上院財政委員会のワイデン委員長が国際税制改革の討議草案を公表(米国)

2021-11-19

2021年8月25日、上院財政委員会のロン・ワイデン委員長と財政委員会メンバーのシェロッド・ブラウンおよびマーク・ワーナー両上院議員は、立法案(「討議草案」)と、6ページにわたる国際税制改革案に関するセクション別のスタッフの説明文書を公表した。本討議草案は、2021年4月5日にワイデン委員長、ブラウン上院議員、ワーナー上院議員が公表した国際課税の見直しに関する提案の枠組概要で示された概念に基づいている。本討議草案とその説明文書では、ワイデン委員長と財政委員会の民主党議員が、グローバル無形資産低課税所得(GILTI)、外国由来無形資産関連所得(FDII)、税源浸食濫用防止税(BEAT)、および一般的なサブパートFに関して、どのように現在の国際課税規定の改正を提案する可能性があるかについて、さらなる見識を示している(2021年9月3日までパブリックコメント募集)。ワイデン委員長による本討議草案の公表は、企業・個人増税により部分的に賄われる歳出と税救済規定の調整指示内容を提示する上院可決の予算決議が、8月24日に下院で承認されたことを受けたものである。本予算決議の可決により、下院・上院の委員会(下院歳入委員会・上院財政委員会を含む)は、調整法案の起草を開始することができる(本予算決議では、両院の委員会が、下院・上院でのさらなる行動のための法案を起草・報告するための拘束力のない期限を9月15日に設定)。

上院財政委員会のワイデン委員長は、8月25日の討議草案の公表に伴い、委員会で調整法案に関する活動の準備をしている。上下両院による調整指示内容を伴う2022年度予算決議の最近の承認により、議会共和党議員の予想される反対に対して、民主党の票のみで多額の歳出・税法案を制定するために必要な手続き上の保護が提供されることとなる。ワイデン委員長が8月25日に公表した討議草案は、バイデン大統領が今年初めに提案したさまざまな歳出優先事項の財源に関する国際課税提案のいくつかと概ね一致しているが、特定の規定に関する政府のアプローチとは重要な差異がある。プレスリリースの中で、ワイデン委員長は、本討議草案は、国際課税制度を改革する方法についての民主党員集会での話し合いの出発点であるとし、追加の国際租税政策も検討中であるとした。ワイデン委員長は、税率・全体歳入の引き上げに関する決定は、全民主党員集会によって行われるとした。たとえば、本討議草案では、バイデン大統領が米国の法人税率を28%に引き上げる提案とともに、21%に引き上げることを提案した新しいGILTI税率を明記していない。4月5日の枠組概要では、GILTIの税率を米国の法人税率と同じにするか、それより低い割合(たとえば、バイデン政権が提案した75%)を維持するかは未決事項としていた。本枠組概要の中で、従前の民主党の提案では、米国の法人税率の60%から100%の間の税率で国外利得に課税することを提案していた、と言及している。

GILTIおよびサブパートF所得

  • 本討議草案には、GILTI(名称変更を含む)およびサブパートF所得の規定に関する以下の改正案が含まれる
  • GILTI合算額(「低課税所得のグローバル合算」)を、純CFC対象所得が純みなし有形資産収益(適格事業資産投資簿価(QBAI)(米国株主帰属部分)の10%)を上回る額としてではなく、純CFC対象所得と定義することで、QBAIからのみなし収益の免除を廃止する
    • 強制的な高税率の除外を課すことで、GILTIに国別制度を規定する。本規定により、「高税率の対象所得」として除外されない対象所得額に、米国税を効果的に課すこととなろう
    • 高税率の対象所得を、外国税額控除(FTC)の控除対象外(haircut)を織り込んだ後の実効税率が対象ユニットベースで決定されるGILTIレートよりも高い実効税率の対象所得、として定義する
    • 「対象ユニット」の定義に、被支配外国法人(CFCs)、CFCsが保有する外国支店、およびCFCが保有する特定のパススルー事業体の持分を含める
    • CFCの税務上の居住地国外の事業を、支店またはその他の別個の持分として扱うことにより、CFCの事業を別個の対象ユニットに分割する
    • (1)同一CFCおよび同一国内のすべての対象ユニットを、単一の対象ユニットに集約し、(2)同一の拡大関連グループのメンバーである同一国内のすべての対象ユニットを、単一の対象ユニットに集約する
    • 対象損失のある対象ユニットの所得を高税率の対象所得として扱い、それにより、当該対象ユニットに帰せられる対象損失と外国税をGILTIから除外する
    • 対象ユニットの集約ルールを拡張して、損失にも適用するようにする。これにより、すべての集約ルールが適用された後に損失が発生した場合にのみ、損失のある対象ユニットが高税率の対象ユニットとして扱われる

なお、本討議草案には特定の算式の記載がなく、実効税率がどのように計算されるかはまだ明確でない。

  • 対象ユニットの使用、集約ルール、損失のルールなど、GILTIと同じ方法でサブパートFに高税率除外を適用する。パッシブバスケットに含まれる所得は、高税率除外の目的上、一般のバスケットに含まれる所得とは区分されるであろう
  • 各対象ユニットに帰せられる所得と控除の金額および実効税率について、新しい報告要件が課される
  • 本説明文書に従い、上院財政委員会は、国別の高税率除外に関連するタイミングの問題に対処するための最善の方法を引き続き検討する。ただし、本説明文書では、タイミングを扱う特別な規定は、提案された高税率除外の枠組み内で機能し、ある国の損失が別の国の所得と相殺されるのを防ぐよう、国別の目的を維持する必要があるとしている
  • GILTIおよびサブパートF規定の前述の改正案は、本討議草案の提案の制定日後に開始する外国法人の課税年度、および外国法人の当該課税年度が終了する日を含む米国株主の課税年度に適用されよう

外国税額控除

本討議草案では、次のとおり外国税額控除(FTC)制度に大幅な変更を加えることとなろう。

  • 次のとおりFTC規定を改正する
    • GILTIの場合と同様のFTC控除対象外をサブパートFに適用する
    • FTCの控除対象外を、課税済利益・利得に課せられた税金に拡張し、源泉税と純所得税が同様に扱われるようにする
    • FTCの控除対象外となる額はまだ決定されていない。ただし、本説明文書では、控除対象外となるのは、0〜20%の範囲の可能性があるとしている
  • 新セクション139Jで納税者の外国支店に高税率除外を拡張し、「高税率の外国支店所得」(該当する場合、法人税率または最高個人税率よりも高い税率の対象となる総所得として定義される)を納税者の総所得から除外する。GILTIおよびサブパートFと同様に、高税率外国支店除外は国別に決定され、同じ国の支店が集約され、高税率ではない所得に帰せられるFTCは、サブパートFおよびGILTIのFTCと同様の控除対象外が適用されよう(0〜20%が控除対象外)。損失のある支店に帰せられるFTCは認められないであろう
  • 試験研究(R&E)費用およびスチュワードシップ費用は、その活動が米国内で行われた場合、完全に米国源泉として扱う。米国外で行われる活動に関連するR&Eおよびスチュワードシップ費用の取り扱いは、引き続き現行法と同じ方法で扱われよう
  • 前述の改正案は、本討議草案の提案の制定日後に開始する課税年度に適用されよう。適格R&Eに係る移行規定もある

FDII

本討議草案には、多少の名称変更を含む、FDII制度のいくつかの改正が含まれている。本討議草案では以下の提案となろう。

  • 頭字語のFDIIおよびDIIは維持されるが、「外国由来の無形資産」および「みなし無形資産所得」ではなく、新たに定義された概念である「外国由来イノベーション所得」および「国内イノベーション所得」に言及している。現在のDIIから新しいDIIへの改正は、セクション250の最も広範な改正であり、以下でさらに説明するように、納税者が負担した特定のR&Dまたは労働者の訓練費用の金額に基づいて、FDIIの控除額を決定することとなろう
  • FDIIの一般的な計算は維持される(つまり、FDII = DII ×(FDDEI(現在は、外国由来控除可能所得)/DEI(控除可能所得))。ただし、新しいDIIは、現在のDIIとは異なる要素に基づく。現在のDIIは、DEIからQBAIの10%を引いたものに等しくなる。新しく定義されたDIIは、(i)国内企業のDEI、または(ii)米国で実施された活動に起因する国内企業の(a)「適格な研究開発費」および(b)「適格労働者訓練費用」の割合(未定)の合計、のいずれか少ない方に等しくなろう
    • 適格な試験研究費支出という用語は、Section 174条に基づいて控除可能な試験研究費支出を意味する
    • 「適格訓練」費支出という用語は、「高額の報酬を受けていない従業員」の「適格訓練」に係る費用支出を意味する
      • 「適格訓練」という用語は、(i)高度の認可資格を取得する訓練、および(ii)訓練、教育、または見習いプログラムの4つの列挙されたカテゴリのいずれかを通じて提供される訓練を意味する
      • 「高額の報酬を受けていない従業員」という用語は、納税者に提供されるサービスの年間報酬が82,000ドル(2022年後のインフレに合わせて毎年調整されよう)以下の納税者の従業員を意味する
  • (i)(新しく定義された)FDII、(ii)セクション951Aの合算、および(iii)そのようなセクション951Aの合算に関連するセクション78のグロスアップについて、セクション250の年間控除額を維持するが、控除可能額の算定に際して、それぞれに適用される割合を減らして均等にする。本討議草案では、新しい控除率を示していない
  • (FDIIおよびセクション951Aの合算額に加えて)セクション78のグロスアップ額を含めるように改正された課税所得制限を維持する(これにより、GILTIの問題(いわゆる「GILTI glitch)」に対処する)
  • DEIとFDDEIを算定するためのルール、および関連者取引に適用されるルールを変更せずに維持する
  • (新しく定義された)FDIIを算定する際に(新しく定義された)DIIに適用する外国由来の比率(つまり、FDDEIとDEIの比率)を維持する

BEAT v. SHIELD

本討議草案によれば、(バイデン大統領案で提案されているように、有害インバージョンの阻止および軽課税開発の終了(SHIELD)を選択し、BEATを廃止するのではなく)重要な改正を加えたうえで、BEATを維持する。

  • 現在のBEAT制度を2段階税率制度に変更し、「税源浸食所得」に適用されるより高い税率を加える(正確な税率は未定)。つまり、税源浸食所得(より高いBEAT税率で課税)と通常所得(10%で課税)の合計は、現行法の修正課税所得に等しくなる
  • 現行法の下での通常所得の10%BEAT税率への予定された引き上げと同様に、税源浸食所得に係るより高いBEAT税率を、2025年後に、2.5%ポイント引き上げる
  • バイデン政権のSHIELD提案をBEATに組み込むための最善の方法を引き続き検討する
  • BEATの目的で、セクション38のすべての一般的な事業税額控除を考慮する。その結果、税源浸食の最低税額が引き下げられる場合がある

セクション59Aに加えられる改正は、本討議草案の提案の制定日後に開始する課税年度に適用される。

(注)下院歳入委員会のニール委員長からも国際税務関連の修正案が提出されている(2021年9月13日付)。

出典:PwC, Tax Insights
「月刊 国際税務」2021年10月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修