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2020-04-16
LIBOR(ロンドン銀行間取引金利)の不正操作の発覚を受け、英国の金融当局は「2021年末以降は、パネル行にレート提示を強制しない」と表明した。LIBOR廃止の影響と参照取引・商品の行方は─。有識者に話を聞いた。
2020年1月30日、日本銀行の雨宮正佳副総裁は「金利指標改革」をテーマにした講演の中で、LIBORから代替指標に移行するまでの期間について「残された2年弱という時間は、課題の広がりや複雑さを踏まえると決して長くはない」と発言し、金融機関や投資家に対応加速を促した。各金融機関は対応に迫られる中、実際に金融機関のLIBOR廃止対応を支援しているPwC Japanグループでは、LIBOR公表停止による影響と対策を8つにまとめている(図表参照)。
(1)の「LIBORの市場流動性」は、2021年末にかけてLIBOR移行が進むことにより、LIBOR参照商品の流動性が低下し、関連商品の価値移転が生じるリスクを指摘したものだ。LIBORを参照する取引・商品を抱えていること自体が自社にとってリスクとなるため、早急に移行あるいはフォールバック条項挿入の検討を進めることを提案している。PwCコンサルティング合同会社 公認会計士/博士(経済学)パートナー、金融サービス事業部の安達 哲也氏は、「ただし、フォールバックを導入したとしても、市場の状況によっては移行時のLIBORの水準とは大きく離れた水準の後継金利(代替金利指標+スプレッド調整)に移行するかもしれず、移行時に価値移転が生じる可能性がある。また、スワップなどの市場価格が後継金利の情報を既に反映している場合には、移行時の価値移転は小さくなるかもしれないが、フォールバックを導入した時に価値移転が生じる可能性がある。そのため、フォールバックは最後の砦との想定のもと、できる限り顧客と後継金利を合意できる(LIBOR廃止前の)早期移行が好ましいと考えている。その他、ヘッジ手段としてLIBOR参照デリバティブを使用している場合には、LIBOR移行時に起こり得るヘッジ手段とヘッジ対象の間の移行タイミングや後継金利の違いなどに基づくベーシス・リスクの顕現化による財務インパクトを最小化するように、移行計画を策定することが必要となる」と語る。
(2)の「新しい金利指標市場」は、(1)で指摘したLIBOR廃止による流動性低下のリスクを回避するため、既存のLIBOR商品の計画的な削減と、代替金利指標を参照する取引および商品開発を進めることを提案するものだ。PwCあらた有限責任監査法人 パートナー 公認会計士の永野 隆一氏は、「ターム物金利のLIBORを翌日物のRFRに置き換えれば、ターム調整やスプレッド調整が必要になるが、現時点では代替金利を利用する際のコンベンション(利息計算方式)が統一されていない。代替金利の市場における流動性が不十分である。RFRに基づく新商品の開発は一筋縄ではいかない。LIBORのような先決めのターム物金利に対するニーズが高いこともあり、各国でIOSCO原則に適格なRFRに基づくターム物金利の構築の検討が進められている状況だ」と話す。
(3)の「リスクおよび時価評価モデル」では、LIBORから新しい金利への移行により、既存のプライシング・モデルやリスク評価モデルの見直しが必要であることを指摘している。PwCあらた有限責任監査法人 レギュラトリー・フィナンシャルマーケッツ・アドバイザリー部長 パートナーの石井 秀樹氏は、「例えば、LIBORからの移行に伴い金利決定のタイミングが変われば、オプション取引などにおける損益確定のタイミングにも影響がおよび、商品性自体に影響が出てくる可能性がある」と語る。
廃止への対応を進める金融機関にとって作業負荷の高い領域としては、(4)の「契約の特定および修正」と、(6)「市場(顧客)へのアウトリーチ」が挙げられる。(4)に関して石井氏は、「自社の中にLIBORに関連する契約がどの程度あるのか棚卸しを行った上で、契約書のどの部分の文言を変更する必要があるのか、変更する場合はどのような文言にするのかを検討する。ただし、紙や電子データなどバラバラのフォーマットで契約書が管理されている場合は膨大な作業になるだろう。とはいえ、手作業では時間・コストの観点から対応は難しいため、人工知能(AI)や光学式文字読み取り装置(OCR)を組み合わせたテクノロジーの活用も検討すると良い」と話す。
一方、(6)について安達氏は「LIBOR移行時に何か起きれば、顧客の信頼を失う可能性もあるため、移行時の影響について事前に顧客への説明を進めるとともに、顧客対応について社内で認識の共有を進めることが大切だ。また、自社の顧客対応の中身が他社と大きく異なっていると顧客を混乱させかねないため、他の金融機関の対応の進め方にも目を配る必要がある」と強調する。
(5)「システムとプロセスの変更」では、LIBOR移行に伴い各種システムや業務プロセスの改修・新規構築が必要になる点を指摘している。永野氏は、「各金融商品・取引の代替金利指標やそのコンベンションなどが決まらなければ、システムの改修・構築作業を進められない。一方で時間は限られているため、全体最適なシステムを最初から目指すのではなく、個別最適なシステムをパッチワーク的につなぎ合わせる進め方になることが予想される」と語る。
その他、(7)「会計・税務インパクト」では、LIBORからRFRへの移行が財務報告やヘッジ会計など様々な領域に影響をおよぼす点を指摘しつつ、影響の範囲を早期特定し解決策を検討すべきとしている。
また、(8)の「規制当局への対応」では、各国の監督当局の動向に気を配る必要性を指摘している。安達氏は、「英国当局は、金融機関に対して、2020年3Qを目途に満期が2021年末を超えるLIBOR参照商品の発行の停止を推奨するなど、LIBOR廃止に向けた金融機関への監督姿勢を強めている。現時点で日本にはこのような動きは見られないものの、LIBORを参照する取引・商品を多く抱える金融機関は、各国の動向をチェックしつつ対応を進めることが大切だ」と強調する。このような幅広い分野にまたがるポイントを同時並行で進めていかなければならない各金融機関は、社内の各部署と連携しながら2021年末のLIBOR廃止時点までの行動計画を明確にし、着実に対応していくことが求められている。
本コンテンツは、『The Finance March 2020』に掲載されたインタビュー記事を転載したものです。
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法人名、役職、内容などは掲載当時のものです。