
産業TREND/経営リーダーの論点 ファウンドリーの顧客獲得戦略――技術の“金の卵”で新興育成
持続的に成長が見込まれる半導体業界ですが、世界中で工場が新設され供給過剰に陥る「2024年問題」などのリスクも予想されています。そのために重要となる半導体受託製造(ファウンドリー)の顧客獲得戦略などについて解説します。(日刊工業新聞 2025年2月27日 寄稿)
2025-01-31
※本稿は、『日刊工業新聞』2024年10月31日付「経営リーダーの論点(10)」に寄稿した記事を再編集したものです。
※発行元の許諾を得て掲載しています。無断複製・転載はお控えください。
※法人名、役職などは掲載当時のものです。
モビリティー業界では、ソフトウェア定義車両(SDV)の標準化に向け、完成車メーカー(OEM)やサプライヤーが対応を迫られている。この背景にあるのは、業界を取り巻くグリーン・トランスフォーメーション(GX)とデジタル変革(DX)の二つの変革だ。本稿では業界におけるGX・DXの取り組みの方向性に立ち返った上で、なぜSDVが注目されているのかを解説する。
日本のモビリティー業界を取り巻く変革は、GXとDXの2軸に大別される(図1)。まず、サステナビリティー(持続可能性)を実現するため、GXが進行する。政府の「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」や「分野別投資戦略」により、イノベーションの促進、国内生産拠点の確保、GX市場創造を3本柱として次世代電池の研究開発支援や各種補助金などの施策パッケージが展開されつつある。GXは、電気自動車(EV)の普及や資源循環の進展などを受け、自動車とエネルギー/資源エコシステムが融合しながら進行する。
図表1:モビリティ業界の変革はGXとDXの2軸
加えて、移動・車両価値を最大化するため、DXが進行する。自動車の安心・安全と移動・輸送力の確保を実現するための自動運転、利用体験向上やパーソナライズ化を実現するSDV化をはじめとするデジタル技術の高度化が挙げられる。サイバーセキュリティー・マルウエア対策などの国家安全保障への対応も求められる。
日本は「モビリティDX戦略」において、SDV領域、モビリティーサービス領域、データ利活用領域における戦略を立案した。SDVのグローバル販売台数は「日系シェア3割」の実現を目指している。DXは自動運転の普及やSDV化などを受け、自動車と交通・モビリティーエコシステムが融合しながら進行する。
日本のモビリティー業界がGX・DXに対応するには、新領域の創造、組織・産業能力の再定義、そのための効率化・省人化の三つの方向性について、適正なスピードとバランスで取り組むことが求められる。
グローバル市場・競争環境を見ると、米中の新興OEMの存在感が一段と高まっている。彼らは、既存OEMとは異なる設計・開発思想/手法をベースに、相次いでEVの新モデルを投入している。頻繁なOTA(オーバー・ジ・エアー)により、顧客ニーズにも迅速に対応する。こうした変化の中、川上の車両組み立て・製造から、より川下にあるサービスへと付加価値が移行するスマイルカーブ化が進むだろう。
他方、日本のモビリティー業界は、ICE(内燃機関)車の卸売りを中心に最適化されたエコシステム、自社バリューチェーン、これらを求めてきた既存顧客などをアセット(資産)として抱えている。このアセットを活用、効率化しながら、GX・DXに挑戦することが求められる。それだけに、自社のターゲット(地域・セグメント・顧客)に対するGX・DXは、新興OEMのターゲットに比して緩やかであり、変革のタイミングを見計らう必要がある。
以上のことから、GX・DXは、新領域の創造を目指す「新規産業・事業の探索」、既存産業の効率化・省人化により原資を確保する「既存産業・事業の深化」の両利き経営だけではなく、企業変革への柔軟性を高めて組織・産業能力を再定義する「既存産業・事業の再創造」も含めた三つのかじ取りが重要となる(図2)。
図表2:GXとDXに対応するための3つの舵取り
かじ取りをする上で、具体的な6象限を提示する。まず、新規産業・事業の探索について、GX観点ではエネルギー・電池産業を含めて、ネットゼロ化のデザインと具現化が挙げられる。今後、EVがアーリーアダプター層に行き渡ると、規制や振興策に頼ったEVシフトではなく、EVのエコシステム全体を創造することが求められる。
DX観点では、ヒト・モノの移動を支え続ける自動運転・モビリティーサービスのデザインと具現化が挙げられる。自動車は移動手段としてだけではなく、移動・保有/利用体験として寄り添うべきだとうたわれて久しい。SDV化が個客・個別用途の最適化を図る実現手段となる中、どう設計・実装するかが問われる。
続いて、既存産業・事業の深化に向け、GX観点では現実解として高度なかじ取りを求められるパワートレインのマルチパスウェイ化が挙げられる。時間軸や地域特性を踏まえると、環境対応は当面、バッテリー電気自動車(BEV)を基軸とし、その他のパワトレも選択肢として提示することが肝要だ。一方、ICE車はEOL(エンド・オブ・ライフサイクル)や縮小均衡点を見極め、メーカーの合従連衡を含めた効率的な取り組みが求められる。
DX観点では、基盤となるデータ利活用の促進が挙げられる。新たな取り組みを進めるためのヒト・カネを拠出すべく、SDV化と表裏一体でモデルベース開発をはじめとする効率化に取り組むことが望まれる。
最後に、既存産業・事業の再創造に向けて、GX観点では脱炭素とQCD(品質・コスト・納期)を両立するサプライチェーン(供給網)・バリューチェーン変革が挙げられる。レアメタル(希少金属)やレアアース(希土類)などの資源獲得、資源循環に対応するサプライチェーン変革、オンライン販売やライフサイクルビジネスといった販売後のバリューチェーン変革、これらを全体最適化することが求められる。
DX観点では、SDV化を軸にした“ビジネスモデル・リインベンション(再発明)”が挙げられる。売り切り型の事業やウオーターフォール型の機能、製品・サービスのあり方を再定義し、これに対応する社内プロセス・体制を構築することが期待される。
以上のように、SDVは、DX観点での中心的な機能であることにとどまらない。例えば、新規産業・事業の探索では、EV関連の新規事業・機能付加への貢献を通じ、GX観点でも顧客・車両の理解を深め、最適化を図るイネーブラーになることが期待される。従って、日本のモビリティー業界においては、パワトレ・機能面での「多様なSDV」を目指すことになるだろう(図3)。
図表3:日本のモビリティ業界はパワートレイン・機能面の多様なSDVを目指すべき
持続的に成長が見込まれる半導体業界ですが、世界中で工場が新設され供給過剰に陥る「2024年問題」などのリスクも予想されています。そのために重要となる半導体受託製造(ファウンドリー)の顧客獲得戦略などについて解説します。(日刊工業新聞 2025年2月27日 寄稿)
国内住宅産業の主要な問題に「空き家」があります。行政と業界団体の連携、非競争領域との協調などを通して、産業全体で解決すべき課題として考察します。(日刊工業新聞 2025年1月30日 寄稿)
気候変動やテクノロジーの進化など外部環境に起因するものをはじめ、品質不正など社内事情に起因するものまで、日本企業を取り巻く経営リスクが変化する中、重要になっている戦略的リスクマネジメントについて解説します。(日刊工業新聞 2024年12月26日 寄稿)
モビリティー業界を取り巻くグリーン・トランスフォーメーション(GX)とデジタル変革(DX)の二つの変革の取り組みの方向性に立ち返った上で、なぜソフトウェア定義車両(SDV)が注目されているのかを解説します。(日刊工業新聞 2024年10月31日 寄稿)
2024年9月23日に発足した、不平等・社会関連財務情報開示タスクフォース(Taskforce on Inequality and Social-related Financial Disclosures:TISFD)の概要について説明します。
株式会社アドバンテスト取締役の占部利充氏とPwCコンサルティングのパートナー北崎茂が望ましい経営トップ交代、経営チームづくりのポイントを解説します。
経済・環境・社会課題を総合的に捉えて可視化・評価し、意思決定を行う「ホリスティックアプローチ」と、変革の要所で複数の業界・企業・組織が協調して対策を実行する「システミックアプローチ」について解説します。
グローバルにおける規制やガイドラインの整備といったルールメイキングに特に焦点を当てながら、ホリスティック・アプローチの重要性を示します。