ケイマン諸島、などが含まれる。ただし、アイルランド、ハンガリー、エストニア、バルバドス、ケニア、ナイジェリア、スリランカ、セントビンセントおよびグレナディーン諸島、はコンセンサスに署名していない。
IFでの主要合意点は以下の通りである。詳細な実施計画、および残りの課題については、2021年10月までに最終決定の見込みである。
対象範囲 - グローバルの売上が200億ユーロ超で、利益率(税引前利益/収益)が10%超の多国籍企業(MNE)が対象になる。利益A(Amount A)に係る税の安定性を含む実施の成功を条件として、売上の閾値は100億ユーロに引き下げられる見込みである(見直しは、合意の発効から7年後に開始され、1年以内に完了)。なお、採掘産業および規制された金融サービス業は除外される。
ネクサス - 対象となるMNEの市場国・地域での収益が100万ユーロ以上の場合に、当該国・地域への利益Aの配分を可能とするための特別目的のネクサスルールが設けられる(GDPが400億ユーロ未満の国・地域の場合、ネクサスルールは25万ユーロに設定)。この特別目的のネクサスルールは、国・地域が利益Aの配分の対象となるかどうかを判断するためにのみ適用される。また、コンプライアンスコスト(少額の売上の追跡を含む)は最小限に限定される。
市場国・地域への再配分比率 - 対象となるMNEの収益の10%を超える残余利益について、その20-30%が、収益ベースの配分キーを用いて、ネクサスのある市場国・地域に配分される。
収益に係るソースルール – 収益の源泉は、商品やサービスが使用または消費された最終市場国・地域となる。本原則の適用を容易にするために、特定のカテゴリーの取引に係る詳細なソースルールが設けられる。その適用に当たり、MNEには、特定の事実及び状況に基づき信頼できる方法を使用することが求められている。
課税ベースの決定 - 対象となるMNEの利益/損失は、若干の調整を加えた財務会計の所得を参照して決定される。なお、損失は繰り越される。
セグメンテーション - セグメンテーションは、財務会計で開示されたセグメント損益に基づいて、セグメントが対象範囲のルールを満たす例外的な状況でのみ生じる。
マーケティング・販売活動利益に係るセーフハーバー - 対象となるMNEの残余利益がすでに市場国・地域で課税されている場合、マーケティング・販売活動利益に係るセーフハーバーにより、利益Aを通じた市場国・地域への残余利益の配分は制限される。セーフハーバーの設計について、包括的範囲も考慮に入れて、さらなる作業が実施される。
二重課税の排除 - 市場国・地域に配分された利益に係る二重課税は、免除方式または税額控除方式を通じて排除される。租税債務を負担する事業体は、残余利益を獲得している事業体から選定される。
税の安定性 - 対象となるMNEは、紛争の未然防止・解決のメカニズムの恩恵を受ける。これにより、利益Aに関するすべての論点(移転価格や事業所得に係る紛争など)を含む利益Aに係る二重課税が、義務的・拘束的な方法で回避される。論点が利益Aに関連するかどうかに関する紛争は、実質的な紛争の未然防止・解決メカニズムを遅延させることなく、義務的・拘束的な方法で解決される。BEPS行動14のピアレビューの猶予が認められており、相互協議(MAP)紛争がないか低いレベルの開発途上国の利益Aに係る論点については、選択的な拘束的紛争解決メカニズムが検討される。
利益B(Amount B) - 国内での基本的なマーケティング・販売活動に対する独立企業原則の適用は、簡素化・合理化される。本作業は2022年末までに完了見込みである。
執行 - MNEが単一の事業体を介してプロセスを管理できるよう税務コンプライアンス(申告義務を含む)は合理化される。
一方的措置 - 一連の施策により、新たな国際課税ルールの適用と、デジタルサービス税(DST)およびその他の関連する類似の措置の撤廃が、適切に調整される。
施行 - 利益Aの実施に係る多国間協定が開発されて、2022年に署名のために開放され、利益Aは2023年に発効する見込みである。
全体的な設計 - 第2の柱は、以下で構成される。
ルールの位置づけ- GloBEルールは、共通アプローチの位置づけとなる(ミニマムスタンダードではない)。
対象範囲 – GloBEルールは、BEPS行動13(国別報告)の下で決定された7億5千万ユーロの閾値を満たすMNEに適用される。ただし、各国は、本閾値を満たしていない場合でも、自国に本拠を置くMNEにIIRを適用できる。
政府機関、国際機関、非営利組織、MNEグループの最終親事業体(UPE)である年金基金/投資基金、あるいはこれらの機関・組織・基金により使用される保有ヴィークルは、GloBEルールの対象外となる。
ルールの設計 - IIRでは、80%未満の株式保有について、分割所有ルールの適用があることを踏まえつつ、トップダウンアプローチに基づいてトップアップ税を配分する。UTPRでは、UPE国・地域に所在する事業体を含む軽課税の構成事業体に対するトップアップ税を、合意したメソドロジーに基づき配分する。
ETR(実効税率)の計算 – GloBEルールでは、対象租税に係る共通の定義および財務諸表上の所得(合意された期間差異調整後)を参照して決定された課税ベースを用いて、各国・地域ベースで計算される実効税率テストにより、トップアップ税を課すことになる。なお、現行の分配に係る税制との関連において、利益が3-4年以内に分配され、ミニマムレベル以上で課税されれば、トップアップ税の租税債務はないとされる。
ミニマム税率 - IIRおよびUTPRの目的で使用されるミニマム税率は15%以上、となる。
カーブアウト – GloBEルールでは、有形資産の簿価、および賃金の5%以上(5年間の移行期間では7.5%以上)を課税ベースから除外するカーブアウトを規定している(デミニマスの除外も規定)。
他の除外 – GloBEルールでは、OECDモデル租税条約における定義に基づく国際海運所得についても適用を除外している。
簡素化 – GloBEルールの執行を可能な限り確実なものにし、政策目的に沿わないコンプライアンスおよび運用コストを回避するため、本実施に当たってのフレームワークには、セーフハーバーや他のメカニズムが含まれている。
GILTIとの共存 - 第2の柱では、各国・地域ベースでミニマム税率を適用することが合意されており、この文脈において、公平な競争条件を確保するため、米国のGILTI税制がGloBEルールと共存するための条件が考慮される。
STTR - IFメンバーは、STTRが、開発途上国にとって第2の柱のコンセンサスに達する重要な部分であることを認識している。STTRのミニマム税率未満の名目法人税率を利子、ロイヤルティーおよび定義された他の支払いに対して適用しているIFメンバーは、開発途上国との二国間租税条約にSTTRを含めることについて要請があった場合には対応することとなろう。課税権は、ミニマム税率と支払いに課された税率との差に限定される。STTRのミニマム税率は7.5%から9%となる。
施行 - IFメンバーは施行計画に合意の上、計画を公表する。その後、第2の柱は2022年に法制化され、2023年に施行の見込みである。実施計画には、以下が含まれる。
本合意は、実体のある経済活動を行うMNEへの限定的な影響とともに堅固なグローバルのミニマム課税に対するIFメンバーの野心を示している。グローバルなミニマム実効税率とカーブアウトに直接的な関連があることが認められ、合意された枠組みの範囲内でこれらの設計要素についての最終決定を10月までに行うために議論を継続することへのコミットメントが含まれる。国際的な事業活動が初期段階にあるMNEをグローバルなミニマム課税の対象から除外することも検討される。
出典:OECD website
「月刊 国際税務」2021年8月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修