2023年度予算案(英国)

2023-06-14

2023年度予算案(英国)

2023年3月15日、財務相は、以下を含む予算案を公表した(注)。

事業関係税

法人税率 - 2023年4月1日より、法人税率が19%から25%に引き上げられる。

資本控除(Capital Allowances) - 特別控除(super-deduction)制度は2023年3月31日に終了し、2023年4月1日より、適格プラントおよび機械に係る100%の資本控除制度に置き換えられる。2026年3月31日までの3年間であるが、政府はこれを恒久化する意向を示している。また、政府は、耐用年数が長い資産を含む一定のプラントおよび機械に係る50%の初年度控除を導入する。本規定は、法人税にのみ適用される(所得税上は、年間百万ポンドの投資控除の閾値を下回らない限り適用されない)。さらに、政府は、電気自動車用充電ポイント設備への適格支出に係る100%の初年度控除を、法人税は2025年3月31日まで、所得税は2025年4月5日まで延長することを決定した。

研究開発 - 2023年4月1日より、赤字の研究開発集約型中小企業(SME)に対する優遇的な救済措置が導入される。適格研究開発費が支出全体の40%以上を占めるSMEは、適格研究開発費の27%相当の税額控除を受けられる。なお、政府は、研究開発支出税額控除(RDEC)とSME制度の統合に関するコンサルテーションへのコメントを検討中である(夏頃のコンサルテーションで法律案を公表予定)。一方、先に公表された一定の国外支出に係る研究開発税額控除の制限の適用は、2024年4月1日まで1年間延期される。また、適格研究開発費として、データライセンスとクラウドコンピューティングサービスの2つのカテゴリーが新たに設けられる。なお、2023年8月1日以降に提出される研究開発費の申請は、会計期間に関係なく、新しいデジタルフォームを使用して提出する必要があるとしている。

投資区域 - 政府は、英国全土に12の投資区域を公表した。ウェストミッドランド、グレーターマンチェスター、北東部、サウスヨークシャー、ウェストヨークシャー、イーストミッドランド、ティースサイド、リバプールなどが含まれる。各投資区域は、フリーポートに匹敵する5年間の税制優遇措置(資本控除、構築物・建物に係る控除の拡大、および、土地印紙税(SDLT)、ビジネスレート、雇用者国民保険拠出金の軽減)を含め、5年間で8千万ポンドを利用できるほか、地域の生産性障壁に対処するための助成金を受けられる。政府は、イングランド8地域の関係者を招き、投資区域の導入に向けた協議を開始している。政府は、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドにおける投資区域の導入支援のため、各地方当局と協力する。

移転価格の文書化 – コンサルテーションを受け、英国で活動する大規模な多国籍企業は、OECDの移転価格ガイドラインに規定するマスターファイルおよびローカルファイルを、所定の標準化された様式で保存する必要がある。HMRC(内国歳入庁)は、Summary Audit Trail(ローカルファイル作成時の主な作業を詳述した短い質問票)の導入について、引き続き検討している。

その他

以上のほか、クリエイティブ産業に係る税恩典の改正等がある。また、英国居住者である投資マネージャーは、他の法域での二重課税救済措置を受けるタイミングと合わせるため、納税を早める選択が可能になる。

(注) その後、2023年3月23日、2023年度春季財政法案(Finance (No.2) Bill 2023)が公表された。ここでは、OECD包摂的枠組(IF)の第2の柱における多国籍企業・国内トップアップ税の提案も含まれている。本法案の第3部(第121~264項およびSchedule 14~17)および第4部(第265~277項およびSchedule 18)では、OECD通じて国際的に合意したアプローチに沿った所得合算ルール(IIR)(multinational top-up tax)、および選択性の適格国内トップアップ税(QDMTT)に言及している。IIRは、多国籍企業の2023年12月31日以後開始会計期間に適用される(2026年12月31日までは、財務省が多国間の整合性を確保するために必要と考える場合、税制改正や追加規定の創設が可能)。なお、以前2022年7月には、英国多国籍企業トップアップ税制の草案が公表されている。今回改訂された法案では、前回の草案では保留とされていた追加の条項と、2023年2月にOECDが公表した執行ガイダンス(AG)を取り入れるための新条項が含まれている。AGに含まれている(今回の改訂法案にも反映されている)主な項目には、(所得・税額のブレンディングがなされる)CFC税制(米国GILTI税制など)の取扱い、債務免除の取扱い、繰延税金資産とグループ内移転に関する経過措置の改訂が含まれる。国内トップアップ税は、2023年12月31日以後開始会計期間について、多国籍企業グループの英国メンバー、英国企業のメンバー、および英国内のみで活動する一定の英国企業に適用される。なお、英国は、当該税制がQDMTTであることを目指している(IFのピアレビューおよびモニタリングの対象)。なお、IIR、国内ミニマム税ともに、経過的なセーフハーバーが適用されよう(当初3年間)。セーフハーバー規定の適用には、適格財務諸表に基づくものなど、一定の要件が求められる。本法律案の実質的な制定は、2023年6月か7月(議会の夏季休会前)になる可能性がある。

個人関係税

所得税の税率・閾値 - 以前公表された個人所得税および国民保険料税率・閾値に変更はない。

年金税制 - 以下の改正が公表されている。

  • 個人が年金基金に非課税で拠出できる額が、2023年4 月より、年間 4万ポンドから6万ポンドに引き上げられる。
  • 政府は、今後の予算で、生涯非課税限度額(現在、1,073,100ポンド)の廃止に取り組む。
  • 一定の年金受領者について、2023年4月より、マネーパーチェス制度(Money Purchase Annual Allowance)により非課税で貯蓄できる合計額が、4千ポンドから1万ポンドに引き上げられる。

その他の措置

以上のほか、燃料税の凍結(1リットル当たり5ペンス引き下げ)の1年追加延長、アルコール税関係の改正(2023年8月1日より、RPIインフレ連動での税率引き上げ、およびドラフト救済(Draught Relief)率引き上げ)、エネルギー価格支援(家庭向けのエネルギー価格保証を2023年6月まで現行料金で継続(追加で3か月延長)し、典型的な家庭のエネルギー代を年間2,500ポンドに制限)など、慈善活動に係る税恩典(投資税額控除)を英国での慈善活動に限定(EU・EEAでの慈善活動については、2023年3月15日より税恩典が受けられない(2024年4月まで経過措置あり)など)、トン数税制関連(2023年6月より、トン数税制の再選択を容認)などがある。

出典:PwC, Tax Policy Alert
「月刊 国際税務」2023年2月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修