【2020年】PwCの眼(11)モビリティ産業の構造変化の中で求められる新たな戦略ポジショニング

2021-02-18

IoT(インターネット・オブ・シングス:モノのインターネット)や人工知能(AI)などのテクノロジーの進展とともに第4次産業革命が進む中、ビジネスのパラダイムが変わり、既存の産業の枠組みも大きく変わろうとしている。
製品のソフトウェア化と同時に、サービスもデータをもとにソフトウェアで制御されるようになってきており、製品とサービスのいずれも開発にあたってはリソースの効率的活用とスピードアップ、品質向上のための標準化・複雑性軽減が求められるため、ソフトウェアの「プラットフォーム化」が進められる。さらにそれは、幅広い製品やサービスの開発に効果的に活用可能な「オープン化」の方向に向かう。その結果、製品・サービスの両方の領域でその構成要素を含めて新規参入が容易となり、新たな競争環境のもとで進化のプロセスが加速する。

こうした製品・サービスの供給サイドが引き金となる構造変化「インダストリートランスフォーメーション」は、すでにいろいろな産業で見られる。モバイルやファクトリーオートメーション(FA)/産業用ロボット、建設機械などの業界に続き、モビリティ産業でも同様のプロセス、パラダイム変化の予兆が見受けられる。そこでは、新たな観点から「顧客」「商品」「ビジネスモデル」の再定義が必要となり、それらが産業構造変化のドライバーとなる。

このような変化においては、産業構造自体が変化するため、従来の概念を超えた戦略ポジションの見直しが必須となる。次世代の戦略ポジションは、サービスや製品の開発環境からデータ基盤まで提供する「プラットフォーマー」、コモディティ化するハードウェアなど特定領域で圧倒的なプレゼンスを確立する「ドミナント・コモディティ・サプライヤー」、プラットフォーマーが提供する開発環境を活用しつつ製品やサービスの要件を踏まえて実装までサポートする「システムインストーラー」など非常に多様である。新たな世界観の中で、自社の強みや目指す提供価値の領域を明確化し、改めて幅広い観点で新しい戦略を構築・実行していく必要がある。

このようなインダストリートランスフォーメーションに対応するため、あるいはリードするためには、これまでにないアプローチで、戦略検討や実行のためのオペレーションを設計することが必要となる。旧来の事業ドメインを超えて異なる業界から新規参入してくる競合企業の視点も踏まえながら、新しい事業ドメインで戦うための戦略シナリオや戦略オプションを構築し、デジタルツールを駆使して各機能のオペレーション改革を行うことが求められる。また、既存産業の枠組みを超えた新しいタイプの戦略提携・M&Aにより、新規参入企業と競争・協業できる組織体制を構築することなど、次世代を勝ち抜くための新たな対応が必要とされる時代になっている。

※本稿は、日刊自動車新聞2021年2月6日付掲載のコラムを転載したものです。

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