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PwCとCSFIが隔年で実施している、保険者におけるリスク認識の調査レポート(インシュアランス・バナナ・スキン2019)によると、M&A対応を含む変革管理は3番目に心配されるリスクであり、ここ数年順位が高位安定している。また、日本の回答者だけで見ると1番目のリスクとなっており、特に海外におけるM&Aは日本の保険業界関係者の関心が高いところになっている。国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、わが国の総人口はすでに長期の減少過程に入っており、2053年には1億人を割り込むと予測されている。こうした「招かれざる事態」は「必ず訪れる未来」である。成長戦略が描きにくい環境下、わが国企業は、デジタルを活用した顧客対応力強化やオペレーションの効率化等に加え、ポートフォリオ見直しの一貫とした不要部門のカーブアウト、海外における買収、等を活発化させている。保険業界もその例外ではなく、いわゆるディールを活発に行っている。右肩上がりの発展を享受できない現在、まさに、ディールの巧拙、すなわちいかに企業価値を高めていくかが、今後の企業の成長を大きく左右すると言っても過言ではない。本稿では、次のM&Aを成功させるためのアプローチとしてPwCグローバルで強力に推進している「バリュー・クリエーション・イン・ディールズ(以下、VCiD)」について解説し、「真に価値創造につながるディール」にするための要諦を提言したい。
図表2はディールにおいて見受けられる現状の課題とあるべきVCiDを比較している。まず、バリュー・クリエーションの活動実施時期における課題をみると、サイニング前はリスクの発見に主眼をおいたデューディリジェンスになりがちであり、またサイニング前のシナジーの検討はクロスセル等限られた対象のみになりがちとなる。そして、多面的、網羅的な価値創造の検討は、PMIフェーズになってから始まる、もしくは、その前に検討を始めていても具体性に欠ける、との傾向がある。あるべき姿としては、ディールの初期段階およびデューディリジェンスの段階から本格的なバリューブリッジ分析を開始し、サイニング前に多面的、なるべく具体的な価値創造計画を検討する。そしてサイニング後は計画の詳細化・精緻化を迅速に進め、価値創出のタイミングを早めるということになる。
また、実施体制についても陥りがちな罠が指摘できる。サイニング前はどうしても企画部門中心の限られたメンバーでの検討になりがちで、多面的な検討が十分行われない場合がある。また、サイニング前後で担当主体が変更になる場合があり、一貫した価値創造の計画が引き継がれないこともある。VCiDを進める観点からは、サイニング前から枢要な専門メンバーを関与させ、多面的、網羅的なバリューブリッジ策定を目指し、その計画を実現するためには、主要メンバーの継続性を担保することが不可欠である。
要は、VCiDを強力に進める観点から、いかにバリューアップ計画を定量的、具体的な形に落とし込み、それを共通の物差しとして、組織全体で推し進めるかということが肝要である。
本稿では、VCiDについて解説し、「真に価値創造につながるディール」にするための要諦を説明してきた。企業がインオーガニックなディールに取り組む際、目先のディールの締結に向けて全精力を傾けることは当然のことであるが、「真に価値創造につながるディール」につなげていくためには、ディールの先の価値創造を見据えていくことが必要不可欠である。先日、金融庁から公表された、「利用者を中心とした新時代の金融サービス~金融行政のこれまでの実践と今後の方針~(令和元事務年度)」においても、「大手保険会社グループの海外事業については、大型M&Aを実施してから一定期間が経過し、その成果や課題について各社ともに分析が進められている」とあり、各社対応が進められていると考えられるが、本項におけるVCiDの以下の要諦が参考になれば幸いである。
(1)案件ありきでディールを実行するのではなく、明確な戦略の中核にディールを据え、長期的な目標と整合的なディールを行うこと。
(2)事業の全領域における価値創造計画をディールの初期段階から緻密に策定し、PMIにおけるブループリントとすること。
(3)有能な人材が価値創造プロセス全体に貢献するよう、価値創造計画を組織における共通の尺度として活用し、コミュニケーションやインセンティブの付与を行っていくこと。
PwCでは、「社会における信頼を構築し、重要な課題を解決する」ことを自らのPurpose(存在意義)としている。わが国の企業を一層元気にするため、クライアントの「ディールの先を見据えた価値創造」をご支援して参りたい。
(注)本調査はPwCの委託を受けて、MergermarketとCass Business Schoolが実施したもの。
※本稿は、保険毎日新聞2019年9月17日付掲載のコラムを転載したものです。
※本記事は、保険毎日新聞の許諾を得て掲載しています。無断複製・転載はお控えください。
※法人名、役職などは掲載当時のものです。