
資産運用業界における変革への対応:テクノロジーの可能性
資産運用会社と機関投資家を対象に実施した本調査では、2028年までの運用資産残高の見通しに加え、生成AIなどの破壊的なテクノロジーの影響を分析しました。さらに、テクノロジーの活用にむけて求められる4つの行動原理について解説します。
2022-01-18
「週刊金融財政事情」2022年1月18日号 寄稿
PwCコンサルティング合同会社
Blockchain Laboratory
所長 丸山 智浩
マネージャー 森 寿昭
シニアアソシエイト 中山 大輔
シニアアソシエイト 中村 敏
2020年半ば以降、分散型金融が世界的に驚異的な成長を遂げている。ただし、いまだ黎明(れいめい)期にあるため、社会的な普及に向けては新たなサービスの開発や、当局による規制・ガバナンス体制の構築といった対応が必要である。分散型金融を活用したDeFiと呼ばれる金融サービスは、「当局の許認可に基づき金融機関が金融サービスを提供する」という中央集権的な枠組みの金融サービスではなく、特定の金融機関に依存しないオープンソースプラットフォームによるサービスの可能性を示している。本稿では、DeFiを支えるブロックチェーンの技術的な特徴とその活用方法や、足元で広がる代表的なDeFiサービスを紹介する。また、これらを踏まえた金融サービスの今後の発展可能性や、それが私たちの生活をどのように変えていくのかについて考察する。
DeFiを支えるブロックチェーン技術は、ビットコインをはじめとした暗号資産の発明を通じてもたらされたものである。サービスの利用者は、従来のように中央管理者が運営するサーバーにアクセスするのではなく、分散して保管されたデータの内容を利用者間で検証し、合意形成された情報にアクセスする形態を取る点に大きな特徴がある。また、情報の「耐改ざん性」や「トレーサビリティー」といった技術も、ブロックチェーン技術に欠かせない特徴である。
当社が、ブロックチェーンを活用して企業や社会の課題解決を支援するために開設した「ブロックチェーンラボラトリー」では、ブロックチェーンの根幹技術を「四つのD」と呼んでいる。すなわち、①特定の組織や管理者が準備する情報に依拠せずに、データの信頼性を担保できる非中央集権(Decentralization)であること、②契約書や証明書など、従来はペーパーなどを取り交わすことで得ていた信頼を損なわないかたちでデジタル化(Digitalization)できること、③誰でも平等にエコシステムに参加できる「サービスの大衆性(Democratization)」、④第三者を介さずとも取引などに信頼性が担保されること(Disintermediation)――の4点がブロックチェーン技術の本質的価値だと考えている。
DeFiは、基本的に利用者間での合意形成の成立を条件として、契約を自動執行する仕組み(スマートコントラクト)を用いている。契約情報は、利用者間で改ざんできないかたちで記録され、利用者のエコシステムが存続する限り、自動で契約が執行され続ける。DeFiは、こうした基盤を用いて中央集権的な金融機関が介在しない金融サービスの提供を目指している。現時点で提供されている代表的なDeFiサービスは、図表のとおりである。
名称 |
概要 |
---|---|
DEX(Decentralized Exchange=分散型取引所) |
暗号資産の交換が可能なプラットフォーム。スマートコントラクトに流動性を提供する者と、その流動性を使ってトークンを交換する者の仲介を自動で行う。オーダーブック形式(利用者は売買注文をオーダーブックに出し、マッチングはオフチェーン、マッチング後の決済はオンチェーンで行う)とAMM形式(Automated Market Makers=利用者はオーダーブックを介することなく、暗号資産を直接取引可能)が存在する。 |
レンディング |
プラットフォームに暗号資産を預けて担保とすることで、別の暗号資産を借り入れることができるサービス。「担保資産×係数>借入資産」の不等式が成り立つよう設計されており、担保資産の価格があらかじめ定められた水準よりも下落すると、第三者による担保資産の清算が可能な状態となる。清算は基本的に誰でも参加可能で、清算に参加するインセンティブは、市場価格よりも割安に担保資産を購入可能できることにある。 |
アグリゲーション |
DeFiは複数の流動性プールが併存し、プールごとに提供されている通貨・金額が異なるので、金利も異なる。この複数の流動性プールに対し、利用者の利回りの最適化を自動的に図るサービス。 |
合成資産 |
特定の暗号資産を担保として何らかの数値をトラッキングし、価値を算出して新たな暗号資産を作り出すサービス。例えば、独自暗号資産Aを担保に米ドルと同等の値動きをするとされる暗号資産Bを発行する。技術的には法定通貨、株式、コモディティーなどにリンクしたあらゆる合成資産の生成が可能。 |
ステーブルコイン |
価格の安定性を実現するように設計された暗号資産。法定通貨や暗号資産を裏付け資産として発行する担保型と、アルゴリズムによってステーブルコインの流通量を調整する無担保型が存在する。 |
ブリッジ |
カストディーとして暗号資産を預かり、暗号資産Aと1:1で交換できる暗号資産Bを発行することで、ブロックチェーンAの資産性をブロックチェーンB上でも利用できるようになるサービス。 |
DeFi保険 |
特定のDeFiサービスに対して、スマートコントラクト保険への加入を提供するサービス。特定のDeFiサービスについて、ハッキングやバグに付随する保有資産の損失について、損害保険金が支払われるようになる。 |
(出所)筆者作成
それでは、DeFiによって今後、どのような金融サービスが生まれるのだろうか。
金融業界が1970年代の米国を中心としたオプション取引の発達によって大きく進展したように、DeFiにおいても、図表で示したように、預金や貸出などの伝統的な金融サービスを超えて、オプションやそれを活用したトレーディングなどの高度な領域でその開発が進んでいる。
このような高度な取引の開発が進む一方で、伝統的な金融取引、つまり「与信取引」ではDeFiサービスの開発が進んでいない。レンディングやデリバティブなどの与信が伴う取引は、原則として担保付取引として提供されている。例えば、レンディングサービスの利用においては、暗号資産を担保とする必要があり、この掛け目の範囲内でしか利用できない。また、暗号資産の乱高下により、利用可能な範囲の事前予測がつきにくく、思いがけずロスカットが発生する可能性もある。
このように考えると、現状のDeFiは、定量的な情報に基づく合理的な判断や、金融取引における事務処理を非中央集権的に自動化する試みであるといえる。
DeFiは、すでに存在する別のDeFiサービス(オープンソース)を相互に連携させて、簡単に新しい金融サービスを構築できる。これは「マネーレゴ」とも呼ばれており、各サービスがイーサリアムなどのパブリックチェーン上で展開されていることから、当該サービス提供者と提携関係を持たずとも、これらを組み合わせることで提供が可能になる。スマートコントラクトによる自動執行によって、複数のDeFiサービスを組み合わせても取引情報の確認コストが発生しないというブロックチェーンの利点も、このマネーレゴを支えている。
こうしたDeFiサービスの特徴を生かせば、既存の金融機関が莫大(ばくだい)なコストをかけて維持している勘定系システムなどのインフラ機能や、さまざまな事務処理対応を行う人件費をDeFiで代替することも期待できる。ただし、未整備な法規制、不透明なガバナンス、スマートコントラクトの脆弱(ぜいじゃく)性といった課題を解決する必要がある。これら課題を超えた先の未来の一つとして、金融機関の企業規模がスリム化され、その業務は与信判断など人を介した複雑な判断を必要する業務に特化されるなど、金融機関の在り方が変わる可能性もある。
それでは、DeFiサービスが普及した際には、生活者にはどのような恩恵があるだろうか。
まず考えられるのは、金融サービスを受ける際に発生するコストの低下であろう。入出金手数料、振込手数料、借入金利、運用商品の購入手数料など、われわれは金融サービスの利用に際し、さまざまな手数料を支払っている。欧米では、銀行口座の維持・保有に対して手数料が課されるケースが多いが、日本の金融機関においても、昨今の収益環境が厳しいことを踏まえれば、欧米と同程度の手数料が導入される可能性は十分にある。足元では、未利用口座への手数料の導入が進んでおり、今後、口座維持だけでなくその他の取引時に発生する手数料についても、引き上げられる可能性もあるだろう。しかし、DeFiサービスの提供が大きな転換点となり、むしろ手数料の低下が図られる可能性もある。
手数料の低下以外には、運用利回りの向上が挙げられる。DeFiサービスには年率で数%〜数十%を超えるものが複数存在し、銀行預金の利息と比べて魅力的なものが多い。取り扱う暗号資産の需給の影響もあるが、仲介者がいないことで、その分のコストを利用者に還元できる点が、利回りが総じて高い理由である。現状、暗号資産の普及は進んでいないが、今後、直感的で分かりやすいDeFiへのアクセスが可能となれば、高利回りを背景に社会への普及が急速に進む可能性もある。
しかし、DeFiの普及にはさまざまな課題が存在している。特に大きな課題になっているのが、金融当局による規制・監督の在り方であり、DeFiの特徴である「非中央集権」が規制すべき対象者を不透明にしている。この点については、すでに当局などから問題視されているが、既存金融機関が提供者となることで解決可能な論点であると思っている。日本では現在、金融庁、日本銀行、フィンテックベンチャー、DeFi開発コミュニティーなどが中心となって、DeFiの今後や規制の在り方について活発な議論を行っているが、金融機関も積極的に研究や議論への関与が必要であろう。
なお、仮に中央集権的な金融機関が、分散型取引所やレンディングサービスを提供する場合であっても、それを「分散型金融」と呼ぶのが正しいかは別途議論が必要だ。中央集権的な金融機関(Centralized Finance)がDeFiサービスを提供するケースを指して、CeDeFiと呼ぶ向きもある。DeFiと従来型金融は、消費者メリットや利便性の向上といった視点から、双方が歩み寄る方向が望ましいと思われる。
※本稿は、週刊金融財政事情 2022年1月18日号に掲載された記事を転載したものです。見出しおよび記事本文、図表は同誌掲載のものを一部修正/加工しています。
※本記事は、週刊金融財政事情の許諾を得て掲載しています。無断複製・転載はお控えください。
※法人名、役職などは掲載当時のものです。
資産運用会社と機関投資家を対象に実施した本調査では、2028年までの運用資産残高の見通しに加え、生成AIなどの破壊的なテクノロジーの影響を分析しました。さらに、テクノロジーの活用にむけて求められる4つの行動原理について解説します。
証券監督者国際機構(IOSCO)が2024年11月に公表したプリヘッジ(Pre-hedging)に関するコンサルテーションレポートについて、概要と今後想定される課題を解説します。
日本の保険会社は競争力を維持し、グローバルに成長するために、変革を続けなければなりません。本稿では、今日の課題を乗り越えながら自ら変革しようとする日本の保険会社の2025年における必須事項のトップ10について解説します。
金融サービス業はマクロ経済情勢や地政学的緊張による不確実性に引き続き直面しているものの、メガディールの復活とディール金額の増大に伴い、2025年にはM&Aが活発化するとの楽観的な見通しが広まっています。