
産業TREND/経営リーダーの論点 ファウンドリーの顧客獲得戦略――技術の“金の卵”で新興育成
持続的に成長が見込まれる半導体業界ですが、世界中で工場が新設され供給過剰に陥る「2024年問題」などのリスクも予想されています。そのために重要となる半導体受託製造(ファウンドリー)の顧客獲得戦略などについて解説します。(日刊工業新聞 2025年2月27日 寄稿)
2025-02-20
※本稿は、日刊工業新聞に寄稿した記事を再編集したものです。
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日本企業を取り巻く経営リスクは年々、大きく変化している。気候変動やテクノロジーの進化といった外部環境に起因するものをはじめ、品質不正や投資・M&A(合併・買収)の失敗など社内事情に起因するものもある。それだけに、リスクを発現前に見通して経営の意思決定に反映させる戦略的リスクマネジメントの確立が一段と重要になっている。このためには、インテリジェンス機能の確立とデジタルの活用が欠かせない。
企業はさまざまなリスクに直面している。多くは、それぞれのリスクに対処する個別の仕組みを構築し、運用している。しかし、対峙(たいじ)するリスクには、気候問題や人権、技術革新などと、従来の財務的なリスクを中心にした捉え方ではカバーできないテーマが含まれるようになってきた。外部環境変化に伴うリスクへの考慮が足りず、中期経営計画や事業計画を下方修正、目標未達となるケースが増えている。
例えば自動車業界が主要取引先で、目標未達だった場合、直接的な原因は生産台数の回復の遅れや中国市場の需要減だろうが、市場動向・産業政策動向・経済政策を捉え切れず、早い段階で適切に経営判断できなかったことも原因として挙げられるだろう。
通常、リスクマネジメント部門は、各部門・担当者のリスク認識を集めてリスクを評価し、対策を検討する進め方をしている。だが、最近は経営者目線で中長期的なリスクや機会を抽出し、重大なリスク(トップリスク)を選定して統合的なリスク管理(エンタープライズリスクマネジメント)をする企業も増えつつある。
従来のリスクマネジメントには、自社に近い外部環境しか捉え切れず、長期的な視点も不足し、経営への貢献度が低いという課題があった。中計や事業計画の達成のためには、より広い視点でマクロトレンドを捉え、長期的な視点で自社への脅威・機会を抽出する「次世代の経営戦略」を策定する必要がある(図1)。
図1:次世代の経営戦略策定の方法
リスクマネジメントは戦略実行と表裏一体という意識を持ち、リスクと経営を連動させて意思決定できる仕組みを確立することが求められる。しかし、マクロトレンドを把握し、そこから自社の戦略やビジネスへの影響を識別することは、リスクマネジメント部門だけでは難しい。
そこで、幅広い情報を分析し、経営に近い示唆を出すリスクインテリジェンス機能を確立することが欠かせない。この機能には、リスク抽出、評価などのリスクマネジメント能力だけではなく、マクロ環境を捉えるリサーチ能力、自社のビジネス・戦略の理解、自社・相手先業界の理解といった多様な専門性が求められる(図2)。
図2:リスクインテリジェンス機能を確立するには、多様な専門性が求められる
また、機能させるには、多くの外部データ・社内データを活用してリスク評価することが必要になる。リスク発現後に対応するのではなく、意思決定前に示唆することが重要であり、より早く情報を捉えてリスク評価や対策の実行につなげることが肝要だ。
ただ、多様なスキルを持つメンバーで組織を形成しても、それだけですべてに備えることは難しい。発現前のあらゆるリスクを見通して真に経営に貢献するリスクインテリジェンスを確立するには、デジタル技術の活用が不可欠である。
日本企業は、業務プロセス効率化や新サービス開発などのフロント側を中心にデジタル変革(DX)を進めている。だが、リスク管理は依然として手作業のケースが多く、デジタルシフトの必要性が認識されているとはいえないのが現状だ。
一方、世界に目を向けると、デジタルを活用している事例が少なくない。PwCがまとめた「グローバル・リスク・サーベイ2023」によると、リスクマネジメントのデジタル化が、いかに重視されているかが分かる。
例えば、57%の組織が「テクノロジーへの投資準備が自社のリスク環境を見直す最大の動機である」と回答している。各業種の上位5%の組織は、すでにリスクに対して人間が主導しながらテクノロジーを駆使するバランスの取れたアプローチを採用し、企業全体のレジリエンスを構築している。その結果として、他の組織よりも優れた価値創造成果を達成している。
では、デジタルを活用したデータドリブンリスクマネジメントは、どのようなステップで導入するのか。まず、外部環境と自社内から収集するデータを広く定義する。定量的な評価だけではなく、定性的なデータを含めて収集することが精度を上げるポイントになる。次に、自社を取り巻くリスクを一覧化する。これは、既に定義されているものをそのまま活用することができる場合が多い。
データとリスクを定義した後、外部・社内のデータからリスクの変動を評価するロジック(リスクシナリオ)を策定する。この際、リスクインテリジェンス機能を活用することにより、リスクの変動をデータドリブンで検知し、評価する仕組みを実現できる。
リスクシナリオは自社戦略や外部環境の変化などを受けて定期的に更新することも忘れてはならない。近い将来、データ収集とリスク評価に人工知能(AI)を活用することにより、さらに高度化、効率化することも期待される(図3)。
図3:デジタルを活用した意思決定/開示
現在、多くの日本企業はリスクマネジメント情報を自社内に閉じて利用している。対外的な開示は別部門が対応するため、連動できていないことが多い。これでは業務が非効率的であり、ステークホルダー(利害関係者)も企業が適切にリスク・機会を評価できているのかが分からない。
昨今、重視されているサステナビリティー(持続可能性)の視点でも、マテリアリティーの中でリスク・機会を検討することが求められており、自社を取り巻くリスクを広く捉えて全社的に統合された目線で開示につなげる必要性が増している。データドリブンでのリスクマネジメントの対応状況を統合的に開示することが、ステークホルダーからも求められている。
自社の長期的な成長を支えるには、リスクマネジメントにおいても高度化・デジタル化が欠かせない。リスクマネジメントは守りにとどまらず、経営と不可分であるという視点で全社的に取り組むテーマとしてますます重要になっている。
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