OECD、G20財務大臣・中央銀行総裁会議に報告書を提出、第1の柱と第2の柱の主要文書を公表(OECD)

2023-10-17

2023年7月17日、OECD/G20のBEPS包摂的枠組み(IF)は、7月17、18日開催のG20財務大臣・中央銀行総裁会議に向けて、第1の柱と第2の柱に関連する4つの重要文書と進捗報告書を公表した。これらの文書は、前週のIF全体会合とその結果公表された「成果声明」(第1の柱の利益A・利益B、および第2の柱の租税条約上の最低課税ルール(STTR)の状況とスケジュールに関する最新情報を提示)(7月11日)(注)に続くものである。本文書には、以下が含まれる。

  • G20 財務大臣・中央銀行総裁に対する OECD 事務総長の税務関係報告書
  • 第1の柱 - 利益Bに関する公開協議文書
  • 第2の柱 - STTR
  • 第2の柱 - GloBE情報申告書
  • 第2の柱 - 執行ガイダンス(適格国内ミニマムトップアップ税(QDMTT)を導入する国・地域に係る恒久的なセーフハーバー、および、2025年末以前に開始する会計年度について軽課税所得ルール(UTPR)の適用を免除する新たな経過的セーフハーバーを含む)

第1の柱 - 利益B - OECDは、特定の基本的な卸売マーケティング・販売活動に係る移転価格の簡素化を目的とした第1の柱・利益Bに関する追加の公開協議文書を公表した(2023年9月1日までコメント募集。なお、前回の公開協議文書については、本誌2023年2月号参照)。OECDはまた、関係者が利益Bを理解するのに役立つよう、「利益Bのあらまし」と題する簡潔な概要文書も公表した。本協議文書では、利益Bの設計要素を概説し、以下の更なる作業が必要な側面を特定している。

  • ベースラインとなる(基本的な)販売活動の特定の際、定量的アプローチと定性的アプローチの適切なバランスを確保すること
  • 価格設定の枠組みとその適用の妥当性の判断
  • 特定の国・地域におけるローカルデータベースを利用した利益Bの適用基準の特定

本文書では、定性的・定量的閾値に基づく2つの代替的なスコーピング基準(AおよびB)が示されている。代替案Aでは、ベースライン以外の寄与分を特定・除外するための個別の定性的基準は必要ないが、代替案Bでは必要となる。各国は、代替案について意見が分かれているとみられる。

2023年7月11日の成果声明にあるように、IFは2024年1月までに、利益Bに関する最終報告書を承認し、主要な内容をOECD移転価格ガイドライン(TPG)に組み込む予定である。なお、本協議文書に概説されている提案はOECD事務局の作業である(IF未合意)。したがって、その基本設計は、本協議プロセスと無関係に変更される可能性があることに留意が必要である。

第2の柱 - 執行ガイダンス - IFは、2023年2月2日に公表された執行ガイダンスの第一弾(本誌2023年4月号参照)に続き、第2の柱・GloBEモデルルールに関する合意された執行ガイダンスの第二弾を公表した。この第二弾の執行ガイダンスには、GloBEの計算を行う際の為替換算ルール、税額控除、および実質ベースの所得除外(SBIE)の適用に関するガイダンスが含まれている。特に税額控除に関しては、OECDが移転可能な税額控除(インフレ抑制法における税額控除により顕著になったとOECDは認識)の適格性(credibility)を巡る課題の解決を目指している。本規定は(市場性の判断を含め)複雑であり、先のタックス・エクイティ・パートナーシップに関する解決策と同様であるが、少なくとも税額控除に係る支払額は(売却時のディスカウントと異なり)完全に適格になる。本執行ガイダンスには、QDMTTの設計に関する更なるガイダンスと、2つの新たなセーフハーバーも含まれている。

  • QDMTTを導入する国・地域に対する恒久的なセーフハーバー - OECDは、多国籍企業や税務当局にとってコンプライアンスや執行が容易になると主張するが、国・地域によっては、このセーフハーバーの運用に困難な点があることも明らかになっている。
  • 2025年末以前に開始する事業年度について、UTPRの適用を免除する経過的セーフハーバー(最終親事業体(UPE)所在地国の法人所得税率が20%以上の場合) - これは明らかに、米国がUPE所在地国である場合を想定している。

本執行ガイダンスは、より詳細な事例を含め、今年後半に公表されるコメンタリーの改訂版に組み込まれる予定である(2022年3月11日公表のコメンタリー当初版に代わるものである)。

GloBE 情報申告書 - GloBE情報申告書(GIR)の改訂版も公表された。GIRは、多国籍企業グループが税務当局に詳細を提出することで、多国籍企業グループとその構成事業体の適切なリスク評価を可能にし、当該グループのトップアップ税額がある場合にはその正確性を評価するための手段である。本GIRは、当初のGIR公開協議文書(本誌2023年2月号参照)に対するいくつかの変更を反映しており、2028年12月31日以前に開始するすべての会計年度(ただし、2030年6月30日後に終了する会計年度は含まない)に係る国・地域単位報告の簡素化を可能にする移行期枠組みが含まれる。この移行期間中は、構成事業体ごとではなく国・地域別により多くの報告を行うことができるが、ある程度の詳細レベルは残ることになる。

租税条約上の最低課税ルール(STTR) - IFは、第2の柱に関して、STTRを発効させるためのモデル租税条約テキストを含む報告書を、STTRの目的と運用について解説する付随コメンタリーとともに公表した。OECD事務局は、STTRモデル規定の理解を助けるため、「租税条約上の最低課税ルールのあらまし」と題する概要文書も公表した。STTRは、受領者の名目法人税率が9%未満(税免除などの課税ベースの減額や税額控除を調整後)の場合に、源泉地国が、特定のグループ内支払いに対して追加の納税義務を課すことを認める、条約ベースのルールである。利子、ロイヤルティー、サービスフィーなど、関連者間の幅広い支払いが本ルールの対象となるが、配当は除外されている。その他の例外的措置として、重要性の閾値(年間対象所得総額100万ユーロ以下/25万ユーロ以下(GDP400億ユーロ未満の国・地域の場合))、マークアップの閾値(コストプラス8.5%以下の対象所得(BEPSリスクが限定的とされる)。なお、利子・使用料は除く)、および受領者の特定の特性が関係する。二重課税の排除に関して、採用されたアプローチでは、STTR適用前の状況を維持することになる(つまり、受領国・地域は、STTR税額に係る所得免除の必要はなく、STTR税額の控除も求められない)。さらに、STTRはGloBEルールに優先し、対象税額を構成する。各国による実施は、多国間条約を通じて2023年10月に開始される見込みである。IFメンバーは、発展途上国である他のIFメンバーから要請があった場合、STTRを採用することにコミットしている。

OECD事務総長のG20への報告書 - OECD事務総長によるG20財務大臣・中央銀行総裁への報告書は、国際税制改革に関する「力強い進展」を指摘している。本報告書は、第1の柱と第2の柱、間接税、税の透明性、租税政策、気候変動対策などの多くの作業分野について、実証的なアップデートを提示している。第1の柱と第2の柱に関するポイントとして、以下が含まれる。

  • 第1の柱 - 利益A:2023年7月11日の成果声明で報告されているように、多国間条約(MLC)の2025年発効を目標とし、その署名に向けて迅速に準備する観点から、残された課題を解決する取り組みが進行中である。本報告書によると、MLCの批准日は、対象となる多国籍企業のUPEの60%以上を占める30以上のIFメンバーが批准した後、締約国・地域によって決定されるとしており、米国を含めることが必須となる(これは、2021年10月8日のIF声明で合意された一定数(“critical mass”)の閾値を示しているとみられる)。
  • 第2の柱 - GloBEルール:OECDは、2025年までに適用対象となる多国籍企業のほぼ90%が、事業を展開するすべての国・地域で15%の最低実効税率の対象になると推定している。
  • 経済的影響度評価:2020年の入手可能な最新データに基づいて、第2の柱による推定歳入増は、2,200億米ドル(2023年1月のOECDによる報告)から、年間2,000億米ドルに下方修正された。第1の柱の歳入増は、先進国よりも発展途上国の方が大きいと見込まれている。

(注)本成果声明は、143のIFメンバーのうち138か国・地域によって承認された(ベラルーシ、カナダ、パキスタン、ロシア、スリランカは署名しなかった)。

出典:PwC, Tax Policy Alert
「月刊 国際税務」2023年9月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修