第2の柱 - STTRの実施に係る多国間協定の署名開放(OECD)

2024-01-23

2023年10月3日、OECDの包摂的枠組み(IF)は、第2の柱に関連する租税条約上の最低課税ルール(STTR)を実施するための多国間協定(MLI)の交渉が合意に至ったことを公表した。本STTR MLIの本文(テキスト)は、解説書、概要書、FAQとともに、OECDのウェブサイトに掲載されている。2023年10月2日現在、本MLIはすべての国・地域の署名が可能となっている(「BEPS防止措置実施条約」のように留保はできない)(注1)。本STTRは、二国間租税条約に基づく関連事業体間の特定のクロスボーダーの支払い(配当を除く)について、受入国の名目法人税率が9%未満(免税や税額控除などの課税ベースの軽減を調整後)である場合(注2)、源泉地国が追加税を課すことを認めるものである(2023年7月17日に公表されたモデル租税条約と付随コメンタリーについて、本誌2023年9月号参照)。なお、本STTR MLIは、先行する国連のルール(UN STTR)よりも適用範囲がはるかに狭い。UN STTRは適用状況の定義が明確でなく、規定の内容の多くは二国間交渉に委ねられている。今後は、2種類のSTTRが併存する可能性がある。本STTR MLIはIF参加国・地域の一部によって実施・適用されるほか、二国間租税条約の一部として実施・適用される可能性もある(現在、70超のIF参加国・地域が、本STTRを条約に含めることを求める資格を有している)。一方、発展途上国は二国間租税条約の一部にUN STTRの導入を求めることができるが、これはすべて二国間の交渉と合意が必要である(OECDのFAQの質問5では、IFにおける第2の柱STTRとUN STTRの関係(違い)について解説している)。STTRは、多国籍企業グループ内の国際投資に係る税引き後の損益に大きな影響を与える可能性があり、今後の各国・地域の動きを注視する必要があろう。なお、本STTR MLIは、早ければ、2024年8月1日以後開始課税年度から適用される可能性がある(2023年10月にOECDに批准書等寄託の場合)。

(注1)本STTR MLIは、既存の二国間(多国間)条約を修正するのではなく、STTRおよびその関連規定が、Annexとして加わることになる。Annex IにはSTTRが含まれる。Annex IIは純所得ベース以外の方法で計算する税を適用する場合、Annex IIIは法人所得税を所得稼得時でなく利益分配時に課税する場合に、それぞれ追加される。また、オプションとして、Annex IV(年金基金の定義を含める場合)およびAnnex V(発展途上国が先進国になった場合にSTTRを一時停止(逆の場合にはSTTRを開始)するためのサーキットブレーカー規定)がある。

(注2)二国間租税条約の他の規定で認められている場合、より低い税率が適用される可能性がある。

出典:PwC, Tax Policy Alert
「月刊 国際税務」2023年12月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修