「Build Back Better」修正法案 - 主要な事業および個人関連規定(米国)

2022-01-05

2021年10月28日、バイデン大統領は、「Build Back Better」のフレームワークを公表した。本フレームワークでは、10年間で1.75兆ドルのコストを見込んでおり、同期間の約2兆ドルの歳入(事業、国際、および個人の大幅増税、IRSの執行措置強化、およびメディケア処方薬のリベート規定の廃止を含む)と相殺される旨説明している。本フレームワークの規定は、下院議院規則委員会により、9月に下院歳入委員会および他の下院委員会によって報告されたBuild Back Better調整法案の修正版(本誌2021年11月号参照)に組み込まれた。本修正法案の重要な事業および国際関連規定には、大法人への新たな15%の法人利得ミニマム税、法人の自己株買いへの新たな1%の税、国際財務報告グループの支払利子制限、インバウンドおよびアウトバウンドの国際関連規定(グローバル無形資産低課税所得(GILTI)、外国由来無形資産関連所得(FDII)、外国税額控除規定、税源浸食濫用防止税(BEAT)、およびサブパートF所得)の改正、および試験研究費の費用化の延長、が含まれる。本修正法案の個人増税規定には、高所得の個人および信託への新たな付加税、純投資所得税の拡大、適格な中小企業の株式に係る恩典の制限、暗号資産に関する規定、および超過事業損失に係る現行法の一時的な制限の継続、が含まれる。一方、本フレームワークに沿って、本修正法案では、26.5%の最高法人所得税率、39.6%の最高個人所得税率、および新たな25%の長期キャピタルゲインおよび適格配当税率を含め、下院歳入委員会の法案における主要な税率引き上げ規定が取り下げられている。このほか、キャリードインタレスト、Section 199A適格事業所得控除(パススルー事業体の所有者の適格事業所得の最大20%控除)、遺産税・贈与税の非課税枠、委託者課税信託(grantor trusts)、および個人退職金口座(IRA)関連の規定も取り下げられている。なお、本修正法案の規定は、下院(House floor action)で大幅に修正(「manager’s amendment」の一環)される可能性がある。民主党の議会指導者たちは、年末までの署名のためのバイデン大統領への最終法案提出を目指している。

法人利得ミニマム税

新たな法人利得ミニマム税(CPMT)では、株主に10億ドル超の利得を報告する適用対象法人の調整財務諸表所得に、15%の代替ミニマム税(AMT)を課す(一般的な事業税控除(たとえば、試験研究費の税額控除)を考慮し、AMT外国税額控除を認める)こととなろう。さらに、本規定により、適用対象法人は、財務諸表損失を無期限に繰り越し(Section 172同様の80%控除制限あり、2019年12月31日後終了課税年度に発生する財務諸表損失のみ繰り越しとなろう)、AMT税額を将来年度の通常税額から控除するため、無期限に繰り越すことが認められよう。CPMTの代替として、またはそれとの組み合わせで、若干の法人所得税率の引き上げが再考されるかどうかは未定である。本規定の適用対象法人は、過去3課税年度(2019年12月31日後に終了)の平均年間調整財務諸表所得(一定の関連者所得が含まれよう)が10億ドル超のC法人(RICおよびREITを除く)である。さらに、米国以外の親会社の子会社として米国連邦所得税の対象となる法人の場合、その法人自体(一定の子会社と合わせて)の平均年間財務諸表所得も1億ドル以上である必要がある。本規定の発効日は2022年12月31日後となる(閾値となる年度は、2020年から2022年までの3課税年度)。CPMT対象となる企業は、財務省規制で別段の定めがない限り、引き続きその対象となる。一般に、「調整財務諸表所得」(AFSI)という用語は、法人の該当財務諸表(AFS)に記載されている納税者の純所得/損失(一定の項目を調整)を意味する。

法人株式の買い戻しにかかる付加税

本法案では、上場している米国法人に、課税年度中に当該法人が買い戻す株式の価額に対して、1%の消費税(excise tax)が課されよう。本規定は、下院歳入委員会の法案には含まれていなかった。ブラウン上院議員とワイデン財政委員長は、2021年9月に「Stock Buyback Accountability Act of 2021」法を提出した。本規定は、一般的に上院法案のテキストと同様であるが、当該法案では、1%の消費税ではなく、2%の消費税が課されることとなっていた。なお、「買い戻し(repurchase)」とは、そのような法人の株式に係るSection 317(b)で規定する償還、および財務省が決定するその他の経済的に類似した取引として定義される。米国上場法人の株式の買い戻しを行う米国上場法人の「特定の関連者」にも消費税が課される。「特定の関連者」とは、(1)株式の50%超(議決権または価値)が直接/間接に所有されている法人、(2)資本持分/利得持分の50%超が直接/間接に保有されているパートナーシップ、である。課税対象となる買い戻し額は、当該法人/特定の関連会社の従業員に発行された株式を含め、課税年度中に法人が発行した株式の価額によって減額される。本規定には、上場外国法人の一定の関連者(内国法人、国内パートナーシップ、国内パートナーがいる外国パートナーシップを含む)による当該法人株式の買い戻しを、米国上場法人による買い戻しであるかのように取り扱う、外国親会社の国内法人に係る特別規定等も含まれる。なお、本規定は、以下の場合には適用されないであろう。

  • 買い戻しが、Section 368(a)に基づく再編の一部であり、株主が損益認識しない
  • 買い戻された株式/価額を、雇用主が支援する退職金制度、従業員持株会制度、または同様の制度に拠出
  • 課税年度中に買い戻された株式の総額が百万ドル以下
  • 通常業務として証券ディーラーが買い戻し
  • 規制投資会社または不動産投資信託による買い戻し
  • 買い戻しが配当として取り扱われる

本規定は、2021年12月31日後の株式の買い戻しに適用されよう。

その他の改正

以上のほか、本修正法案の重要な事業および国際関連規定には、国際財務報告グループの支払利子制限(控除否認利子費用は無期限繰越し。Section 163(n)および163(o)は、2022年12月31日後に開始する課税年度に適用)、FDII・GILTI関連の改正(FDIIに係るSection 250の控除は24.8%(37.5%から)、GILTIに係るSection 250の控除は28.5%(50%から)に削減。以上、原則として、2022年12月31日後に開始する課税年度に発効(経過規定あり))、Section 250(b)(3)の「控除可能所得」(DEI)から一定の受動的所得等を除外(制定日後に開始する課税年度から適用)、GILTI合算の改正(2022年12月31日後に開始する外国法人の課税年度に発効。なお、OECDアプローチ(第2の柱)と異なり、給与の一定率のカーブアウトや、実体基準(有形資産)のカーブアウトの経過措置はなく、制度改正前の欠損金の繰越しもない)、外国税額控除規定(1年の繰戻しは廃止、繰越は原則10年のまま(GILTIバスケットは、2022年12月31日後から2031年1月1日前までに開始する課税年度の支払い/未払い税額は5年)等)、BEAT税率の改正(2021年12月31日後から2023年1月1日前までに開始する課税年度は10%、2022年12月31日後から2024年1月1日前までに開始する課税年度は12.5%、2023年12月31日後から2025年1月1日前までに開始する課税年度は15%、2024年12月31日後に開始する課税年度は18%。なお、現行規定に基づく銀行・証券ディーラーの増加税率は、2024年12月31日後に開始する課税年度には適用されない等)、サブパートF所得関連の改正、および試験研究費の費用化(Section 174の下での即時損金算入の2026年前開始事業年度までの延長)等が含まれる。また、本修正法案の個人増税規定には、高所得の個人および信託への新たな付加税(個人の1,000万ドル(夫婦個別申告既婚者は500万ドル)超の修正調整総所得に対して5%、2,500万ドル(夫婦個別申告既婚者は1,250万ドル)超は追加で3%(合計8%)(非居住外国人は、米国内での営業/事業に実質的に関連する所得の範囲内で適用)。不動産・信託の場合、20万ドル超の調整総所得に5%、50万ドル超は追加で3%。以上、2021年12月31日後に開始する課税年度から適用)、純投資所得税(NIIT)の課税対象の拡大、適格な中小企業の株式に係る恩典の制限、デジタル資産に関する規定(wash sale rules)、および超過事業損失に係る現行法の一時的な制限の継続、が含まれる。

出典:PwC, Tax Insights
「月刊 国際税務」 2021年12月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修