2025年度予算案(米国)

2024-06-17

2023年3月11日、バイデン大統領は、法人・個人(所得40万ドル超)への約5兆ドルの増税となる2025年度予算案を議会に提出した。税制案の多くは、法人税率の28%への引上げ、特定の高所得者への25%ミニマム課税案を含め、以前の予算案にも含まれていた。2025年度予算案で新たに盛り込まれた税制案には、法人代替ミニマム税率の15%から21%への引上げや、百万ドル超の従業員給与に係る事業控除の否認措置が含まれている。(注1)

(注1)現在、共和党が下院議会を支配していることから、本増税案は検討されないとみられる(但し、仮に大統領選(2024年11月5日)で再選の場合、優先税制政策になる可能性がある)。いずれにしても、2017年の税制改革・雇用創出法(TCJA)の主要規定が2025年末に期限切れとなることから、次期大統領と議会は、特に個人所得税増税との関連で大規模な税制法案に取り組む必要があろう。

概要 – 本予算案に含まれる主要な事業関係税規定には、法人所得税率の21%から28%への引上げが再度盛り込まれている。2022年のインフレ抑制法の一環として導入された法人代替ミニマム税率を15%から21%に引き上げる提案や、法人の自社株買いに対する消費税率の1%から4%への引上げ提案も含まれている。また、法人・パススルー事業に影響するその他の税制提案も含まれている。国際税制関連では、米国多国籍企業の国外利益に係る税率の10.5%から21%への引上げや、軽課税所得ルール(UTPR)および国内ミニマムトップアップ税の採用が、再度含まれている。また、FDII(foreign-derived intangible income)控除の廃止および研究開発支出の「追加支援」が再提案されている。個人所得税の増税措置には、最高個人所得税率の37%から39.6%への引上げ、高所得者のキャピタルゲイン所得を通常税率で課税、および25%の「超富裕層の納税者に係るミニマム所得税」の導入が含まれている。(注2)

(注2)本予算案では、「超富裕層の米国人と法人が公平な税を負担し、年間所得40万ドル以下の者には新税の負担を求めないとする一連の措置」を含むとしている(最近の合同租税委員会の推定では、所得40万ドル以下の納税者に対するTCJAの個人所得税規定の維持コストは、10年間で2兆ドルから2.5兆ドルになる可能性がある)。財務省はまた、歳入案(見積を含む)に関する一般説明(Green Book)を公表している。

事業関係税 - 本予算案では、法人所得税が合計約2.8兆ドル(56%)増加すると見込まれている。法人税増税案には、法人所得税率の28%への引上げ(10年間で1.35兆ドル)、法人代替ミニマム税率の21%への引上げ(10年間で1,374億ドル)、特定の法人の自社株買いに対する消費税率の1%から4%への引上げ(10年間で1,659億ドル)、百万ドル超の従業員給与に係る事業控除否認(10年間で2,718億ドル)が含まれる。国際税制の改正案には、GILTI(global intangible low-taxed income)規定の改正・インバージョン規制・関連改正(10年間で3,739億ドル)、UTPRの採用・BEAT(base erosion and anti-abuse tax)廃止(10年間で1,363億ドル)、FDII控除の廃止(10年間で1,579億ドル)、財務報告グループのメンバーの過大利子控除制限(10年間で399億ドル)、サブパートF所得とGILTIの配分規定の改正(10年間で27億ドル)、国外の化石燃料所得課税の改正等(10年間で749億ドル)が含まれる。

また、その他の提案として、法人の分配を配当として課税(10年間で19億ドル)、分割型組織再編成の当事者間で不適切なレバレッジを利用することによる税逃れの制限(10年間で437億ドル)、パートナーシップを通じた関連者間のベーシス・シフトの防止(10年間で148億ドル)、「支配」の定義を法人関連(affiliation)テストと整合(10年間で67億ドル)、非法人納税者に対する損失制限の強化(10年間で757億ドル)、一定の無形掘削コスト(intangible drilling costs)の一括費用化廃止(10年間で97億ドル)、石油・天然ガス井に係るパーセンテージ減耗償却(percentage depletion)の利用廃止(10年間で156億ドル)、独立生産者に係る地質学的・地球物理学的償却期間の延長(10年間で36億ドル)、一定の生命保険(business-owned life insurance)に係る比例的な利子費用の否認の拡大(10年間で71億ドル)、不動産の同種資産交換利益の課税繰延べ廃止(10年間で196億ドル)、デジタル資産に関連する諸規定の近代化(「wash sale」規定のデジタル資産への適用・関連者間取引への対処)(10年間で420億ドル)、特定不動産の減価償却控除を通常所得として100%取戻し課税(10年間で72億ドル)、バックアップ源泉徴収が課される報告対象支払いに係る情報報告の改善(10年間で20億ドル)、外国税額再決定(FTR)関連の調整に係る報告・支払いの簡素化(10年間で-3億2,800万ドル)、特定取引に係る時効延長・未払法人所得税の徴収に係る株主課税(10年間で66億ドル)、新規市場税額控除(new markets tax credit)の恒久化(10年間で-91億ドル)、事業用航空に係る消費税改正(10年間で24億ドル)、が含まれよう。

個人関係税 - 最高個人所得税率の39.6%への引上げにより、10年間で2,459億ドルの歳入増が見込まれている。高所得者のキャピタルゲイン所得を通常の税率で課税する提案については、同期間で2,885億ドルの歳入増が見込まれている。25%の「超富裕層の納税者へのミニマム所得税」は、10年間で5,026億ドルの歳入増が見込まれている。財務省のGreen Bookの説明によると、特定の高所得者に対するミニマム税は、純資産(net wealth)1億ドル超のすべての納税者に対して、未実現のキャピタルゲイン所得を含む総所得に適用される見込みであるとしている(なお、同一利益への二重課税にならないよう、ミニマム税の支払いは、その後に実現したキャピタルゲイン所得課税に係る前払いとして、税額控除されよう)。高所得納税者の純投資税率およびメディケア加算税率を3.8%から5%に引き上げる提案では、10年間で4,037億ドルの歳入増が見込まれる。高所得納税者のパススルー事業所得に純投資所得税を適用する提案では、10年間で3,932億ドルの歳入増が見込まれる。なお、議会では、内国歳入法Section 199Aのパススルー控除を所得40万ドル未満の納税者のみに限定する提案もあり、この場合、純投資所得税や高所得者に影響するその他の提案と合わせ、特定のパススルー事業主の最高税率が29.6%から44.6%に上昇する可能性がある。その他の個人関係税の提案として、キャリード(利益)インタレストを通常の所得として課税(10年間で65億ドル)、遺産税・贈与税の改正(10年間で972億ドル)、私的財団に係る支払い要件回避のための一定のファンド(donor advised funds)の利用制限(10年間で2億7,000万ドル)、小規模保険会社の選択に係る所有権の分散要件規定(10年間で114億ドル)、が含まれよう。

出典:PwC, Tax Insights
「月刊 国際税務」2024年5月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修