AI時代の社員教育(5)経営層、本質見抜く知識を

2020-05-28

デジタル技術の発展が、人々の暮らしやビジネスのスタイルを大きく変え続けている。米シスコシステムズの2019年の予測では、22年までに全世界のデータ量を示す年間IPトラフィックは17年の3.2倍の4.8ゼタ(ゼタは10の21乗)バイトに、ネットワークデバイス(機器)は17年の180億台から285億台に増加すると見込まれている。

トラフィックの増大がもたらす環境変化が、日本企業に求めるものは何か。それはこの領域での適切かつ迅速な対応である。しかしそれは容易ではない。なぜなら、これらの変革は今までの要件定義をベースとした「すでにあるプロセス」のデジタル化だけでなく、顧客や取引先の変化に伴う「今までにない」新しい価値の提供、接点の変革が求められるからだ。

事前のビジネスモデルの明確化が難しいだけでなく、社内横断的な協力が必要となり、総論賛成、各論反対の壁を乗り越える必要がある。日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)と野村総合研究所の共同調査によれば、デジタル化を進める際、社内で最も苦労する理由の上位に「効果が不透明な時に実行するための決断・合意形成、リーダーシップ」が入っている。今、日本企業で重要なことは、この新領域での企業の経営層による明確な決意、リーダーシップなのだ。

では、どうすればよいのか。答えはシンプルだ。必要なのは、経営層が「デジタル領域での意思決定をするための力」を手に入れることである。経営層は実際のビジネスの中で多くの経験を積み、MBA(経営学修士)などで多角的な勉強もしている。その結果、例えば、財務のプロではなくとも、財務諸表を見て「違和感」を感じる能力を持っている。

デジタル領域で必要なのもこの「違和感」を感じる能力である。技術の専門家を目指すのではなく、デジタル技術の力を最大限生かすための力学を知り、経営判断に資するコアの知識を手に入れる。人工知能(AI)やブロックチェーン(分散台帳)など次々と生まれる新技術の表層に踊らされることなく、その本質を理解し、いわゆる「ビジネスとしての感覚値」をもって堂々と経営判断をする。その土台を作ることが大切だ。

今後、デジタルに関する意思決定の場面はさらに増えるだろう。今改めてこの新領域における経営層の強いリーダーシップが求められているのである。

執筆者

水野 有平

PwC Japanグループ デジタル最高顧問, PwC Japan合同会社

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※本稿は、日経産業新聞2020年5月27日付掲載のコラムを転載したものです。

※本記事は、日経産業新聞の許諾を得て掲載しています。無断複製・転載はお控えください。

※法人名、役職などは掲載当時のものです。


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