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PwCとCentre for the Study of Financial Innovation(CSFI)が隔年で実施している、保険者におけるリスク認識の調査レポート(インシュアランス・バナナ・スキン2019)によると、「規制」は4番目に懸念されるリスクであり、2年前の6位から順位を上げている。
本稿では、この「規制」のうち、FATF(金融活動作業部会)第4次相互審査(以下、FATF審査という)対応を端緒としたコンプライアンスリスクへの対応について説明したい。
なお、本稿における見解は、筆者の個人的なものであること、執筆は2019年8月23日時点の情報に基づいていることにご留意いただきたい。
リスクベース・アプローチとは、保険会社が自らのコンプライアンスリスクを網羅的に特定・評価し、これを実効的に低減するため、当該リスクに見合った対策を講ずることである。前述のとおり、保険会社が管理すべきコンプライアンスリスク領域が拡大している一方で、経営資源が有限であることを踏まえると、リスクが高い領域に焦点を当てて効率的に対応することが重要となる。FATFや金融庁は、すでにリスクベース・アプローチに基づくマネロン・テロ資金供与対応を保険会社に求めているが、この分野で先行している米欧の金融機関ではそれ以外のコンプライアンスリスクに対してもリスクベース・アプローチを前提とする全社的な管理態勢を整備しており、有効に機能している。
リスクの特定・評価およびこれに基づくリスク低減策の計画、実行は、最もそのリスクを把握している部署、つまり実際に業務に従事している各部署が行うことが一般的であるが、そのリスク低減策が有効に機能しているかについて、コンプライアンス部等がモニタリングやテスティングを行い、有効に機能していない部分については改善を図るというPDCAサイクルを回していくことが重要である。
その上で、保険会社はPDCAサイクルによる各コンプライアンスリスクの管理を「コンプライアンスプログラム」として構築し、継続的にコンプライアンスリスク管理態勢の検証、高度化を図っていくことが期待されている。
リスクベース・アプローチにおけるリスク評価が実態を適切に反映していない場合、この評価に基づいて講じられたリスク低減策は有効でないものとなってしまう。よって、まずは保険会社自身のコンプライアンスリスクの評価を適切に行うことが重要となる。
リスクを評価するに当たっては、法規制等の動向や事業内容等に基づく「固有リスク」と、リスク低減策を考慮した後の「残存リスク」の二つの軸でリスクを理解することが重要である。仮に「固有リスク」が高いと評価されても、強固なリスク低減策が整備・運用されていれば、残存リスクは低いと評価されることになる。
「固有リスク」を評価するに当たっては、国・地域、保険商品、顧客、販売チャネル等、さまざまな切り口が考えられるが、どの切り口が重要かはリスクの種類によって異なる。例えば、マネロン/テロ資金供与リスクは保険商品のキャッシュバリューの多寡が直接リスクに結びつくため、リスク評価において商品特性が注目される。
よって、各リスクにおいてどの切り口が重要か、そしてどのような場合が高リスクに該当するのかということを理解した上で、自社の事業の全体像を把握している経営陣自らがリスク評価に関与し、自社のリスクを正しく把握、理解してこそ、適切なリスク低減策を講じることができる。
本邦保険会社におけるリスクベース・アプローチに基づくコンプライアンスリスク管理の態勢整備はまだ始まったばかりであり、今後さらなる高度化が求められる。足元ではFATF審査への対応として、マネロン/テロ資金供与の領域でリスクベース・アプローチによる対応が各保険会社で進められているが、これを端緒として、コンプライアンスリスク全体に対しても、リスクベース・アプローチに基づくコンプライアンスプログラムの整備を進めていくことが期待されている。
※本稿は、保険毎日新聞2019年9月24日付掲載のコラムを転載したものです。
※本記事は、保険毎日新聞の許諾を得て掲載しています。無断複製・転載はお控えください。
※法人名、役職などは掲載当時のものです。