下院歳入委員会、事業・個人関係税の減税法案および台湾貿易協定を可決(米国(1))

2023-09-13

2023年6月13日、下院歳入委員会は、(1) Tax Cuts for Working Families Act (H.R. 3936)、(2) Small Business Jobs Act (H.R. 3937)、(3) Build It in America Act (H.R. 3938)の3つの個別税制法案からなる経済成長パッケージを可決した(注1)。また、21世紀の貿易に関する米国・台湾イニシアチブ(貿易の5分野(税関行政・貿易円滑化、公正な規制実務、サービス規制、腐敗防止、中小事業者)における交渉条件を規定)の下で署名された最初の貿易協定を承認する法案(H.R. 4004)を全会一致で可決した。上述(3)のH.R. 3938には、Section 174に基づく試験研究(R&E)費用の即時控除、Section 163 (j)に基づく事業利子控除の制限、Section 168 (k)に基づく100%特別減価償却に関する税制を、2025年末まで遡及的に復活させる規定が含まれている。また、最近の外国税額控除規則、米国農業権益の特定の外国による取得、スーパーファンド税の廃止に対応する規定も含まれている。また、本法案では、特定のIRA(インフレ抑制法)に係るクリーンエネルギー税額控除は廃止/改正される。

Build It in America Act (H.R. 3938)

R&E費用の即時控除(Section 174関連):本法案では、R&E費用の即時控除が復活する(現行は、2021年12月31日後開始課税年度に係るR&E費用は、5年間(米国外での研究は15年間)で損金算入)。また、特定R&E費用に係る資産計上の選択を認め、会計処理方法の採用に関する移行ルールを規定する。本規定は、2021年12月31日後、2026年1月1日前開始課税年度に係るR&E費用から適用されよう。

利子控除の制限(Section163関連):本法案では、2022年1月1日前の課税年度に適用されていたSection163 (j)の利子控除制限が復活する。本規定では、事業利子控除制限に係る調整後課税所得(ATI)の計算は、EBITDAベースで行われよう。本規定では、EBITDAの適用を、2022年12月31日後(選択で2021年12月31日後)開始課税年度で2026年1月1日前に開始する課税年度まで延長する(2025年12月31日後開始課税年度は、EBITベース)。

その他の改正
以上のほか、Section 168 (k)に基づく100%特別減価償却に関する税制を2025年末まで遡及的に復活させる規定、西半球(Western Hemisphere)国(米国領、北・中・南米(西インド諸島を含み、キューバ・ベネズエラを除く)に係る最近の外国税額控除規則(本誌2023年1月号参照)の選択的不適用(2027年1月1日前開始課税年度までの経過措置)、特定の懸念がある国(中国、ロシア、イラン、北朝鮮、キューバ、ベネズエラ)による米国農業権益の一定取得(10%以上保有)に係る消費税(excise tax)、スーパーファンド消費税(excise taxes)の廃止規定なども含まれている。また、本法案では、特定のIRAに係るクリーンエネルギー税額控除は廃止(2024年12月31日後使用開始電力施設等に係るもの)または改正(2023年6月9日後使用開始クリーン車両に係るもの)される。

なお、GILTI(Global Intangible Low-Taxed Income)の国別適用に係る民主党の改正案などは、否決されている。(注2)

このほか、H.R. 3937(上述(2))関連では、事業用減価償却資産に係るSection 179の損金算入制限額の引き上げ、情報申告(Form 1099・Form 1099-K)に係る閾値の改正、適格小規模事業株式に係る利得除外規定(Section 1202)の改正、適格農業区域(Opportunity zones)の創設などがある。H.R. 3936(上述(1))関連では、2024年・2025年の追加控除(Guaranteed deduction bonus)(現、基礎控除(standard deduction))の改正がある。

また、H.R. 4004は、21世紀の貿易に関する米国・台湾イニシアチブの下で署名された最初の貿易協定を承認する法案であり、後続協定の交渉に関して、行政に対して議会協議と透明性の要件を新たに課している。なお、今後の協定には、貿易円滑化や税関強化に加え、税制措置も含まれる可能性がある(現在、米国・台湾間で租税協定は締結されていない)。

(注1)本経済成長パッケージは、共和党支配の下院で可決の可能性はあるが、民主党支配の上院での可決は現状では困難とみられる。租税合同委員会(JCT)のスタッフの試算では、本全体パッケージにより、10年間で約2,370億ドルの連邦歳入減になり、大部分は、IRAクリーンエネルギー規定廃止案など(同期間に2,160億ドルの歳入増)で賄われる。

(注2)2023年6月20日、上院財政委員会のマイク・クラポ委員(共和党)と下院歳入委員会のジェイソン・スミス委員長(共和党)からの要請で、JCTは、第2の柱(OECDのグローバルミニマム税)による米国税収への影響分析を公表した(約50か国が本税制を制定済/公表済とする)。JCTは、本税を米国や他国で採用する場合の様々なシナリオを検討している。現在のシナリオでは、米国は当初10年間で1,200億ドル超の税収減となり(各国の国内ミニマム税制定による米国GILTIの税収減が主因)、バイデン政権が推し進めるシナリオでも、10年間で600億ドル近くを失うと見積もっている(本試算では、他国の税制による米国税収減を網羅していない)。両氏は、「OECDのグローバル税制(「OECD tax cartel」)は、自国の税制を制定する米国の主権を損ない、補助金による底辺への競争を助長することによって外国を優位にするだけでなく、この「アメリカ・ラスト」政策は雇用と税収を米国外に移転させる」、とコメントしている。

なお、GILTIについて、創設当時の下院歳入委員会の報告書(2017年11月)によれば、今日の多国籍企業のサプライチェーンの統合的な性質を踏まえ、多国籍企業の国外事業について、事業体別や国別ではなく、全体として見ることがより適切であると考える、としている。

出典:PwC, Tax Insights
「月刊 国際税務」2023年8月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修