秋季声明(英国)

2023-02-09

2022年11月17日、秋季声明(Autumn Statement)が公表された。

事業関係税

法人税 - 政府は、これまでに、2023年4月から法人税の税率を現在の19%から25%に引き上げる旨公表している。

銀行および住宅金融組合の利益に係る付加税(Banking Corporation Tax Surcharge) - 法人税率25%への引き上げの結果、2023年4月から、本付加税の税率が8%から3%に引き下げられる。

エネルギー関連超過利潤税(Energy Profits Levy: EPL)および投資控除 - 2023年1月1日からEPLの税率が10%ポイント引き上げられ35%になる。投資控除は、すべての投資支出(脱炭素化支出を除く)に対して29%に引き下げられる。

発電事業者税 (Electricity Generator Levy: EGL) - 低炭素の英国発電からの特別利益に対して、一時的に45%の税率で新たなEGLが課される。本課税は、2023年1月1日以後に生じる特別利益に適用される。

研究開発(R&D)税制の改革 - 2023年4月1日以後の支出について、研究開発支出税額控除(RDEC)の率が13%から20%に引き上げられる一方、中小企業(SME)追加控除が130%から86%に、SME税額控除率が14.5%から10%に引き下げられる。単一のR&Dスキームの設計に関するコンサルテーション(協議)が開始される。政府は、R&D税制を改革するための法案(今年初めに草案を公表済)を導入予定であり、適格支出のデータおよびクラウド費用への拡大、英国内イノベーションへの支援の集中、濫用をターゲットとしつつコンプライアンス向上、を図る。

オーディオビジュアル創造関連特典措置の改革に関する公開協議 – 英国文化に係るコンテンツ制作を奨励し、オーディオビジュアル分野の成長を支援するための公開協議が開始される予定である。

投資区域 - 政府は、投資区域プログラムを、最も潜在力の高い数少ない知識集約型成長クラスターに絞る。これらのクラスターを特定するための作業が行われており、今後数か月のうちに公表見込みである。

電気自動車用充電ポイントの初年度控除(FYA) - 電気自動車用充電ポイントのFYAについて、法人税は2025年3月31日まで、所得税は2025年4月5日まで延長見込みである。

迂回利益税(Diverted Profits Tax) - 2023年4月以後、迂回利益税の税率が25%から31%に引き上げられる。

OECD第2の柱 - 政府は、2023年12月31日以後開始会計期間から、グローバルでのミニマム法人税率に関するOECD第2の柱のルールを導入する。その内容は以下の通りである。

  • 英国本拠の大規模多国籍企業グループに対し、国外事業の実効税率が15%未満の場合にトップアップ税額の支払いを求める所得合算ルール(IIR)を導入する。
  •  適格国内ミニマムトップアップ税(QDMTT)ルールを補完的に導入し、大企業グループ(専ら英国内で事業を行うものを含む)に対し、英国事業の実効税率が15%未満の場合に、トップアップ税額の支払いを求める。

政府は、バックストップとなる軽課税所得ルール(UTPR)を英国で実施する意向であるが、早くても2024年12月31日以後開始会計期間からの適用となる。

移転価格の文書化:マスターファイル/ローカルファイル - 2023年4月より、英国で事業を行う大規模多国籍企業は、OECDの移転価格ガイドラインで規定された標準的なフォーマットで移転価格文書を保管・保持することが求められる(マスターファイルおよびローカルファイル)。HMRC(内国歳入庁)は、Summary Audit Trail(移転価格結果に至るまでに事業者が行った作業の概説)について引き続き協議する予定である。

国民生活賃金(NLW) - 2023年4月1日から23歳以上の国民生活賃金は9.7%引き上げられ、時給10.42ポンドとなる。23歳未満と実習生にはより低いレートが適用される。

国民保険料(事業主賦課基準額(Secondary Threshold)) - 第1種(Class 1)被用者に係る国民保険料(事業主賦課基準額)は、2023年4月から2028年4月まで9,100ポンドで固定される。

HMRC のコンプライアンスに関するリソースの追加 - 政府は今後5年間で7,900万ポンドを追加投資し、HMRCがより多くの深刻な税不正事案と富裕層納税者の税コンプライアンスリスクに対処するために追加人員を配置できるようにする。この投資により、今後5年間で7億2,500万ポンドの追加税収が見込まれる。

個人関係税

所得税の閾値 - 個人の所得控除(personal allowance)は 12,570ポンド、40%の高税率が課される閾値は50,270ポンドで、いずれも2028年4月まで据え置かれる。

所得税の追加(最高)税率(ART) - 2023年4月6日より、45%のARTの閾値が150,000ポンドから125,140ポンドに引き下げられる。

国民保険の閾値 - 主な閾値は2028年4月まで据え置かれる。

相続税の非課税枠 - これらは2028年4月まで据え置かれる。非課税枠は325,000ポンド、住宅非課税枠は175,000ポンドに据え置かれる(住宅非課税枠は、相続資産額2百万ポンド超から漸減)。

配当控除 - 2023年4月から配当控除が2,000ポンドから1,000ポンドに、さらに2024年4月から500ポンドに減額される。

キャピタルゲインの年間免除額 - 2023年4月から免除額が12,300ポンドから6,000 ポンドに引き下げられ、2024年4月からはさらに3,000 ポンドに引き下げられる。

株式交換(キャピタルゲイン税) - 租税回避防止法規定が導入され、2022年11月17日から、英国法人が関係する株式交換があった場合において、英国に住所地を持たない個人(non-UK domiciled individuals)が、特定の非英国法人から生じる配当や利益に関して送金時課税基準を主張できなくなる。

年金の「トリプルロック」 - 公的年金支給額の伸び率をインフレ率、賃金上昇率、2.5%の3指標のうち最も高いものとする「トリプルロック」制度に関して、4月から公的年金がインフレ率に合わせて増加する。

その他の税制改正

以上のほか、土地印紙税(SDLT)関連の改正(2022年9月23日に施行された非課税閾値の引き上げ(125,000ポンド→250,000ポンド(最初の購入は300,000ポンド→425,000ポンド))は2025年3月まで)や、ビジネスレート関連の改正(2023年4月1日から、イングランドのビジネスレート(固定資産税)について前回の再評価(2017年)以降の不動産価値の変化を反映して更新。ターゲットを絞った支援パッケージを導入など)がある。間接税・関税関連では、VAT(付加価値税)の登録・登録解除の閾値据え置き(2026年4月まで現在の85,000ポンド)、電気自動車に係る自動車税(VED)(2025年4月より、電気自動車、バン、オートバイは、ガソリン車やディーゼル車と同様にVED課税対象)、オンライン売上税(OST)(本誌2022年5月号参照)を導入しない旨の政府決定。近日中にOSTコンサルテーションに対する回答を公表予定)、輸入関税の停止(100超の品目について、2年間輸入関税を撤廃)がある。

出典:PwC UK
「月刊 国際税務」2023年1月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修