第1の柱 - 利益Aの実施に係る多数国間条約文書を公表(OECD)

2024-01-23

2023年10月11日、OECDは、第1の柱・利益Aに関するガイダンスのパッケージ(多数国間条約(MLC)テキスト(7部53条9附属書から成る)とその解説文書、利益Aと利益A関連諸問題に係る税の安定性の適用に関する理解(UAC)、および第1の柱の経済的影響評価のアップデート)を公表した(注1)。未解決の課題が残されており、この段階では、各国・地域が本MLCに署名できる状況ではない(注2)。OECDはこれまでに、利益Aに関する9つの協議文書を公表している(第1回はレベニューソーシングとネクサス規定、第2回は課税ベースの決定に関する規定、第3回は一般的な適用範囲に関する規定、第4回は採掘産業の適用除外、第5回は規制金融サービスの適用除外、第6回と第7回は税の安定性、第8回はユニラテラルの措置に関するガイダンス、第9回は執行と税の安定性の側面を取り上げた)。これらの分野の多くで進展が見られる一方、重要な課題がいくつか残っており、多くの規定が非常に複雑なままであることに改めて留意が必要である。

本MLCには、利益Aの実施規定に加えて、すべての企業に係る既存のデジタルサービス税(DSTs)および関連する類似の措置(注3)を撤回すること、および将来にわたってそのような措置をとらないことを約束することを求める規定が含まれている。また、対象となる多国籍企業(MNEs)に対して重要な経済的プレゼンス(または類似のネクサス)条項を適用しないことへのコミットメントも求めている。適用範囲に関しては、若干の適用緩和がなされている。採掘業(鉱業など)や金融サービス業などでは、利益Aの規定の適用範囲外となる要件が簡素化された。防衛産業は、利益Aの規定の適用範囲から完全に除外される。また、新たに自立型の国内事業の免除が規定され、特定の国・地域から得られる財務的結果を除外することが認められる。マーケティング・販売活動利益に係るセーフハーバー(MDSH)および二重課税の除去において源泉税を考慮することについてはほぼ合意に達している一方、未解決の課題もあり、特定の国々が異議を唱えている。

約140のIF(包摂的枠組み)参加国は、本MLCのテキストを公表することには合意したものの、まだ正式署名の段階ではない。本MLCでは、レベニューソーシング、ネクサス、課税ベースなど多くの重要な技術的な分野の進展が確認できる一方、幾つかの特定の項目について、異なる見解を示している国(ブラジル、コロンビア、インド)がある。なお、米国では、本MLCに関する60日間(2023年10月11日から12月11日まで)の公開協議を実施しており、特にMLC全体のレビューにより特定される新たな課題、実施・執行上の課題(簡素化と技術的正確性のバランスを含む)、誤りへの対処やMLC規定の実施に係る技術的調整などについて利害関係者のコメントを募集している。

(注1)OECDは、上述の第1の柱・利益AのMLCとその関連文書の公表に合わせて、第2の柱・グローバルミニマム税の各国・地域への導入支援を目的とした「ミニマム税実施ハンドブック」も公表した。なお、第1の柱・利益B(基本的な販売マーケティング取引に係る移転価格)に関する追加ガイダンスの公表はない(IFで、2024年前半までに最終ガイダンスを示せるよう、公開協議後も作業を継続している)。

(注2)本MLCの発効(本MLCの第48条)に際しては、30以上の国・地域の批准書等の寄託が必要であるほか、各国・地域に割り当てられた全999ポイント(附属書I)中、600ポイント以上に相当する国・地域の批准等が必要になる。各国・地域への割り当てポイントは、米国486、中国94、香港88、フランス56、英国49、日本47、ドイツ45、スイス34、アイルランド21、インド・オランダ・スペイン各15、韓国11、ベルギー9、カナダ6、デンマーク4、メキシコ・サウジアラビア各2、その他の国・地域は0の合計999ポイントとなっており、米国の批准等が必須になるとみられる。

(注3)オーストリア、フランス、イタリア、スペイン、チュニジア、トルコ、英国のデジタルサービス税、およびインドのオンライン広告サービスに係る平衡税(Equalisation levy)・電子商取引に係る平衡税、の8か国9措置が挙げられている。

出典:PwC, Tax Policy Alert
「月刊 国際税務」2023年12月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修