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2022-10-20
本連載(全3連載)では『顧客体験を変えるデジタルマーケティング』をテーマとしており、前回は顧客体験をどう考えるかについてお届けした。第2回目は「2:デジタルマーケティングの設計のポイント」について記す。
製薬メーカーとして望ましい取り組みの議論に入る前に、他業界の先進事例について触れておきたい。
最も参考にすべきもののひとつとして「パーセプションフロー」をあげたい(「図1:ファブリーズのパーセプションフロー」参照)。これはファブリーズの事例であるが、一連の顧客接点において、また、それらを通して顧客から消臭剤(ファブリーズ)に対してどう思われたいのか(どういう認知を形成していきたいのか)が明確に定義されている。ここでのポイントは「顧客の日常生活の中でどのようにニーズが生まれるか、どのように顧客接点を持ち、そこでどのように思われることを目指すか」を明確にしていることである。
一見、これは当たり前のことであり誰もがやっていることのように思うかもしれないが、筆者の経験では、ここまで明確にパーセプションフローを定義しているケースは製薬業界に限らず稀であり、「顧客はどう思っているのか」「顧客にどう思ってもらいたいのか」といった顧客起点でプロモーション戦略を設計しているケースもほとんど目にすることがない。
前回述べた通り、顧客体験とは「顧客が製品やサービスに関心を持つタイミングを起点に、顧客が自社との接点を持つ中で、その顧客が自社に対して持つ評価(体験を通して出来上がっていく評価)」である。つまり、顧客体験の向上・強化には「どう思われるか・どう思われたいか」を定義する必要があり、本事例はそれをしっかりと体現している数少ない事例である(最終的には、ソファも衣服も生地を傷めず、かつニオイを心配することなく、すっきりとした気分で快適に生活するという顧客体験を提供している)。
なお、具体的な事例の方がメッセージを伝えやすいと考え、守秘義務の関係から詳細を開示できないため当社プロジェクト事例以外の事例を紹介しているが、当社が手掛けてきた各種業界の多くのプロジェクトからも同様のことが言える。
それでは、いよいよ、製薬メーカーにおけるデジタルマーケティング戦略の設計時の重要ポイントについて議論を進めよう。本稿では、基本的な考え方となる「Digital Contact Customer Journey」の設計、その中で顧客体験の向上においても、ビジネスインパクトの獲得においても最も重要なステップであり同ジャーニーのファーストステップである「Attract Contents」の設計について述べたい。
すでにそうなっているし、今後もさらにそれが強まるものと考えるが、顧客接点をデジタル中心に考えていく必要がある。そしてデジタルマーケティング活動を通して実現される顧客体験を「変える」ためのヒントになるのが、「図2:Digital Contact Customer Journey」である。実はこの考えは2年以上前から当社が提唱しているもので、顧客体験という単語がバズワードになるくらいに浸透してきた中で(依然としてバズワードであり具体性を持たないことが多いが)、顧客体験の強化に取り組むべく、ようやく実践事例が増えてきた。
この考えの最大の特徴は、顧客の関心を惹く、つまり顧客ニーズに沿うことを起点としていることである。これが重要な理由は、もちろんゴールが顧客体験をより良いものにすることだからであるが、ビジネスインパクトにおいてもこの点は意義が大きい。なぜなら、ここがマーケティングファネルの入り口であり、ここが広くならなければ最終的なビジネスインパクトも大きくならないからである。
前号でも述べたとおり、多くの製薬メーカーではデジタルに加え、MRチャネルにおいてもターゲット顧客へのリーチの不足に強い問題意識を持っているが、それは顧客のニーズに沿っていないことが大きな要因であり、マーケティングモデル自体を顧客ニーズ起点に変えることは実利に適うものでもある。
また、顧客からの専門性ニーズの高まりに応えるべく、最後のステップにある「専門家活用」の重要性についても強く、その必要性を認識していただきたい。実際に筆者が支援しているクライアントでも成功事例には枚挙にいとまがない。
既述のとおり「Digital Contact Customer Journey」において、最初のステップである「Attract Contents」が非常に重要な位置を占めるが、その製薬メーカーにおける取り組み事例を紹介したい(「図3:“Attract Contents”作成に向けた「DNA分析」の進め方」参照)。図3の内容自体は一般化したものを記載しているが、当社の支援事例のひとつでは次のような取り組みを行った。過去に配信し、顧客からの評価結果がある約50本のコンテンツに対して、どのような要素を含んでいるものが、どのように評価されているのかを分析した。当社ではその要素のことを「DNA」、本分析を「DNA分析」と呼んでいる。実は、この考え方アプローチ自体は特に小売業界ではよく行われており、POSデータ等を用い、味、価格、ブランドイメージ等といったどのような要素(DNA)の商品がどのような顧客に購入されているか、さらには顧客タイプ別に顧客の嗜好性がどのようなときにどのように変化していくかを分析している。
この考えを用いて、AI(Advanced Analytics)を活用しながら、どのように顧客にアプローチすることが顧客体験の向上に資するのか、また自社品に関するコミュニケーション機会の最大化につながるのかを分析したのが、この事例となる。なお、この事例では、DNAの重視パターン別に顧客をセグメント化し(クラスタリング分析を行い)、セグメント毎に顧客ニーズに沿うコンテンツ配信・情報提供を行い、顧客満足度を高めている。
DNAの重視パターンを分析することで、顧客ニーズに関する仮説を構築し、コンテンツ配信とそれらへのフィードバックを獲得・分析によって同仮説を検証するサイクルを繰り返す、これは、前号で述べた顧客体験の設計における重要ポイントのひとつである「①顧客起点:仮説思考・仮説検証の重視」の最たる事例であり、是非、皆さんに参考にしていただきたい。
既述のとおり、顧客体験の強化に取り組む際に最も重要な態度は「顧客の立場で考える」ことである。しかしながら、実際には、顧客からの評価を取らないまま、つまり、顧客の声を聴かずにコンテンツを設計しているケースの方が圧倒的に多い。また、コンテンツやメールの件名でクリック率に差が付かないことを理由に顧客からの評価を得ようとしないケースも多い。しかし、それとコンテンツを視た人がどの程度それに満足したかは別の議論である。また、数名だけでもコンテンツ視聴者にインタビューを行うことも有効なはずだ(これも、例えば消費財では一般的だが、製薬業界ではほとんど行われない)。コンテンツを視た人がどのような要素(DNA)を評価したかを分析し、どういう顧客ニーズがあるかの仮説を構築・検証していくことこそが顧客体験の向上、さらにはリーチ率拡大に向けて必要な取り組みである。
デジタルマーケティング戦略の構築をデータドリブンに行うことは非常に重要である。しかしながら、データの探索的な分析からスタートする事例での成功確率は高くないように思う。少なくとも筆者の知る範囲ではそう言える。このパターンが上手くいかない理由は、学びが少ないこと、得られる示唆のレベルが想像できないことである。探索的アプローチから示唆を得るには膨大な時間(つまりコスト)がかかることが多いが、それだけの時間があれば多くの仮説検証を繰り返し、たくさんの学びを得ることができたのではないかと思うことが多い。また、探索的アプローチから出て来る示唆が現場の人間(当事者としてビジネスを行っているメンバー)にとっては「当たり前のこと」もしくは「インサイト(顧客理解につながる情報)がないため正しいのか分からない、再現性のあることなのか分からないこと」も多い。それでは現場は動かない。さらには医療用医薬品の市場は静的であり、多くの活動の積み重ねが成果を生むことになるが、そういった市場でビジネスを展開するに際し、Next Best Actionだけを頼りに活動するマーケティング・営業に明るい将来は待っていないというのが筆者の仮説である。少なくとも「顧客を想うこと」「医療界を少しでも良くしよう努力すること」につながる行動ではないように懸念する。
なお、マーケティングの国内外の先進企業に、アナリティクス組織がどんどん現場に近づいていき、顧客理解を反映した実用的な示唆を出すことを目指している事例が多いことが上記仮説の正しさをある程度は証明しているように捉えている。
この取り組みの推進は、顧客理解に関する知見、データ分析に関する知見の双方を求めることとなり、そして、顧客体験は連綿と続く顧客接点の積み重ねを通して提供されるものである。しかしながら、当然、多くの企業で本チャレンジに関わるメンバーは「マーケィング」「営業」「メディカル」等、特定の機能に特化した取り組み経験しかもたない。
そう考えると、少なくとも経験を重ねていく段階では、全体を強力にリードする組織が必要なのではないだろうか。そして、同組織の責任者はCXOと呼ばれるメンバーが良いものと考える(CXO:CEO、COO、CFO等といった一影響力の大きい意思決定権を持つメンバー)。筆者の周囲でも、顧客体験の向上・強化を目指しながらも、データドリブンな戦略・戦術構築に際し目的変数(ゴール)が売上のみになっていたり、大きいビジネスインパクトをもたらすことのみにフォーカスしたような発言が経営層から聞かれたりすることもある。そういった困難を乗り越え、顧客体験の向上に執着しながら目的を実現するには、それなりのパワーが必要であり、CoE(Center of Excellence)のような組織が設立され、本チャレンジに取り組むことが望ましいと考える次第だ。なお、こういった組織がリードすることは、事業部門横断的にナレッジを蓄積・活用していけるメリットの享受にもつながる。
本稿では『顧客体験を変えるデジタルマーケティング』の連載のうち、「2:デジタルマーケティングの設計のポイント」について記した。次回(最終回)は「3:医師の想いにどう答えるか」がテーマとなるが、そこでは弊社がデザイン思考アプローチにより「人間としての医師とは」「医師のウェルビーイングはどのようなものか」を見出すチャレンジから得てきている示唆をもとに議論を進めたく考えている。
顧客体験の向上は1顧客志向(仮説思考)と2継続的な関係性(人間性・Trust)から実現される。主に後者に関して、顧客である医師をひとりの人間として捉え、製薬メーカーがどのようにリレーションを構築していくべきか、そのデジタルマーケティング戦略に与える影響を考察していきたい。
ミクスOnline https://www.mixonline.jp/
パートナー, PwCコンサルティング合同会社
馬場 大輔
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