第一章 DX銘柄選定や各種優遇措置に必要 DX認定制度の概要と取得のためのポイント

2021-05-10

この章のエッセンス

  • DX認定制度とは、DX推進の準備が整っている事業者を国が認定する制度で、国が策定したデジタルガバナンス・コードの基準を満たすと認定される。
  • DX認定制度の取得目的としては、①DX推進のためのフレームワークとしての利用、②ブランド向上に繋がるDX銘柄等に選定されるための利用、③税制優遇や金融支援等を受けるための利用、の3つが考えられる。

1.DX認定制度の概要

1.1. はじめに

DX認定制度とは、2020年5月に施行された「情報処理の促進に関する法律の一部を改正する法律」(令和元年法律第67号)(以下情報処理促進法という)に基づき、「デジタルガバナンス・コード」の基本的事項に対応する企業を経済産業省が認定する制度である。ビジョンの策定や戦略・体制の整備などをすでに行い、DX推進の準備が整っている事業者(後述するDX-Ready状態の事業者)が認定されることとなっている。

政府がSociety5.0(サイバー空間とフィジカル空間が高度に融合し、リアルタイムに情報やデータが活用・共有されるデジタル社会)の実現を目指していることを踏まえ、経済産業省は日本企業のDX促進を目的に、2018年9月に「DXレポート」を公開した。このレポートの中で、多くの企業がDXの必要性について理解しているが、実際のビジネス変革には繋がっていない状態を指摘し、現状のままでは2025年以降、最大12兆円/年の経済損失が生じる可能性(2025年の崖)を警告した。その後、経済産業省では日本企業のDX推進のため、「推進に向けた法整備」、「企業の内発的なDX 推進への働きかけ」、「企業をとりまくステークホルダとの関係への働きかけ」の3 つに大別される政策を展開している(図表1)。この「企業をとりまくステークホルダとの関係への働きかけ」の1つとして、本制度が設けられ、2020年11月より本格運用を開始し、同年12月に2社が認定事業者として公表された。また、経済産業省と東京証券取引所が共同で実施する「DX銘柄」において、本制度への申請が「DX銘柄2021」に選定されるための応募要件となっていたり、後述するDX投資促進税制適用のための要件にDX認定が含まれたりしており、他の施策と連携する位置づけとなっている。

そこで本章では、DX認定制度の制度概要と取得目的について記述する。

(出典) 経済産業省の「DXレポート2」(https://www.meti.go.jp/press/2020/12/20201228004/20201228004.html)

1.2. DX認定制度の制度概要

本制度の認定では「DX-Ready」の事業者の認定を行う(図表2)。「DX-Ready」とは、「企業がデジタルによって自らのビジネスを変革する準備ができている状態」のことを指し、DX推進のための準備ができていれば認定されることになる。具体的な認定基準としては、国が策定したデジタルガバナンス・コードの 項目 と 本制度の申請項目が対応しており(図表3)、したがって、デジタルガバナンス・コードの基準を満たすと認定される。デジタルガバナンス・コードとは、Society5.0時代において、経営者が企業価値向上に向け実践すべき事柄を取りまとめたもので、2020年11月に公表された。特に、経営者の主要な役割を、ステークホルダとの対話と捉え、対話に積極的に取り組んでいる企業に対して、資金や人材、ビジネス機会が集まる環境を整備していくことを目的に策定されている。

図表2 制度の全体像

(出典) 独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の「DX認定制度の申請要項(申請のガイダンス)」
(https://www.ipa.go.jp/ikc/info/dxcp.html)

 デジタルガバナンス・コードの項目は、1. ビジョン・ビジネスモデル、2. 戦略、3. 成果と重要な成果指標、4. ガバナンスシステム、となっており、各項目は(1)基本的事項(①柱となる考え方、②認定基準)、(2)望ましい方向性、(3)取組例で構成されている。本制度の申請書は8つの設問で構成されており、各設問は図表3で示すように、デジタルガバナンス・コードの各項目の基本的事項と対応している。したがって、本制度に認定されたということは、国が策定したデジタルガバナンス・コードの基準を満たしているということになり、DX推進のための環境が整っていると、国から認められたことになる。

デジタルガバナンス・コードは指針であるため、頻繁には改定しないが、運用レベルで修正を加えることがあると公表されている(情報処理促進法により、約2年ごとに改定検討を行うことになっている)。それに伴い、本制度や後述するDX銘柄についても、同様に変更される可能性があるため、本制度等を利用する場合には最新情報をご確認願いたい。

 

図表3 デジタルガバナンス・コードの各項目と本制度の項目の関係

(出典) IPAの「DX認定制度の申請要項(申請のガイダンス)」(https://www.ipa.go.jp/ikc/info/dxcp.html)

1.3. DX認定制度の取得目的

本制度の取得目的としては、①DX推進のためのフレームワークとしての利用、②ブランド向上に繋がるDX銘柄等に選定されるための利用、③税制優遇や金融支援等を受けるための利用、の3つがあると考えられる。

①DX推進のためのフレームワークとしての利用

2020年12月に経済産業省が公開した「DXレポート2」によると、DX取組状況を調査したところ、調査対象の企業のうち、9割以上がDX にまったく取組めていない(DX 未着手企業)レベルか、散発的な実施に留まっている(DX 途上企業)状況であることが明らかになった、とある。そのようなDXにまったく取組めていない企業や体系的に取組めていない企業の場合、DX推進に当たり、何から取組めば効果的かが不明なことも多いと推測される。本制度はビジョンの策定や戦略・体制の整備などがすでにできている企業を認定することになっており、本制度の申請項目をDX推進環境構築のためのフレームワークとして利用することが可能である。本制度は、デジタルガバナンス・コードの項目(「ビジョン・ビジネスモデル」、「戦略」、「成果と重要な成果指標」、「ガバナンスシステム」)を満たすことが認定基準となっており、認定を目指して準備を進めることがDX推進のための環境を整えることにつながる。
また、経済産業省が2019年に公開した「DX推進指標」は、各企業が簡易な自己診断を行うことを可能としており、経営幹部や事業部門、DX部門、IT部門などの関係者の間で現状や課題に対する認識を共有し、次のアクションに繋げる気付きの機会を提供することを目的に策定されている。そのため本指標は、DX推進のための具体的なアクションのチェックシートとして利用できる。本指標は自社の診断結果だけでなく、全体データとの比較が可能となるベンチマークも作成されるため、各社が自社と他社の差を把握し、より効果的なアクションにもつなげられる。毎年、本指標の診断を行うことで、継続的なモニタリングも可能である。「DX認定制度」と「DX推進指標」の両方に対応することで、各企業におけるDX推進の加速に貢献できると考えられる。なお、本制度の申請項目(5)は、「DX推進指標」で代替可能(詳細はDX認定制度の申請要項を参照)となっている。
 

②ブランド向上につながるDX銘柄等に選定されるための利用

上場企業の場合はDX銘柄に選定されること、非上場企業の場合はDX優良企業(図表2)に選定されることが、社内外に向けてDXに関する先進的な取組みをしていることを示し、ブランド向上等につながる。たとえば、DXの取組みの先進性をアピールすることで、間接的に自社の製品やサービスのブランド向上につながったり、デジタル人材採用のために職場としての魅力をアピールすることでデジタル人材獲得に貢献したりすると思われる。
DX銘柄は、東京証券取引所に上場している企業のなかから、企業価値の向上につながるDXを推進するための仕組みを社内に構築し、優れたデジタル活用の実績が表れている企業が選定される。2015年から過去5回実施してきた「攻めのIT経営銘柄」をDXに焦点を当てる形で「DX銘柄」に改めて、2020年から実施されている。DX銘柄に選定されることは、投資家等の判断のインセンティブの1つになると考えられる。「DX銘柄2021」では、本制度に申請していれば応募できたが、「DX銘柄2022」以降では本制度に認定されていることが応募要件になることが見込まれている。DX認定は、申請から認定まで3カ月程度のリードタイムが想定されるため(詳細はDX認定制度の申請要項を参照)、「DX銘柄2022」に応募する企業は早めの対応が望まれる。
DX優良企業(DX-Excellent企業、DX-Emerging企業)の選定は、まだ制度として開始されておらず、詳細は公表されていないが、本制度で認定された事業者のなかから選定されることが想定される。上場企業だけでなく、非上場企業(公益法人等や個人事業主も含む)も応募可能である。DX優良企業に選定されると、先進的にDXに取組んでいると国からお墨つきをもらえ、自社製品やサービスのアピール等に活用できると考えられる。また、将来的にはDX銘柄とDX-Excellent企業は連携することになっており、上場企業でDX-Excellent企業に認定されるとDX銘柄にも選定されるしくみになる可能性もある。
また中小企業や業界によっては、DX銘柄やDX優良企業に選定されなくても、本制度の認定を取得できれば、自社のDXの取組みに関して国からお墨つきをもらったということで、十分なメリットになると推測される。

③税制優遇や金融支援等を受けるための利用

本制度の認定取得は、後述するDX投資促進税制適用のための認定要件の1つとなっている。
また、今後新たな金融支援等の政策の適用条件に、本制度が活用される可能性がある。「DXレポート2」では、わが国企業全体におけるDX への取組はいまだにまったく不十分なレベルにあると認識せざるを得ないと、危機感を示している。2018年公開の「DXレポート」から2年経っても、日本企業のDXがあまり推進されていないことを踏まえ、政府として企業のデジタル変革の後押しが必要であり、さらなる施策展開の可能性について記述されている。具体的には、本制度で認定された企業に対して、インセンティブの検討や金融支援の検討等に言及されている(図表4の色囲み部分)。今後、追加される対応策においても、本制度の認定が応募要件となる可能性がある。

図表4 今後の政策の方向性

(出所) 経済産業省の「DXレポート2」をもとに筆者修正(https://www.meti.go.jp/press/2020/12/20201228004/20201228004.html)を一部改変

1.4. DX認定制度の申請

本制度の各種相談・問い合わせ、および認定審査事務は、独立行政法人情報処理推進機構(以下、IPA)が行う。IPAが審査後、経済産業省が認定する。申請方法については、IPAのウェブサイト(https://www.ipa.go.jp/ikc/info/dxcp.html)で公開されている「DX認定制度の申請要項(申請のガイダンス)」に詳細が記載されているので、そちらをご参考願いたい。

なお、審査期間中に申請内容に不足等があるとされた場合、事務局であるIPAより連絡がある。この連絡で指摘された内容に対応すれば、認定されることになっており、申請内容に不足があるからといって、即時、不認定になるわけではない。したがって、申請後に、IPAとやり取りしながら自社の不足を補っていくことで、DX推進のための自社の環境を整えていく、という使い方が可能である。

1.5. まとめ

本章では、DX認定制度の制度概要と取得目的について説明した。本制度を各企業のDX推進の加速や、先進的なDX取組みを示すことで自社のブランド向上等にご活用願いたい。

本稿は、「旬刊経理情報」2021年4月10日号で掲載された記事を転載したものです。

執筆者

藤川 琢哉

パートナー
PwCコンサルティング合同会社

小林 紗由美

シニアアソシエイト
PwCコンサルティング合同会社

※法人名、役職などは掲載当時のものです。

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