【2020年】PwCの眼(10)自動車・モビリティ産業において「避けられぬ事業再編」

2021-01-26

自動車産業では、電動化や自動運転といったCASE対応などを背景として、前稿で論じた「両利きの経営」に加え、自社単独ではなくM&A・アライアンスなどの事業再編を活用していくことが期待される。本稿では、変革期における事業再編のパターン、再編を通じた将来像、日系企業が直面する課題と進むべき方向性を論じたい。

自動車・モビリティ産業における今後の事業再編は、主に以下の3パターンで進むと想定される。1つ目は、成熟・衰退期を迎えつつある既存製品群における事業集約である。これは、売り手企業がノンコア事業として事業の切り出しを図り、買い手企業がスケールメリットや残存者利益を狙うパターンだ。買い手がベストオーナーであれば当該事業の成長も期待できる。2つ目は、導入期・成長期の新規製品・サービス群における異能・異才の融合である。CASE・MaaS領域などにおいて、これまで自動車産業が持ち合わせていないメカトロニクス・IoT/AI技術や新たなエコシステムを獲得するパターンだ。3つ目は、リスク分散のためのスケール獲得だ。特に自動運転のような多額の開発・生産投資を要する上に不確実性の高い領域では、新しい技術に広く網掛けをしつつも、個々の投資リスクを分散するための業務/資本提携・事業統廃合が進んでいる。

事業再編の結果、「システム/サービス」「機能・感性価値」「ドミナントコモディティ(良品廉価な汎用部品)」を提供できる完成車メーカー・サプライヤーが生き残るだろう。すでに欧米メガサプライヤーを中心に、成熟・衰退期が迫った事業を事業価値があるうちに切り出し、導入期・成長期のシステム/サービスに投資する動きが見られる。また、半導体をはじめ今後求められる機能・感性価値を有する新興企業は、すでに既存自動車産業のプレイヤーを凌駕する企業価値を認められている。さらに、中国では政策的にサプライヤーの統廃合が進められ、欧米サプライヤーの汎用部品領域も合わせて取り込んでいる。このような水平分業によりレイヤーマスターが台頭するグローバル競争環境下では、日本の「系列」の延長にある垂直統合型の事業構造のままでは規模の経済性で劣るだろう。

ただし、これまで完成車メーカー主導のもと、安定的に事業を推進してきた自動車産業における再編は一筋縄ではいかない。まず、自社ポートフォリオ内の各事業の成長性を踏まえてバリュエーションを行い、コア・ノンコアを判定し、ノンコア事業のカーブアウトを推進する「M&A経営人材/専門組織・機能」が不足している。カーブアウトを行う場合、対象事業の財務諸表を作成し、スタンドアロン課題を特定して対応計画を策定する必要がある。また、終身雇用・メンバーシップ型の事業運営の場合、一部事業を切り出すことへの抵抗が大きい傾向がある。最後に、日本には再編を推進するリーダーの不足という課題がある。グローバル競争力の強化に向け、各企業に分散した事業をロールアップし、統合シナジーを実現し、販売・開発力を強化していくリーダーが不足していることもボトルネックとなる。日系企業においては避けられぬ再編に向けて組織・人材・経営管理面で変革を進めるとともに、官民で再編加速に向けた投資機能を強化することが期待される。

執筆者

東 輝彦

東 輝彦

パートナー
PwCアドバイザリー合同会社
teruhiko.azuma@pwc.com

※本稿は、日刊自動車新聞2021年1月16日付掲載のコラムを転載したものです。

※本記事は、日刊自動車新聞の許諾を得て掲載しています。無断複製・転載はお控えください。

※法人名、役職などは掲載当時のものです。

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