【2020年】PwCの眼(12)年度総括:自動車・モビリティ産業の経営アジェンダ

2021-03-27

今年度の連載では、「100年に一度の大変革期」にある自動車・モビリティ産業における新型コロナウイルスの影響も踏まえた変化を分析し、今後の方向性を議論してきた。今年度最終回である本稿では、企業が取り組むべき経営アジェンダを総括する。

まず挙げられるのは、「将来シナリオの構想」である。ポストコロナ時代には、生活圏内のヒトの移動が減少する「移動抑制シナリオ」(ただしモノ・サービスの移動や余暇の移動は増加)、デマンド交通・自動運転・デリバリーロボットなどの普及により移動が増加する「自由移動シナリオ」といった複数のシナリオが想定される。将来の見通しが不確実な中でも、企業運営の舵取りの前提となるシナリオを構想し、軌道修正し続ける必要がある。

そして将来シナリオに基づき、各事業領域で「3つの変革」を進めることが求められる。1つ目は「CX」(顧客体験のトランスフォーメーション)であり、デジタル化や顧客の購買行動の変化に対応するため、オンラインだけでなくリアルの現場体験も含めてVR/ARなど様々な手段を活用し、顧客体験を包括的に再設計する。2つ目は「DX」(デジタルトランスフォーメーション)であり、デジタル技術を活用して開発・製造から販売・サービスまで、事業のバリューチェーン全体を効率的かつレジリエンスを持つオペレーティングモデルへ転換する。3つ目は「MX」(モビリティトランスフォーメーション)であり、既存の自動車製造・販売にとどまらず、異業種間競争・共創を通じて新たなモビリティ関連事業を創出する。

これらの変革を進める上では、「両利きの経営」が求められる。製品ライフサイクルが長い従来の自動車事業に対し、CASEやMaaSをはじめとした新しい機会に対応するにはこれまでとは異なるアプローチが必要となる。特に後者では、既存事業とは別次元のスピード感やリスク許容度などに基づいた新しい働き方で運営することが成功の鍵となる。従って、経営者は各事業の自律性と責任を徹底できるよう遠心力を働かせるとともに、企業体としての存在意義の再定義や事業間シナジーの見極めにより求心力を利かせる、という絶妙なバランスを実現していく必要がある。

また、自社の枠組みを越えた「事業再編」を断行していくことも必要であろう。今後の事業再編は複数のパターンが想定される。既存製品群における同業他社を巻き込んだ事業集約・切り離し、新規製品・サービス群における異能・異才の融合、そしてこれまで自動車産業が持ち合わせていないメカトロニクス・IoT/AI技術や新たなエコシステムを獲得するパターンなどが挙げられる。日系企業においては避けられぬ再編に向けて組織・人材・経営管理面で変革を進めるとともに、官民で再編加速に向けた投資機能を強化することが望まれる。

以上のように、経営者は従来の生存領域や事業のやり方にとらわれずに幅広い可能性を追求していくことが求められる。これまで世界市場をリードし、日本経済を支えてきた自動車産業が、大変革期を乗り越え、更なる飛躍を成し遂げることを期待したい。

執筆者

北川 友彦

北川 友彦

パートナー
PwC Strategy&

※本稿は、日刊自動車新聞2021年3月27日付掲載のコラムを転載したものです。

※本記事は、日刊自動車新聞の許諾を得て掲載しています。無断複製・転載はお控えください。

※法人名、役職などは掲載当時のものです。

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