バイデン大統領、2023年度予算で超富裕層へのミニマム税新設を提案~法人税率引上げなど増税案を改めて表明(米国)

2022-06-07

2022年3月28日、バイデン大統領は、特定の高所得者に適用される20%の新ミニマム税など新たな増税と、10年間で1兆ドルの連邦赤字削減のためのその他の措置を提案する5兆8千億ドルの2023年度(2022年10月~2023年9月)予算案を議会に提出した。新たな事業に係る増税案には、現行の税源浸食濫用防止税(BEAT)に代わる「軽課税利得ルール」(undertaxed profits rule)が含まれている。また、2022年度予算案に盛り込まれていた法人所得税率の28%への引上げその他の多くの税規定を再提案している。昨年11月に民主党票のみで下院を通過した「Build Back Better」調整法案(H.R.5376)を上院民主党が進めようとしている中、本予算案と120ページにおよぶ財務省の「政府の2023年度歳入案に関する一般説明」(Green Book)が公表された。H.R.5376は、法案の歳出規定等について、民主党の一上院議員の反対により、上院で停滞している。H.R.5376には、法人利得ミニマム税、法人株式の買い戻しにかかる付加税、国際税法改正、個人の調整総所得1千万ドル超に対する付加税、個人の純投資所得税拡大など、多くの増税案が含まれている。H.R.5376には、2017年税制改革法の規定により2022年から償却の対象となったSection 174の研究費の一時損金性を復活させる措置など、納税者に有利な規定も含まれている。企業や個人に影響を与える重要な税制案は、民主党が上院の全民主党員の一致した支持を得られれば、予算調整手続きの下で制定される可能性がある。本予算案では、新たな増税などを提案し、10年間で1兆ドルの連邦赤字を削減することを目的としている一方、国防およびそれ以外の裁量プログラムに対する全体的な歳出を増加させることを提案している。なお、議会民主党でH.R.5376が審議中であることを考慮し、特定政策間または歳入・歳出の内訳は示さず、「赤字中立予備費」(deficit neutral reserve fund)を計上し、企業・個人増税で相殺する形としている。

高所得者に対する新たな個人ミニマム税

財務省の試算によると、高所得者への20%のミニマム税により、10年間で3千6百億ドルの増税になる。この「超富裕層」に対する20%のミニマム税は、1億ドル超の純資産を有するすべての納税者に係る未実現キャピタルゲイン所得を含む総所得に対して適用される(2022年12月31日後開始課税年度から適用予定)。本提案では、納税者は、初年度のミニマム税額について、9回均等(翌年以降は5回均等)の年払いを選択できる。ミニマム税額の支払いは前払いとして扱われ、その後の実現キャピタルゲインに対する税額から控除できる(重複課税を回避)。なお、特定の非流動資産には特別規定が適用される。閾値を超える資産を持つ納税者は、毎年、資産区分ごとに、特定資産区分の資産の簿価総額と推定時価総額(課税年度の12月31日時点)、および負債総額のIRSへの報告が義務づけられる。

新たな軽課税利得ルール

本予算案では、BEATを廃止し、OECDの第2の柱モデルルールで説明されているUTPRと整合性を持たせることを意図した新たな軽課税利得ルール(UTPR)に置き換えるとしている。他の国地域がUTPRを採用した場合において、米国の税収が、他国によるUTPRの適用から守られるよう、国内ミニマムトップアップ税(domestic minimum top-up tax)(税率15%)を本提案に含めている。これとは別に、本提案では、米国の納税者が、米国の雇用と投資を促進する米国の税額控除その他の税制優遇措置の恩恵を受け続けられるようにするための不特定のメカニズムが規定されよう。UTPRは、主に軽課税国地域で活動する外国籍の親会社を持つ多国籍企業に適用されよう。また、UTPRは、過去4年間のうち少なくとも2年間でグローバルの年間売上が8億5千万ドル以上の財務報告グループにのみ適用されよう。BEATを廃止し、UTPRに置き換える提案は、2023年12月31日後に開始する課税年度から適用されよう。財務省の試算によると、本新提案では、10年間で2,390億ドルの税収が見込まれる。

その他の増税案

本予算案には、法人所得税率の28%への引上げ(注1)および関連措置(注2)、ならびにその他の増税提案が含まれる(注3)。

(注1)2022年12月31日後開始課税年度から適用(2023年1月1日前開始、2022年12月31日後終了課税年度は、21%+(7%×2023年帰属分))。なお、GILTIについて、①国地域別に改正、②実効税率20%に引上げ(注2)
(注2)H.R.5376では21%の法人所得税率は変えず、Section 250の控除を28.5%(50%から)に削減(GILTI実効税率15%)となっていたところ、本予算案の法人所得税率の21%から28%への引上げにより、GILTI実効税率も、H.R.5376の15%から20%に引上げ
(注3)本予算案における企業および個人へのその他の追加増税案には、以下が含まれる。
米国への雇用回帰に係る税額控除(適格費用の10%)、国外への雇用移転に係る費用の損金不算入、パートナーシップを通じた関連者によるベーシス・シフトの防止/支配(Section 368(c))の定義を法人関連テスト(Section 1504(a)(2).)に整合/適格選択基金(QEF)の遡及的な選択の拡大/外国事業体の定義を拡大し課税対象ユニット(支店やdisregarded entity)を包含/無形掘削費の費用計上の廃止/石油・天然ガス田に関する特別償却(percentage depletion)の使用廃止/独立系生産者に係る地質学的・物理学的償却期間の延長/個人の最高限界税率を39.6%に引上げ/高所得者の資本所得に普通税率を適用/特定のグランター・トラストに関する所得税・遺産税・贈与税の規定改正/約束手形の一貫した評価の義務付け/信託と被相続人の遺産に関する税務管理の改善/世代間移転税の非課税期間の制限/キャリード(利得)インタレストに対する通常所得課税/私立財団の支払い要件を回避するためのファンド(donor advised funds)の利用制限/デジタル資産を含む各種規定の近代化/同種資産利益の課税繰延べ(Section 1031)の制限(年50万ドル。共同申告をする既婚納税者は1百万ドル)/特定の償却可能な不動産の減価償却費控除を通常所得としてリキャプチャー/脱漏所得1億ドル超の複雑事案(例;移転価格エコノミスト関与事案等)に係る税務調査時効の3年→6年への延長/事業用生命保険の支払利息の比例配分方式による不算入の拡大/2017年法における保険会社の課税に関する草案上の誤りの是正/特定の小規模保険会社に対する非課税所得勘定制度の創設

出典:US Department of the Treasury, General Explanations of the Administration’s
Fiscal Year 2023 Revenue Proposals / PwC, Tax Insights
「月刊 国際税務」2022年5月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修