2023年秋季声明(英国)

2024-02-20

2023年11月22日、秋季声明(Autumn Statement)が公表された。

事業関係税

法人税 - 法人税率の改正はない。

資本控除(Capital Allowances) - 2023年春季予算で、政府は、2023年4月1日から3年間、特別控除(super deduction)制度を「全額費用化」制度に切り替えており、事業者は、適格な工場や機械設備への投資費用の全額を課税利得から償却できるようになっている。政府は現在、この改正を恒久的なものとし、初年度控除額を100%(main rate assets)、ないし50%(special rate assets(長期耐用年数資産を含む))とする予定である。

研究開発(R&D) - 現行の研究開発支出税額控除(RDEC)制度と中小企業(SME)に係る制度は統合され、2024年4月1日以後に開始する会計期間に発生した支出は、統合後の制度で申請することになる。統合後の制度において、欠損事業者に適用されるみなし税率(notional tax rate)は、現行のRDECスキームの25%から19%に引き下げられる。また、研究開発集約型の赤字中小企業に対する追加支援に係る集約度(R&D支出/総関連支出)の閾値が40%から30%に引き下げられ、更に約5千社が救済の対象となる。加えて、政府は1年間の猶予期間を導入し、適格研究開発費の閾値である30%を下回った法人は、1年間の救済を引き続き受けられる。

OECD第2の柱 - 政府は、G20-OECDのグローバルミニマム税制の枠組みの一環として、2024年12月31日以後に開始する会計期間から、無形資産に係るオフショア収益への課税規定を廃止するとともに、OECDの第2柱の軽課税利得ルール(UTPR)を実施する(多国籍企業が事業を行うすべての法域において、最低15%の実効税率が課されることを規定)。

投資区域プログラムの延長 - イングランドの投資区域プログラムが5年から10年に延長され、グレーターマンチェスター、ウェストミッドランズ、イーストミッドランズの3つの対象区域が新たに公表された。

ビジネスレート - 政府は、中小企業および小売、接客、レジャー(RHL)を支援するため、今後5年間で43億ポンド相当のビジネスレート支援パッケージを導入する。これには、RHLに係る75%の軽減措置(現金上限11万ポンド)を2024-25 年まで延長すること、および中小企業向け乗数の4年間凍結が含まれる。標準税率の乗数はCPIインフレ率に合わせて引き上げられる。

企業投資スキーム(EIS)とベンチャーキャピタル信託(VCT) - EISとVCTの軽減措置は2025年4月5日後に期限切れとなる予定であったが、これらの軽減措置の有効期限を2035年まで延長する新たな法律が導入される予定である。

ATED(Annual Tax on Enveloped Dwellings) - ATEDは、2023年9月の消費者物価指数に連動して、2024年4月1日より6.7%の引き上げが行われる。

個人関係税

所得税率および閾値 - 所得税の閾値および税率の改正はない。

国民最低賃金と生活賃金 - 2024年4月1日より、21歳以上の英国全土の対象労働者に対し、国民生活賃金が9.8%引き上げられ、時給11.44ポンドとなる。

国民保険拠出(NICs)料率 –

被用者(従業員):2024年1月6日より、Class 1の被用者(従業員)NICの標準料率が12%から10%に引き下げられる(年間所得12,570~50,270ポンドの場合に適用)。

自営業者:12,570~50,270ポンドの利得に係るClass 4 NICs料率は、2024年4月6日より9%から8%に引き下げられる。また、12,570ポンド超の利得に係るClass 2 NICs(一律週3.45ポンド)は、2024年4月6日から廃止される。ただし、公的年金を含む拠出制給付へのアクセスは維持される。6,725~12,570ポンドまでの利得のある者は、引き続き、NICsの支払いなしで国民保険クレジットが受けられる。

その他の改正 - 
  • 政府は、2023年春季予算での協議に基づき、2024年4月6日から自営業者とパートナーシップの所得税の現金主義を拡大し、簡素化する。
  • Pay As You Earn(PAYE)のみで課税される所得の個人は、2024-25年から自主申告をする必要がなくなる。
  • 政府は、2026年4月から年間所得5万ポンド超の自営業者と家主を対象に税の電子化(Making Tax Digital(MTD))を推進し、2027年4月からは所得3万ポンド超の者を対象にMTDを推進することを確認した(それ以下の所得者について引き続き検討中)。MTDに関する多くの簡素化が公表されている。

年金改革 - 政府は、年金改革の包括的パッケージを公表した。また、2024年4月6日以後、surplus repayment chargeが35%から25%に引き下げられる。

年金トリプルロック - 政府は「トリプルロック」を維持する。2024年4月以後、新公的年金は8.5%増の年間11,500ポンドとなる(900ポンド超の増額)。

英国に住所地を持たない個人への課税、富裕税、相続税、キャピタルゲイン税 – 今回これらに係る公表はない。

ISA(個人貯蓄口座)- 政府は2024年4月より、毎年同じタイプのISAに複数回加入することを認め、2024年4月より長期資産ファンドをイノベーティブファイナンス型ISAの範囲に加える。これにより、貯蓄者や投資家の柔軟性と選択肢が拡大し、長期投資商品の開発が促進される。政府はまた、2024年4月から、プロバイダー間のISA資金の年度内の部分移管を認め、既存の休眠ISAの再申請要件を撤廃する。

以上のほか、VAT(付加価値税)関連では、ゼロ税率の拡大や延長、2023年7月の高裁判決を受けた対応や免税店制度などに係る検討がある。また、アルコール/タバコ税、自動車関係税(HGV Levy and Vehicle Excise Duty)、ゲーム税、プラスチック包装税(PPT)(2024年4月1日からCPIに連動して1トン当たり217.85ポンドに引き上げ)、グリーン諸税関連の改正などがある。

出典:PwC UK
「月刊 国際税務」2024年1月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修