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2022-06-08
2022年4月1日以後に開始する事業年度から、連結納税制度が見直され、グループ通算制度に移行することとなった。グループ通算制度への移行に伴い、企業会計基準委員会(以下「ASBJ」という。)は、2021年8月12日に実務対応報告第42号「グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い」(以下「新実務対応報告第42号」という。)を公表した。新実務対応報告第42号は、グループ通算制度を適用する場合における法人税および地方法人税ならびに税効果会計の会計処理および開示の取扱いを明らかにしたものである。新実務対応報告第42号を理解するにあたり、以下について解説を行う。
Ⅰ 通算税効果額
Ⅱ 特定欠損金の利用スケジューリングの違いによる影響
Ⅲ 投資簿価修正の計算方法変更による影響
なお、本稿で使用する用語や略称の定義については、新実務対応報告第42号または法人税および地方税法の用語の定義に従うものとする。
また、本稿の意見に関する部分は、筆者の個人的な見解であることをお断りする。
新実務対応報告第42号は、通算税効果額の授受を行うことを前提としており、通算税効果額の授受を行わない場合の会計処理および開示については取り扱っていない。通算税効果額とは、損益通算または欠損金の通算の規定その他通算法人のみに適用される規定を適用することにより減少する法人税および地方法人税の額に相当する金額として、通算法人と他の通算法人との間で授受される金額をいう(改正後法法26④)。
国税庁より2020年6月公表(2020年8月・2021年6月改訂)された「グループ通算制度に関するQ&A」(以下「国税庁Q&A」という。)問58において、通算税効果額は合理的に計算することになるとされている。
通算会社が申告納付を行う税額は、通算前所得に対して通算グループ内の他の通算会社との損益通算や欠損金の通算を行った後の課税所得をもとに算定されたものであり、当該通算等による税額の減少額を通算税効果額として、通算会社間で金銭等の授受が行われることが想定されている。ただし、通算税効果額の授受を行うか否かは任意であり、授受を行った場合は、各通算会社で益金の額または損金の額に算入されないこととなる(法法26④、38③)。通算税効果額の授受は任意であり、実務上、通算税効果額の授受を行わない場合が生じるか否かが定かではないが、連結納税制度においては個別帰属額(各連結事業年度の連結所得に対する法人税の負担額として帰せられ、または当該法人税の減少額として帰せられる金額(改正前法法81の18))の授受を行っている場合が多いと考えられ、グループ通算制度においても一般的には通算税効果額の授受を行うことが想定される。また、通算税効果額の授受を行わない場合の取扱いの検討には一定の困難性があるものと考えられる。
よって、本実務対応報告においては通算税効果額の授受を行うことを前提として会計処理および開示を定めており、通算税効果額の授受を行わない場合の会計処理および開示については、連結納税制度における取扱いを踏襲するか否かも含め取り扱っていない(新実務対応報告第42号3項なお書、37項、38項)。
ここで、国税庁Q&A問58のケース2(同一の通算グループ内の法人であるP社、S1社およびS2社において欠損金の通算が行われた場合)を参考に、通算税効果額の合理的な計算方法を確認する(図表1参照)。
合理的な計算方法によった場合の通算税効果額は、連結納税制度における個別帰属額の取扱いを踏襲し、当事業年度の所得に対する法人税および地方法人税に準ずるものとして、「法人税、住民税及び事業税」に含めて損益計算書に計上されることとなる(新実務対応報告第42号7項)。
国税庁Q&Aに示されている計算方法によらず、通算会社独自の計算方法により通算税効果額を精算する場合には、通算税効果額の精算額に関する会計上の処理勘定科目は定かではなく、また、繰延税金資産の回収可能性判断も定かではない。通算税効果額を精算しない場合には、企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」4-3項に定める「関連する会計基準等の定めが明らかでない場合」に該当することになると考えられるとされている。
グループ通算制度においては、修更正が生じた場合は、①期限内申告における所得金額が生じていない、②減額更正事由がない等、一定の場合を除き、誤りが生じた通算法人だけが修更正を行い、グループ全体での再計算を不要とする仕組み(他の通算法人への影響を遮断する仕組み)が設けられている。そのため、基本的には修更正が生じたとしても他の通算法人との通算税効果額の精算は行われないことが想定される。
ただし、試験研究費の税額控除に関して修更正が行われ、税額控除額が減少する場合には、修更正事由が生じた通算会社が税額控除の減少分について追徴を受けることになるが、国税庁Q&Aの問58において示されている計算例(通算グループ全体の税額控除額の合計額を各通算法人の試験研究費の比で按分して算定された金額と各通算法人の税額控除額との差額)に基づいて、通算税効果額を計算した場合、税額控除割合が減少することによって、他の通算会社の税額控除の減少額を修更正事由が生じた通算会社が負担することがありうることから、修更正による通算税効果額の授受を行う場合があると考えられる。
新実務対応報告第42号では特段触れられなかったが、第463回企業会計基準委員会審議事項(1)-2記載のコメントへの対応(案)を踏まえると、修更正によって通算税効果額の授受を行う場合には、更正等による追徴額または還付額を損益として認識する会計期間と同じ会計期間において通算税効果額を認識することになると考えられる。この通算税効果額は、損益計算書上過年度法人税等として取り扱うこととなると考えられるが、この点明確化されることが望ましい。
図表1 通算税効果額の計算方法
|
P社 |
S1社 |
S2社 |
合計 |
---|---|---|---|---|
通算後所得 |
220 |
80 |
180 |
480 |
繰越欠損金額(内特定欠損金額) | 150 (0) |
120 (50) |
300 (0) |
570 (50) |
損金算入限度額(所得x50%) | 110 |
40 |
90 |
240
|
損金算入される特定欠損金額 | - |
50×1(240÷50>1)=50 | - |
50 |
損金算入される特定欠損金額控除後の損金算入限度額 | 110 |
0 |
90 |
200 |
非特定欠損金配賦額 |
520×110÷200=286 |
520×0÷200=0 |
520×90÷200=234 |
520 |
被配賦欠損金額(※1) |
286>150 286-150=136 |
0<70 - |
234<300 - |
136 |
配賦欠損金額(※2) |
- |
0<70 70-0=70 |
234<300 300-234=66 |
136 |
非特定欠損金額(※3) |
150+136=286 |
70-70=0 |
300-60=234 |
520 |
非特定損金算入割合 |
190÷520 |
|||
非特定欠損金額の損金算入額 | 104 =286×190÷520 |
0 |
86 =234×190÷520 |
190 |
欠損金控除後所得金額 | 116 =220-0-104 |
30 =80-50-0 |
94 =180-0-86 |
240 |
欠損金の通算に係る通算税効果額 |
▲13 ⇒損金不算入 |
7(※4) ⇒益金不算入 |
6(※5) ⇒益金不算入 |
|
(※1)被配賦欠損金額(ゼロを超える場合のみ)=非特定欠損金配賦額(①各通算法人のその10年内事業年度に係る特定欠損金以外の欠損金額の合計額×②その通算法人の適用事業年度の損金算入限度額(注1)÷③各通算法人の適用事業年度に係る損金算入限度額の合計額)-その特定欠損金額以外の欠損金額
注1:(ⅰ)その10年内事業年度より古い10年内事業年度で生じた欠損金額とされた金額で損金算入される金額および(ⅱ)その10年内事業年度に係る対応事業年度で生じた特定欠損金額で法人税法第57条第1項により損金算入される金額を控除する。
(※2)配賦欠損金額(ゼロを超える場合のみ)=その特定欠損金額以外の欠損金額-非特定欠損金配賦額
(※3)非特定欠損金額=その10年内事業年度に通算法人で生じた特定欠損金額以外の欠損金額+被配賦欠損金額-配賦欠損金額
(※4)法人税 70×190÷520×23.2%=6
地方法人税 6×10.3%=1
合計 6+1=7
(※5)法人税 66×190÷520×23.2%=5
地方法人税 5×10.3%=1
合計 5+1=6
連結納税制度においては、個別財務諸表における繰延税金資産の回収可能性の判断について、自社の将来の課税所得見積額だけでなく、他の連結法人の将来の課税所得見積額を考慮して回収可能額を計算することとされていた。また、連結財務諸表においても連結納税グループ全体を1つの計算単位として、すなわち将来の連結課税所得見積額を考慮して回収可能額を計算することとされていた。
この点、グループ通算制度においても、個別財務諸表において、通算会社単独の将来の通算前所得で回収できない場合であっても、通算税効果額を精算することを前提とすれば、損益通算による益金算入見積額を含めて回収可能額を計算することとされた(新実務対応報告第42号11項、12項)。連結財務諸表においても、通算グループ全体を1つの計算単位として回収可能額を計算することとされている(新実務対応報告第42号14項、15項、16項)。
このため、個別財務諸表においては、他の通算会社の課税所得見積額を使って回収可能額を計算する点において、また連結財務諸表においては、グループ全体を1つの計算単位として回収可能額を計算する点において、連結納税制度とグルーブ通算制度との差異はない。ただし、連結納税制度とグループ通算制度では、繰越欠損金の解消額の計算方法すなわち将来の欠損金控除後の所得計算の過程が異なるため、スケジューリングによる繰延税金資産の回収可能額が異なるケースが生じる可能性がある。
グループ通算制度においても繰越欠損金は、連結納税制度と同様に特定欠損金と非特定欠損金の2種類に分けられる。特定欠損金は自社においてのみ控除できるが、非特定欠損金は通算グループ内で所得法人に配賦して控除されることになる。通算グループ内の各法人の欠損金控除限度額(損益通算後所得)の範囲内で同一年度において生じた特定欠損金と非特定欠損金がある場合には、①特定欠損金②非特定欠損金の順で損金算入(改正後法法64の7①)されるが、特定欠損金は自己の控除限度額の範囲内で損金算入、非特定欠損金は通算グループ内の損益通算後の所得法人の控除限度額(特定欠損金控除後の残額)の範囲内で、通算グループ内の非特定欠損金の合計額を控除限度額の比で配分した金額(プロラタ計算)を損金算入することとなる。なお、大法人の場合は欠損金控除限度額は損益通算後所得の50%となるが、特定欠損金の控除においては各社の所得の50%ではなく通算グループ全体の所得に対する50%相当額まで控除可能である。
連結納税制度とグループ通算制度とで繰越欠損金の通算方法が異なるのは以下の2点となる。
(1)連結納税制度では、損益通算「前」の個別所得を限度に特定連結欠損金の控除額が計算される一方、グループ通算制度では、損益通算「後」の個別所得を限度に特定欠損金の控除額が計算される(改正後法法64の7①)。そのため、グループ通算制度においては、グループ全体の特定欠損金の控除額が連結納税制度より小さくなるケースがある。
(2)グループ通算制度では、通算グループ全体の控除限度額まで通算グループ全体の非特定欠損金を控除することになるが、課税所得がマイナスの法人からは非特定欠損金が控除されない(通算グループ全体の非特定欠損金を各通算法人の損金算入限度額の比で配分して計算を行う(改正後法法64の7①二))。つまり、グループ通算制度では、課税所得がマイナスの法人は自社では非特定欠損金を使わず、他の通算法人に自社の非特定欠損金を使わせるという点で、非特定欠損金使用額に関する計算方法が連結納税制度とは異なることとなる。
図表2 グループ通算制度の場合
|
P社 |
S1社 |
S2社 |
合計 |
---|---|---|---|---|
通算前所得 |
400 |
200 |
△120 |
480 |
損益通算(※1) |
△80 |
△40 |
120 |
0 |
通算後所得 |
320 |
160 |
0 |
480 |
繰越欠損金額 |
50 |
200 |
300 |
550 |
損金算入限度額(通算後所得x50%) |
160 |
80 |
0 |
240 |
損金算入される特定欠損金額(※2) |
- |
160×1(240÷160>1) |
0×1(240÷160>1) |
160 |
損金算入される特定欠損金額控除後の損金算入限度額(マイナスの場合は0) |
160 |
0 |
0 |
160 |
非特定欠損金配賦額 |
50×160÷160=50 |
50×0÷160=0 |
50×0÷160=0 |
50 |
非特定損金算入割合(※3) |
1(80÷50>1) |
|||
非特定欠損金額の |
50=50×1 |
0 |
0 |
50 |
欠損金控除後 |
320-0-50=270 |
160-160-0=0 |
0-0-0=0 |
270 |
繰越欠損金残高 |
0 |
40 |
300 |
340 |
(※1)P社: △120×400÷600=△80 S1社; △120×200÷600=△40
(※2)特定欠損金額は各社の欠損控除前所得金額を限度。算式における割合が1を超える場合にはその割合を1として計算。
(※3)算式における割合が1を超える場合にはその割合を1として計算。
図表3 連結納税制度の場合
|
P社 |
S1社 |
S2社 |
連結 |
---|---|---|---|---|
欠損金控除前所得 |
400 |
200 |
△120 |
480 |
連結欠損金個別帰属額 |
50 |
200 |
300 |
550 |
損金算入される |
- |
200 |
0 |
200 |
損金算入される非特定欠損金額(※2) |
40 |
- |
- |
40 |
欠損金控除後 |
400-0-40=360 |
200-200-0=0 |
△120-0-0=△120 |
240 |
連結欠損金個別帰属額残高残高 |
10 |
0 |
300 |
310 |
(※1)連結所得480の50%(240)を上限に、各連結法人の個別所得の範囲内で使用
(※2)連結所得480の50%(240)から使用済特定欠損金(200)控除後の範囲内(40)で使用
ただし、グループ全体で使用できる非特定欠損金額は変わらない(もっとも(1)により特定欠損金の使用額が変わる結果、非特定欠損金の使用額が変わることはありうる)。
上記の相違点のうち特に(1)を要因として、通算グループ全体で控除可能な繰越欠損金額が連結納税制度とは異なる結果となる可能性があり、その場合は将来の回収可能額が変わり、繰延税金資産または繰延税金負債の計上額に異同が生じる可能性があることに注意が必要である。
具体的には、図表2、図表3のようなケースの場合(大法人に該当するものとし、繰越欠損金はすべて前事業年度に発生したものとする)には、グループ通算制度(図表2参照)と連結納税制度(図表3参照)と比較して、グループ全体での課税所得・繰越欠損金の使用額が異なる結果となる。
連結納税制度においても投資簿価修正額は、一時差異と同様に取り扱われていたが、グループ通算制度においても、売却等によってその年度の課税所得を増額または減額する効果を有する点は同様であることから、新実務対応報告第42号19項においても連結納税制度における取扱いを踏襲し、投資簿価修正額は一時差異と同様に取り扱われるものとされている(図表4参照)。
連結納税制度における投資簿価修正は、連結納税に参加している期間中の利益積立金額の増減額を修正対象とし、連結納税グループ内での二重課税・二重控除の排除を目的としていた。
連結子法人が連結納税グループ内で個別帰属所得を発生した場合には、連結所得に含めて課税を受ける。その後連結子法人株式を譲渡した場合には、株主である連結法人でも譲渡益が計上されて二重課税を受けるため、投資簿価修正により譲渡益を圧縮することとしていた。
図表4 投資簿価修正による他の通算会社の株式等の帳簿価額の修正額
(1)税務簿価>帳簿価額の場合 (2)税務簿価<帳簿価額の場合 |
連結納税制度の見直しの議論の中で、第24回税制調査会(2019年8月27日)「連結納税の見直しについて」において、「含み益についても、含み益のある資産を譲渡して含み益を実現させ、その譲渡した法人の株式について投資簿価修正を行った後、その株式を売却することで、含み益が生じていた資産の帳簿価額が引き上がるにもかかわらず、含み益の実現益は株式譲渡損が生じた場合には相殺されて課税が逃れられるなどの問題が生ずるので、恣意的な税負担の調整を防止する観点から、上記のような含み益の実現益は、投資簿価修正の対象から除くなどの方向で検討することが考えられる。」とされている。
また、損失の2回控除について、「同様の問題は、含み損のある資産を有する子法人の株式を有するグループ内法人が、その子法人の株式について、評価損を計上し、又はグループ内譲渡(非適格組織再編成を含む。)を2回行って譲渡損を計上し、その後その子法人がその資産の含み損を実現させる場合にも生ずる。したがって、企業グループから子法人が離脱せずに子法人株式と資産の損失をそれぞれ計上する方法による損失の2回控除についても、これを防ぐ方策を検討する必要がある。なお、子法人の株式について、資産として認識すべきかといった観点からも検討が必要であるとの意見もあった。」とされている。
図表5 投資簿価修正に関する取扱い
そのため、グループ通算制度においては、①通算子法人の株式の他の通算法人に対する譲渡損益および評価損益を計上しないこととされるとともに、②投資簿価修正が改組されて通算制度からの離脱法人の株式の離脱直前の帳簿価額を離脱法人の簿価純資産価額に相当する金額とする制度とされた。これにより、通算制度下において子法人に生じた利益または損失に対する株式の譲渡損益を通じた2回目の課税または控除は、改正前と同様に防ぐことができる。一方、通算制度の開始または通算制度への加入前の子法人株式の含み損益も計上されないことになる。
上述のとおり、連結納税制度からグループ通算制度への移行に伴い、投資簿価修正の計算方法が変更されることにより、通算子法人の株式等に係る投資簿価修正による一時差異の金額に変更がある。制度変更に伴い一時差異の金額に変動が生じることにより、繰延税金資産または繰延税金負債の計上額に異同が生じる可能性があることに注意が必要である。
※本稿は、「企業会計」2022年1月号に掲載された記事を転載したものです。
※本記事は、株式会社中央経済社の許諾を得て掲載しています。無断複製・転載はお控えください。
※法人名、役職などは掲載当時のものです。