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2020-12-08
FATF の第4 次対日相互審査の結果公表は2021年に延期されたものの、マネロン対策強化に向けた当局方針を踏まえて、大手行を中心に継続的顧客管理措置の高度化に取り組んでいる。本稿では、継続的顧客管理措置の取り組み事例に加えて、現場で高度化を推進する際のポイントを解説する。
2019年に実施された第4次FATF対日相互審査結果は、2020年8月に公表予定であったが、新型コロナウイルスの影響により21年4月頃へと延期された。現時点で、審査結果に関する公式な情報は確認されていない。
一方、どのようなことが課題として報告されるかは、ある程度の予想を立てることができる。例えば、金融庁が2018年および2019年に公表している「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策の現状と課題」(以下、現状と課題)の中で、当局が課題としていて指摘している箇所などが考えられる。
本稿では、当局が現状と課題の中で言及している継続的顧客管理措置を取り上げ、強化が求められる背景について概説した後、大手行の具体的な取り組み事例を紹介しつつ、大手行以外の金融機関に求められる継続的顧客管理措置を論じ、FATF対日審査結果公表を踏まえた今後の規制・監督の方向性を展望する。
なお、文中の意見にあたる箇所は、筆者の個人的見解であり、所属する組織の公式見解を示すものではない事を予め断っておく。
まず、顧客管理措置の内容を確認したい。
2019年4月に金融庁が公表した「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」(以下、ガイドライン)(注1)では、顧客管理措置を、個々の顧客の情報や当該顧客が行う取引の内容等を調査し、調査の結果をリスク評価の結果と照らして、講ずべき低減措置を判断・実施する一連の流れと定義している。また、顧客管理措置をどの深度で実施すべきかについては、個々の顧客やその行う取引に関するリスクの大きさに応じるべきとしている。さらに、この顧客管理措置は、取引開始時のみならず、取引開始後においても継続的に実施する事が求められている。
このうち、後者を継続的顧客管理措置といい、ガイドラインでは以下の事項への対応を金融機関に求めている。
顧客の属性は刻々と変化するため、取引開始時にある顧客のマネー・ローンダリング及びテロ資金供与リスクが低いと評価しても、そのような評価が将来的に不変とは限らない。また、口座を開設すれば、当該口座は半永久的に存続しまうため、口座名義人本人が口座を利用していること(口座売買等を経て、本人になりすました他人に利用されていないこと)を確認することは、振り込め詐欺等を防止する観点から極めて重要であると言える。この点を踏まえ、以下の点がポイントになる。
大手行では、昨年から継続的顧客管理を開始しており、既存顧客については、高リスクと評価された顧客から優先して、顧客情報の更新を目的とした質問票を送付している。開始前は、本取り組みのコストを懸念する声が聞かれたが、現在はそのような声を聞くことは少なくなり、顧客からの理解をどのように得るかという事に腐心しているとの声が多く聞かれる。具体的には、顧客からの「なぜ年収を教えなければならないのか」「自分は疑われているのか」等の苦情や質問票への記入方法や「詐欺ではないか」といった問合せが相当数寄せられるとのことである。このような苦情・問合せへの対策として、大手行は専用の問合せ窓口を設け、当該窓口での対応並びに質問票の発送・回収と情報の更新も併せて行っている。また、専用窓口で集中的に対応する事で、問合せ等の内容がパターン化されていることが判明し、FAQを作成する事で対応が効率化されたとの声も聞かれる。
なお、新型コロナウイルス感染症の感染拡大による緊急事態宣言への対応から、各預金取扱金融機関は継続的顧客管理の実施を一時的に中断することを余儀なくされた。このため、今後はWebによる質問票への回答を通じた継続的顧客管理が検討されるものと思われる。
今後、大手行は見直し後の顧客のリスク評価に基づく取引モニタリング等のリスク低減措置を講じると共に、顧客に関する不芳情報(ネガティブ・ニュース)の把握や疑わしい取引の届出があった場合には、顧客情報を確認した上で、顧客のリスク評価を機動的に見直す態勢を構築していくと予想される。
では、地銀、信金信組に代表される大手行以外の金融機関(以後、地銀・信金信組等と略)にはどのような継続的顧客管理措置が求められるか。
何よりも大切なことは、マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策分野では、規模・体力を理由に対応を遅らせること、あるいは不十分な対応を取ることは地域・職域等に密着型の金融機関であっても、許されないということである。なぜなら、マネー・ローンダリング及びテロ資金供与を企てる犯罪者等は対策が脆弱な金融機関をターゲットとするためである。このため、各金融機関は自らが営む事業に照らした適切な対策を講じる必要がある。もし、適切な対策を講じるだけの体力が無い場合は、当該事業からの撤退を検討しなくてはならないであろう。
以上のことを前提に、地銀・信金信組等が継続的顧客管理措置を進めていく上での視点を述べる。
まず、本人確認で入手する情報が最新の状態でないこと、つまり、取引相手が誰なのかが明らかでないことが金融機関にとって大きなリスクをもたらすという認識のもと、いわゆる本人確認法(注2)施行以前に開設した口座を対象に既存の顧客情報に基づく「仮」のリスク評価を実施し、その評価に応じた優先順位で顧客情報を更新していくことが考えられる。
一方、職業・取引目的等の情報は、顧客属性を把握する、あるいはリスクの高低を判断するための情報であり、その情報がアップデートできない事がもたらすリスクは、本人確認に関する情報が最新でない事がもたらすリスクとの比較において小さいといえる。
そのため、顧客リスクが低いことを前提にすれば、新規取引等のイベントが発生した時に届出内容の変更有無を確認することで足りると考える。
なお、不稼働口座については、口座が突然使われることがリスクの兆候であると考え、質問票を送付しない代わりに当該口座に取引制限をかけておき、モニタリングにより再稼働を検知した場合には直ちに顧客情報を更新し、リスク評価のうえで必要な措置を講じることが考えられる。
上述のとおり、大手行は継続的顧客管理措置を集約した専門部署を立ち上げ、対応を行っている。このような取り組みは、窓口業務の負担を減らすという観点から、地銀・信金信組等においても検討に値する施策であると言える。特に、新型コロナウイルス感染症の影響により営業時間の制約を受けている金融機関は依然として相当数あることから、窓口業務担当者は窓口でしか対応できない業務(マネーロンダリング・テロ資金供与対策であれば店頭での気づき・ヒアリング等を通じた疑わしい取引の検知)に専念すべきである。
また、大手行が現在取り組みを進めているウェブ活用を前提とした非対面での継続的顧客管理措置こそ、人的資源の制約がある地銀・信金信組等が進んで行うべき施策であると考える。昨今、ウェブ通帳あるいは通帳アプリを導入する預金取扱金融機関が増えており、特にアプリ経由で行う本人確認の場合は、いわゆる携帯電話不正利用防止法(注3)と相まって、精度の向上が期待できる。
さらに、顧客管理措置を確実に行うことで顧客固有のリスク特性の見極めと類型化(顧客のプロファイリング)が精緻になり、顧客のプロファイリングから乖離した取引を検知する取引モニタリングの精度向上が期待できる。
この結果、検知された取引に対する疑わしい取引届出要否を判断する調査業務(インベスティゲーション)の負荷が軽減されると同時に顧客管理業務と調査業務の連携が密になり、両業務で相乗的な業務品質の引き上げに繋がる事例が見られる。
このように、施策を確実に実施することで、別の施策の効率化や業務品質に資することに目を向ける必要もあろう。
なお、これらの取り組みは、各金融機関として取り組むのではなく、金融機関が協力して共同センター等を運営して対応することで、各々の負担が軽減する可能性も考えられる。
来年に延期された第4次FATF対日相互審査結果に関する公式情報は現時点で確認されていないことは冒頭に述べたとおりである。ただ、はっきりしていることは、審査は通過点に過ぎないということである。マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策は犯罪集団あるいはテロ集団等を相手とする終わりの無い取り組みである。
それでもマネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策は地銀・信金信組等に負担が大きいことは共通しており、各金融機関が協力して対策を講じる余地は大いにあろう。
(注1)2018年2月に公表したものを一部改正したもの。
(注2)「金融機関等による顧客等の本人確認等に関する法律」(2003年1月施行)。なお、2008年3月に「犯罪による収益の移転防止に関する法律」が全面施行されたことに伴い廃止。
(注3)「携帯音声通信事業者による契約者等の本人確認等及び携帯音声通信役務の不正な利用の防止に関する法律」。日本における携帯電話・PHSの音声端末等の利用に関して、契約者の本人確認の義務付けや不正な譲渡の禁止等を規定する法律であり、2006年4月に施行されている。
※本稿は、銀行実務2020年12月号に寄稿した記事を転載したものです。
※発行元の許諾を得て掲載しています。無断複製・転載はお控えください。
※法人名、役職などは掲載当時のものです。