欧州委員会、21世紀の事業者課税に関する連絡文書を公表(EU)

2021-07-05

2021年5月18日、欧州委員会(EC)は、21世紀に向けたEU事業課税に関する連絡文書を公表し、その中で、短期および長期のビジョンと対策を示した。本取り組みは、公正、持続可能で、雇用豊富な成長と投資につながる環境の創出により、公共の資金調達のニーズを満たし、COVID-19からの回復取組と、グリーン化・デジタル化への移行を支援する、将来適合性があり、安定的で、効率的かつ公正なEUの税制の枠組みを創出するECの取り組みを反映している。本文書では、ECが、課税権再配分と、ミニマム実効課税に関する、今後のグローバル合意を実施するため迅速に行動することを望んでいる、としている。ECは、今後2年間で最も差し迫った課題に対処し、「今後数十年間に適合する包括的なEU事業者課税の枠組み」の計画を策定するための措置を講じる。ECは、以下のような一連の新たな措置の概要を示している。

EUにおける第1・第2の柱(Pillars)の実施

ECは、EUで第1の柱と第2の柱を実施するための指令を提案する。ECによると、ミニマム実効課税のグローバル合意の実施は、既存および保留中のEU指令および取り組みにも影響する。ECはまた、国際協定に参加するインセンティブを与えるため、非協力的国・地域のEUリストに係る第3国の評価基準に、第2の柱を追加することを提案する。ECは、条約特典否認ルール(subject-to-tax-rule)を、利子・ロイヤルティー指令に含めるとする、保留中の提案を復活させる予定である。

ペーパーカンパニー(shell companies)の利用に関連するアグレッシブなタックスプランニングに対処するための規則案(「ATAD 3」)

ECは2021年第4四半期に指令案を提示する予定であり、これによると、EU内の法人は、実質的なプレゼンスと実際の経済活動を行っているかどうかを評価し、濫用的なペーパーカンパニーの存在または利用に関連する税制上の恩典を否認するために必要な情報を税務当局に報告することが求められる。本提案では、新しい課税情報、モニタリング、税の透明性に関する要件も導入される。ECは、ロイヤルティーと利子の支払いによりEUでの課税を逃れること(「二重非課税」)を防ぐためにさらなる措置を講じる予定である。ECは2021年5月20日にフィードバックのための初期的影響評価を公表しており、6月17日後に公開コンサルテーションが行われる。

Debt Equity Bias Reduction Allowance(「DEBRA」)に関する規則案

ECは2022年第1四半期に指令案を提示し、エクイティーファイナンスの控除制度(allowance system)を通じて、法人税における負債資本のバイアスに対処し、財政的に脆弱な法人の再資本化(re-equitisation)を促進する予定である。ECは、意図しない目的で利用されないように、濫用防止措置を組み込む予定である。

EUで事業を行う大法人が支払う実効税率の年次公表に関する規則案

OECDで検討中の第2の柱で議論されている方法に基づく。この提案は2022年に予定されており、大規模なEU法人の「実際の」実効税率に関する公的な透明性を向上させることを目的としている。

欧州でのビジネス:所得課税の枠組み(Business in Europe: Framework for Income Taxation;「BEFIT」)

本提案(2023年に向け)では、以下を行う。

  • 課税ベースの共通ルールブックを、定式配分を通じて加盟国間で課税権を配分するための「より単純で公平な」方法と組み合わせる
  • 税務当局と納税者の単一市場における複雑な形式主義を簡素化し、コンプライアンスコストを削減する
  • 租税回避に対処し、雇用創出、成長、投資を支援する
  • EU加盟国にとっての信頼できる予測可能な法人税収を確保する
  • 共通連結法人課税ベース(CCCTB)の検討中の提案を差し替える
  • 加盟各国と緊密に協力、欧州議会の見解も考慮し、産業界や市民社会グループと協議する

新しいEU独自のリソース

ECは、欧州理事会からの委任に従い、NextGenerationEUの返済(repayments)に貢献する新しい独自のリソース提案も公表する。ECは2021年7月にデジタル税制(Digital Levy)を提案する予定であり、ECによると、これは、デジタル移行を支援・加速するという主要政策目標ならびにWTOおよび国際的義務に適合するものである。本デジタル税制は、国際税制改革に関する今後予定されているグローバル/OECD合意から独立しており、一旦採択されれば、共存することになる。デジタルサービス税と重要なデジタルプレゼンスに関する2018年のEC提案は撤回される。また、2021年7月にECは、EUの気候目標をサポートするための新しく改革された価格メカニズム、特に炭素国境調整メカニズム(CBAM)と、EU排出量取引制度(ETS)の改訂案を提案する。これらも、エネルギー課税指令(Energy Taxation Directive)で予定されている改革とともに、グリーン化への移行支援を狙いとしている。この後、ECは、金融取引税と、企業部門にリンクされた独自のリソースを含む可能性のある他の独自リソースを提案する。

本文書に加えて、ECは、2020年より前に利益を計上し税金を払っていた企業が、2020年と2021年の損失をこれらの課税済の利得と相殺できるようにするため、COVID-19回復中の中小企業(SMEs)の損失の国内処理(domestic treatment)について加盟国に勧告を発出した。

ECは、EUの税制の将来についてより広範な検討を開始し、2022年に「2050年に向けたEUのタックスミックス」に関するタックスシンポジウムを開催する。

出典:PwC, EU Direct Tax Newsalert
「月刊 国際税務」2021年7月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修