第12回 気候変動およびSDGsの保険会社への影響

保険業界が直面するリスクと対応策

4.SDGsと気候変動が生み出すビジネス機会

SDGsは、Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)の略称であり、15年9月の国連サミットで採択された、持続可能な世界を実現するために30年までに達成すべき目標である。SDGsは、People、Prosperity、Planet、Peace、Partnershipに関連する17ゴール169ターゲットから構成され、発展途上国だけでなく先進国が、政府だけでなく企業を含むすべてのステークホルダーが取り組むべき目標とされている。Planetに関連するゴールとして、SDG13「気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる」が掲げられている。

SDGs達成に向けた世界の変化は、企業にとってビジネス機会を生み出すと考えられており、Business & Sustainable Development Commissionが17年1月に公表した「より良きビジネス、より良き世界」というレポートでは、SDGsは、年間12兆ドルの事業機会を生み出すと試算されている。具体的には、「食品及び農業」「都市と都会のモビリティ」「エネルギー及び原材料」「健康及び福祉」の4領域で事業機会が生み出されるとしており、リスクプーリングなど、保険会社として新しい保険商品の提供機会となるものも多くある。

SDGs13に関係するビジネス機会としては、「SDG INDUSTRY MATRIX」に、気候変動リスクの緩和、気候レジリエンス及び気候変動リスクへの適応に向けた商品の提供、自然災害保険スキームの補償範囲の拡大などが挙げられている。具体的には、気候変動の緩和に係るビジネス機会としては、再エネ設備の保険、EV自動車の保険などを含む新しい保険プロダクト、気候変動の適応に係るビジネス機会としては、森林火災保険、農業不作保険などの新保険プロダクトおよび既存市場の拡大などが考えられる。

SDG INDUSTRY MATRIXには企業の取り組み事例も多く紹介されている。スイス・リーは、20年までに気候変動リスク・レジリエンスに関して50の地方自治体に対して助言し、加えて気候変動リスクに対して100億ドルの保険キャパシティを提供することとしている。チューリッヒ保険グループは、人権団体やアカデミアと連携し、洪水に対するコミュニティのレジリエンスを改善するためのグローバル洪水レジリエンスプログラムを立ち上げている。同プログラムでは、災害後の救済よりも災害前のリスク低減への投資のほうが、損失が少ないことを証明しており、チューリッヒ保険グループはこの研究結果を世界中の公共政策事業に活用している。

保険会社は、今後、気候変動やSDGsなどサステナビリティに対する感度を高め、能動的に機会・リスクを捉えて対応することが求められる。それが、保険会社の競争力強化、持続的な成長をもたらすと考えられる。

執筆者

水上 武彦

PwCあらた有限責任監査法人 シニアマネージャー

アナスタシア・ミロビドワ

PwCあらた有限責任監査法人 シニアアソシエイト

大谷 寛子

PwCあらた有限責任監査法人 シニアアソシエイト

※本稿は、保険毎日新聞2019年11月19日付掲載のコラムを転載したものです。

※本記事は、保険毎日新聞の許諾を得て掲載しています。無断複製・転載はお控えください。

※法人名、役職などは掲載当時のものです。

保険毎日新聞 連載寄稿

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