ファウンドリーの顧客獲得戦略――技術の“金の卵”で新興育成

2025-03-19

※本稿は、『日刊工業新聞』2025年2月27日付「経営リーダーの論点(14)」に寄稿した記事を再編集したものです。
※発行元の許諾を得て掲載しています。無断複製・転載はお控えください。
※法人名、役職などは掲載当時のものです。

AI進化で半導体に商機

半導体業界は自動車産業のCASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)やAI(人工知能)の進化を受け、持続的に成長すると予想される。一方、世界中で半導体工場が新設されて供給過剰に陥る「2024年問題」などのリスクもある。それだけに、半導体受託製造(ファウンドリー)などは、顧客獲得戦略が重要になる。ファウンドリーの保有技術である“金の卵”を生かし、自らAIスタートアップを育てるといった発想も求められる。

半導体業界は70年以上にわたって技術進化の原動力となり、産業界に根本的なイノベーションをもたらす役割を担ってきた。これは、今後も変わらない。

自動車産業のトレンドの一つに、電気自動車(EV)シフトがある。EVはメインインバーターやDC-DCコンバーター、車載充電器、バッテリー管理システムなどのアプリケーションにおいて、内燃機関(ICE)車よりも多くの半導体部品を必要とする。

EV1台当たりの半導体含有量は2023年に800ドルとなり、19年の420ドルからほぼ倍増した。英調査会社のオムディアは30年までに1,350ドルに達すると予測している。この背景には、バッテリーEV(BEV)がパワーエレクトロニクスと管理IC(集積回路)などの高度な電子機器を必要としていることがある。

継続的にソフトウエアを更新して機能を向上するソフトウエア定義車両(SDV)の開発も活発化している。ハードウエアをソフトウエアから切り離す動きにより、カスタマイズ性の向上とイノベーションサイクルの高速化が進んで高性能半導体の需要も高まる。自動車業界向け半導体需要の年平均成長率(CAGR)が24年から30年まで10%になるという予測もある。

一方、AIの急速な進化が、半導体業界に二つの機会を生んでいる。一つはAI支援によるチップ設計と製造プロセスの強化で、効率性の向上とエラー削減につながる。もう一つはAIアプリ、特に予測AIと生成AIによる高度な半導体コンポーネントの需要増である。

既存データを活用して結果を予測する予測AIは、大きな収益を生み出す。英オムディアは、28年までに1,350億ドルに達すると予測する。また、学習したデータパターンに基づいて新たなコンテンツを作成する生成AIは、54%という驚異的なCAGRで伸び、28年までに580億ドルに達するとの予想がある。

技術の“金の卵”で新興育成
エコシステム再形成に備え、トレンド踏まえ付加価値提供

さらに、予測AIから生成AIへと移行することにより、従来の機械学習フレームワークが、より大きなモデルに置き換えられる。これらにより、AIアクセラレーターと高帯域幅メモリー(HBM)の需要が急増する。

こうしたAIの進化を受け、データセンターアーキテクチャーも再形成されつつあり、中央演算処理装置(CPU)とグラフィックス・プロセッシング・ユニット(GPU)などの専用アクセラレーターの関係に顕著な変化が見られる。

PwCは、28年までにデータセンタープロセッサーの80%以上が、AIアクセラレーターになり、AI機能を備え、対象市場全体が約1,500億ドルに達すると予測している。これは、さまざまなアプリで利用されているAIフレームワークであるトランスフォーマーモデルアーキテクチャーが、広範に採用されることに起因している(図表1)。

図表1:エッジデータセンター向けAIプロセッサ市場規模(デバイスタイプ別)

データセンターでの電力需要の増大を背景とし、多くの企業が専用のAIアクセラレーターの開発を模索しており、カスタムシリコンプロジェクトの波も高まっている。しかし、新興のAIチップ企業は、包括的な製品エコシステムに必要なソフトウエア開発の課題に直面している。このため、ファウンドリーとASIC(特定用途向けIC)パートナーが、統合サービスを提供して成長するチャンスが訪れている。

AIアクセラレーターシリコンは、スマートフォンが先導し、エッジコンピューティングとクライアントコンピューティングにも広がっている。23年までに大多数のスマホにAIアクセラレーション機能が搭載されており、パソコンもAIアクセラレーションCPUの導入に追いつきつつある。今後、半導体業界はカスタムシリコン採用とサポートソフトウエアツール開発に関する重要な問題に直面する。

さらに、深層学習モデルの「Hyena」や「Mamba」などのトランスフォーマーモデルの代替品が検討されることにより、AIアーキテクチャーの未来が再定義される可能性がある。半導体業界関係者は、AIエコシステムを再形成する可能性のある潜在的な技術変化に備える必要がある。

現在、半導体の国産化と供給安定化を目指し、世界中で半導体工場の新設計画が相次いでいる。これによって供給過剰に陥る2024年問題のリスクは、これからも続くと思われる。

それだけに、ファウンドリーは、顧客獲得戦略の策定が重要課題になる。自動車、AIといったトレンドを踏まえて、顧客群の特徴に応じたサービスを提供することが求められる(図表2)。

図表2:ファウンドリにおける顧客の層別例

例えば、先端半導体を手がけている大手ファブレス企業との関係を密にするには、これらの企業で勤務経験がある人材で専門組織を形成して、顧客・技術動向調査のほか、研究開発段階からの連携、急ぎの要求に対応できるように半導体製造キャパシティーを準備することなどが求められる。

将来成長が期待できる中小ファブレス企業に対して優先的な対応を検討するといったことも有効な戦略だ。その他の顧客に対しては、デザインハウスなどと提携することにより、ターンキーサービスやノンリカーリングエンジニアリング(NRE)を提供し、顧客負担を軽減することが、付加価値の提供につながる(図表3)。

図表3:アライアンスによるファウンドリの提供サービス例

大手ファウンドリーや垂直統合型デバイスメーカーであるIDMが、自らAIスタートアップなどの顧客を育てることも検討すべきである。技術の金の卵を応用し、スタートアップ企業に投資することで、長期的に半導体需要を支える顧客の確保につながる。

執筆者

内村 公彦

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

Email

産業TREND/経営リーダーの論点掲載記事

9 results
Loading...

産業TREND/経営リーダーの論点 ファウンドリーの顧客獲得戦略――技術の“金の卵”で新興育成

持続的に成長が見込まれる半導体業界ですが、世界中で工場が新設され供給過剰に陥る「2024年問題」などのリスクも予想されています。そのために重要となる半導体受託製造(ファウンドリー)の顧客獲得戦略などについて解説します。(日刊工業新聞 2025年2月27日 寄稿)

Loading...

インサイト/ニュース

20 results
Loading...
Loading...

本ページに関するお問い合わせ