【2020年】PwCの眼(1)「ポストコロナ」時代に向けた移動拡大と経済成長のデカップリングの可能性

2020-05-01

2020年初めから新型コロナウィルス(COVID-19)の感染者数が世界で増加しており、各国政府が感染対策を講じる中、社会的・経済的な影響も拡大している。本項では足元の影響を振り返りながら、「ポストコロナ」時代の移動の在り方を考察する。

各国政府による国境閉鎖、特定国からの入国禁止や集会禁止などの処置に伴い、国家間・国内での人々の移動も減少している。経済的な影響としては、自動車産業における生産・販売の減少はもちろんのこと、観光業・航空/旅客業・エンターテインメント業など、その他の業界においても利用客・顧客が急減している。さらに、経済的な停滞が見込まれる中、協調減産の合意がなされなかったことによる原油安ショックも加わり、エネルギー企業などへの不安も煽られ、世界同時株安も招いた。社会的な影響としては、世界各国で食料品・日用品の買い占めによるモノ不足も発生している。

社会的・経済的な影響の軽減策として、ヒト・モノの移動に関するデジタル技術の活用が進み始めている。例えば、多くの国内外の企業で取り組まれているように、経済的活動を中断せず継続するためにテレワークを導入し活用することで、移動自体を減らしている。また、台湾では、社会的なパニックを避けるため、マスクの在庫数や給付量を開示することで店舗ごとに必要な食料品・日用品の在庫情報が見える化された。

では、上記の延長線上にある「ポストコロナ」時代は、どのようなモビリティが社会を支えていくのだろうか。従来のモビリティ分野では、移動拡大と経済成長は比例関係にあり、移動拡大に伴う感染症などのリスクは外部化されていた。しかしながら「ポストコロナ」時代では、そのリスクも勘案し、移動量・手段・時間を最適化しながら、経済活動の拡大を目指す「デカップリング(分離)」が図られると想定される。

例えば、消費者目線では次のような変化が予想される。衣食住などの生活に不可欠な移動は、ECの一層の普及に加え移動店舗などの展開によって、ヒトではなくモノが移動する形にシフトしていくだろう。また、通勤・通学・通院など日課的な移動は、テレワーク・遠隔診療に代替されていくのではないだろうか。必要な場合の移動に備え、移動中や目的地における過密を回避すべく時間帯の分散や移動手段のプライベート空間化、場合によっては移動前の健康状態把握も進展しうる。また、余暇・娯楽における移動については、一部XR技術により代替されるが、最後まで移動ニーズが残り続けることになるだろう。

一方、これまでは、生活に不可欠な移動や日課的な移動には健康維持、偶発的な消費、人との交流、創造などの効用が内包されていた。これらが損なわれることは、社会保障の負担増、地域経済の不活性化、孤独化、産業の競争力低下などを招くだろう。自動車・モビリティ産業の事業関係者は、「何のために人は移動するか」を問い直し、自社の事業・開発の方向性を定め、国・自治体・異業種と新たな挑戦を進める岐路に立っている。

本年度は、モビリティ分野での優先アジェンダを設定し、日本におけるスマートシティ・ヒトおよびモノの移動、それらを踏まえた日本の自動車産業におけるCASE進展と今後の展望について連載を進める。

【Strategy&は、PwCの戦略コンサルティングサービスを担うグローバルなチームです。】

執筆者

阿部 健太郎

阿部 健太郎

シニアマネージャー
PwC Strategy&
kentaro.abe@pwc.com

※本稿は、日刊自動車新聞2020年4月18日付掲載のコラムを転載したものです。

※本記事は、日刊自動車新聞の許諾を得て掲載しています。無断複製・転載はお控えください。

※法人名、役職などは掲載当時のものです。

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