【2020年】PwCの眼(8)日本版MaaS実現に向けた、スマートシティに統合されたモビリティの未来

2020-12-02

MaaSとは「地域住民や旅行者一人一人のトリップ単位での移動ニーズに対応して、複数の公共交通やそれ以外の移動サービスを最適に組み合わせて検索・予約・決済等を一括で行うサービス」と定義される。2019年は、経済産業省と国土交通省が共同で実証事業「スマートモビリティチャレンジ」を立ち上げるなど、MaaS元年であった。しかし現在、MaaSに対する注目度は、昨年のピーク時に比べると衰えている。本稿では、MaaSについて日本における歩みを振り返り、将来のスマートシティの中でどのように発展すべきかを論じたい。

MaaSの効果は「モビリティのデジタルトランスフォーメーション(DX)」と言える。DXには大きく2段階あり、最初の段階ではデジタル技術を用いて単純な改善・省人化・自動化・効率化・最適化を図る。次の段階では社会の根本的な変化に対して、時には既成概念の破壊を伴いながら新たな価値を創出するための改革を進める。すなわち、交通事業者視点で言い換えると、利用者や事業者の状態をデータで把握・解析し、サービスに利活用することで、短期的な収益改善と長期的な新規事業機会創出を獲得することが期待される。

日本においてMaaSの注目度が減少している要因は、主に期待効果とMaaS実現にあたっての諸前提のアンマッチによるものではないだろうか。代表的なアンマッチを3点挙げたい。1点目は、事業者のデジタル基盤・利活用方針とのアンマッチである。事業者のデジタル基盤が、MaaS実現の前提となる運行計画や運行状況などの交通データを提供できる状態にはないというケースだ。2点目は、収益源のアンマッチである。長期的な新規事業機会創出に期待するあまり、短期的な改善・省人化・自動化・効率化・最適化という収益基盤の検討が後手に回るケースだ。3点目は、エンドユーザーとDX自体とのアンマッチが生じるケースだ。特にMaaSによる交通課題解決を図るべき地域では高齢化率が高い傾向にあり、検索・予約・決済などを一括で行うMaaSを利用するためのデジタルデバイスに不慣れなエンドユーザーが多く、DXに適さないと言える。

このような逆風下、日本版MaaSを推進するのであれば最初のステップとして、交通事業者のDXに主眼を置くべきではないだろうか。交通事業者は、人口の減少や今後の天災・疫病懸念の高まりに伴い、不足する働き手や不安定な収益への対応が急務である。そこでMaaSを一義的にそれらへの対応策と位置付けることで 「儲からない」「技術実証目的が中心で実際には利用されない」という懸念を払拭することが可能だろう。

またMaaSが、事業者間の連携や生活者への価値提供まで昇華されるためには、スマートシティと密接不可分な形で設計されるべきである。ただし、MaaSと事業者や地域課題解決を結び付けた草の根活動型のアプローチは、進め方を誤るとサイロ型やタコつぼ型のソリューションとなってしまう懸念があり、早期からその横展開を見据えた標準化やアーキテクチャの構築が不可欠となる。スマートシティに関する事例・PwCの見立ては、「2050年 日本の都市の未来を再創造するスマートシティ」を参照されたい。

執筆者

寺島 克也

阿部 健太郎

シニアマネージャー
PwC Strategy&
kentaro.abe@pwc.com

※本稿は、日刊自動車新聞2020年11月21日付掲載のコラムを転載したものです。

※本記事は、日刊自動車新聞の許諾を得て掲載しています。無断複製・転載はお控えください。

※法人名、役職などは掲載当時のものです。

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