第9回 内部監査機能に対する期待の高まり

保険業界が直面するリスクと対応策

1.本テーマの重要性

PwCとCentre for the Study of Financial Innovation(CSFI)が隔年で実施している、保険者におけるリスク認識の調査レポート(インシュアランス・バナナ・スキン2019)によると、「コーポレートガバナンス」が19番目のリスクとされている。コーポレートガバナンスは、ランキング上は比較的下位に位置付けられているが、金融危機以降、規制当局による監視と内部統制へのより重点的な取り組みが、このリスクの大幅な改善につながっていることが一般的な見方であるとされている。

他方、本邦当局である金融庁は、2019年6月に「金融機関の内部監査の高度化に向けた現状と課題」を公表し、金融機関のガバナンスを有効に機能させるために内部監査が重要な機能であるとし、内部監査の高度化を促す姿勢を見せている。本稿では、本邦金融機関の内部監査に対する期待が高まっている背景、金融庁等による内部監査に関する最近の動向、保険会社の内部監査の高度化に向けたポイントを説明したい。

なお、本稿における見解は、筆者の個人的なものであること、執筆は19年9月23日時点の情報に基づいていることにご留意いただきたい。

4.本邦保険会社における内部監査の高度化のポイント

(1)経営陣とリンクした内部監査機能の整備

本邦保険会社の内部監査部門は、歴史的にほとんどが営業拠点における不正・事務不備や保険金等支払査定の検査機能発揮のために設置されてきた経緯がある。そのため、経営陣と内部監査部門には距離があることが多く、経営レベルでの目線での監査というよりは、被監査部署の業務レベル目線での監査がいまだ色濃く残っている。

金融庁が述べているように経営陣からの内部監査部門への信頼度・期待度を深めていくとともに、被監査部署を含めた全社的な理解を図っていくことが重要である。

(2)リスクアセスメントの高度化

本邦保険会社における内部監査のリスクアセスメントでは、営業や支払い査定に関する拠点別のリスクアセスメントを重視する傾向があり、それらの拠点別に事務不備の発生状況等を勘案してリスクの高低を判断する取り組みが広く行われている。また、本店各部署については、各部署単位で過去の監査指摘や事務不備状況からリスクアセスメントが行われているケースが多い。

金融庁等の期待を踏まえると、今後は、ビジネス戦略を踏まえて、それがどのように企画立案され、計画を実施されているかという視点が重要になる。したがって、営業や支払い査定の拠点別や本店各部署別のリスクアセスメントでは足りず、ビジネス戦略とそれを担う業務プロセスの観点からの切り口でリスクアセスメントを実施することが必要となる。また、このような切り口によって、内部監査が実施されることを経営陣や被監査部署が十分に理解しておくことも重要である。

(3)三つの防衛線の整備と人材配置

保険会社の内部監査部門は、伝統的に営業や支払い査定の拠点別の監査に対して重点的に人材配置が行われてきた。内部監査部門に配置された拠点別監査は、拠点長に配属される前に保険会社の内部統制のあるべき姿を学ぶ場として活用している保険会社もあり、このような取り組みは経営上のガバナンスやコンプライアンスの重要性を浸透させるために一定の効果を挙げてきた。

今後ますます変化が激しくなる経営環境において、よりフォワードルッキングな監査を実施するために、内部監査部門は経営監査にシフトしていく必要がある。その中で過去の顧客との取引や営業等の担当者の行動を対象とした拠点別の検査を内部監査部門内で抱えることが経営上合理的なのかどうか検討する段階にきていると考える。海外の保険会社の内部監査部門のように、三つの防衛線における第一線や第二線の機能において拠点別の検査機能を担い、内部監査部門はそれらが企業全体として機能しているのかどうかを監査することを検討するべきである。

(4)テクノロジーの活用

保険会社の経営のデジタライゼーションが進展している。内部監査部門においては二つの視点での高度化の取り組みの余地がある。

一つは、内部監査部門の活動自体のデジタル化であり、情報収集・蓄積や監査活動の記録について、ITシステムを活用した活動を行い、監査活動の有効性と効率性を高めるのである。

二つ目は、内部監査の対象となる経営活動がデジタル化するに当たっての対応である。経営上の判断材料としてデータが重視され、顧客に対する営業活動や各種バックオフィスの業務はIT化が進んでいる。この状況を踏まえて、データドリブンな監査手法の導入や、IT化に伴う各種リスクにフォーカスした監査活動に変革していくことが必要となってくる。

執筆者

駒井 昌宏

パートナー, PwC Japan有限責任監査法人

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※本稿は、保険毎日新聞2019年10月23日付掲載のコラムを転載したものです。

※本記事は、保険毎日新聞の許諾を得て掲載しています。無断複製・転載はお控えください。

※法人名、役職などは掲載当時のものです。

保険毎日新聞 連載寄稿

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