法人税統計改訂版の一部として、2016年統合国別報告(CbCR)データを公表(OECD)

2020-09-05

2020年7月8日、OECDは、約4千の多国籍企業(MNEs)のグローバルタックスおよび経済活動に関して、国別報告(country-by-country reports; CbCRs)からの初の統合情報を含む、法人税統計報告の第2版を公表した。本情報では、26の法域にグループの本拠があり、世界100超の法域にわたって活動するグループ企業をカバーしており、匿名化された2016年の国別報告データを示している。

背景

OECDの年次法人税統計第2版には、異なる期間の様々なBEPS勧告(recommendations)の影響、およびその他の情報が含まれている。CbCRデータは2016年(導入初年度)のものである。その他のデータはより最近のものであり、2019年の被支配外国法人(controlled foreign company; CFC)規定、および利子制限規定の分析が含まれる。法定税率(statutory tax rates)の比較には2020年が含まれるが、将来の実効税率(effective tax rates)の計算は2019年のものである。

CbCRとその他のBEPS分析

関連するOECDのプレスリリースによると、本データには一定の限界があり、単年データからBEPS行動様式のトレンドを検出することは不可能であるが、この新たな統計には、多くの初期的見識(preliminary insights)が示されている。

  • 利得が報告される場所と、経済活動が行われる場所の間に不均衡があり、投資ハブ法域のMNEsは、従業者および有形資産の割合(share)に比べて、利得の割合が比較的高くなっている。
  • 従業員当たりの収入は、法定CIT(法人所得税)率がゼロの場合、および投資ハブ法域、においてより高くなる傾向がある。
  • 平均して、総収入に占める関連者収入の割合は、投資ハブ法域のMNEsにおいてより高い。
  • 事業活動の構成は、法域のグループ(jurisdiction groups)企業により異なり、投資ハブの重要な事業活動は、「株式その他の持分証券(equity instruments)の保有」である。

CbCRデータの解釈の限界

別の免責条項(disclaimer)セクションの中で、CbCRデータについて、7ページの補足説明(caveats)がある。主要論点のいくつかは、以下に関係する。

  1. 各法域は、共有する情報について、独自の守秘義務基準を適用した。これは、法域によって、異なる・一様でないレベルで統合されたCbCRsを提出したことを意味しており、したがって、これを比較し、さらにこのデータを統合することは困難である。
  2. 課税されるMNEsグループ内に免税事業体(tax-exempt entities)を含めることで、統合データの分析に影響が出ている。これら免税事業体は通常、収入・利得があり従業者がいるが、税金の支払い/未払いはない(いくつかの法域は、これらの免税事業体を除外した)。
  3. 統合CbCR統計を編集する中で、基礎となるデータ(microdata)に適用される手続き(clearing procedure)について、各法域で異なるアプローチを採用した。これは、各国がOECDに提出した集約データ(aggregation)により、各国比較を完全には行えない可能性があることを意味している。
  4. いくつかの法域では、MNEsに対して、構成事業体(constituent entities)からの配当(dividends)を税引前利得から除外するよう求めていたが、財務会計上利得として報告されている場合には、これらの金額を含めるよう求めた法域もあった。他の法域グループは、この点を開示しなかった(取扱い不明)。企業内配当(intra-company dividends)を「税引前利得(欠損)」に含めることで、人為的(artificially)に低い実効税率(ETRs)となりうる。
  5. 税務上いずれの居住者でもない事業体(いわゆる、無国籍事業体(stateless entities))の取扱いは、2020年の見直しの一環で議論中である。これは、利得の二重集計(double counting)になる可能性がある。
  6. MNEsは、CbCRについて、連結された法域情報(consolidated jurisdiction-wide information)ではなく、統合された法域情報(aggregate jurisdiction-wide information)の報告を求められている。
  7. CbCRテンプレートの未払所得税(当年)には、繰延税金/不確実な租税債務(uncertain tax liabilities)の引当を含めるべきではないとされている。

本免除条項では、二重集計の問題の規模予測は、「評価および修正が難しいため、BEPSの包摂的枠組み(Inclusive Framework on BEPS)では、これらの統計に基づくETRsといった率の計算に対して明確に注意を促す」と結論付けている。「これらの統計を利用する者は、これらの統計分析を利用する前に、少なくとも、CbCR統計を、他の関連データソース(例えば、納税者の基礎データ(microdata)/企業レベルの財務統計)に照らして評価(benchmark)するために、感度分析(sensitivity analysis)を行うべきである。」

その他の重要なデータ

法人税統計第2版によると、法人所得税が総税収に占める割合は、2000年の12.1%に対して、2017年は93法域平均で14.6%と報告されている。法人税収が総税収に占める割合は、開発途上国においてより高くなっており、その内訳は、アフリカ18.6%、ラテンアメリカ・カリブ15.5%となっている(OECDは9.3%)。OECDの法人所得税収の総税収に対する割合は、2017年に9.3%であり、2016年の8%、2015年の8.8%より高い。

本第2版では、他の重要な側面として、以下をカバーしている。

  • 法定法人所得税率(Statutory corporate income tax rates): OECD法域の説明文書(explanatory annex)、およびOECD以外の法域の説明文書のいずれにも、特定法域の法定法人所得税率の更なる情報がある。
  • 将来の実効税率(Forward-looking effective tax rates): ETRsの算定手法は、OECD Taxation Working Paper No. 38(Hanappi, 2018)で詳細に説明されている(Devereux、Griffithが開発した理論モデル(1999, 2003)に基づく)。
  • R&D税恩典(R&D tax incentives): 2つのR&D税恩典の指標の基になる手法に関する情報は、2つの報告書で入手できる。
  • 知的財産税制(Intellectual property regimes): 有害税制フォーラム(Forum on Harmful Tax Practices)がピアレビューのために優遇税制(preferential regimes) について集めた情報を集約している。
  • CFC規定(Controlled Foreign Company rules): 49法域について入手できる。
  • 利子制限規定(Interest Limitation rules): 67法域について入手できる。

 

出典:PwC, Tax Policy Alert
「月刊 国際税務」 2020年9月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修