【2021年】PwCの眼(9)世界的なカーボン規制の潮流と業界への影響

2022-01-24

世界的に脱炭素についての議論が活発化している。

国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)の成果についてさまざまな見解があるが、グラスゴー気候合意として、気温上昇を1.5度に抑える努力を追求することや先進国から発展途上国への資金支援目標の達成に向けた取り組みを継続することが採択されたことは評価できる。

国連環境計画2020によれば、多くの国がネットゼロ長期目標を公表しているにもかかわらず、各国が決定した削減目標を達成するだけでは1.5度に抑えるどころか、2度に抑えるにも十分ではないとされている。こうした状況の中、国際通貨基金は、全世界的な温室効果ガスの排出量削減活動の促進を目的に、所得の高低に応じて温室効果ガスに支払われるカーボンプライスの最低価格制度(インターナショナル・カーボンプライス・フロア)の導入を提案している。同提案によると、高所得国は低・中所得国よりも多くの資金を拠出することとされている。また、当該資金を自国における排出量削減活動のために活用するとともに、低・中所得国における削減活動を資金的に支援することを目指していると考えられる。

インターナショナル・カーボンプライス・フロアが導入されるためには全世界的なコンセンサスが不可欠であることなど多くの課題がある。しかし、導入されるか否かに関わらず、先進国が発展途上国における排出量削減活動を資金的に支援する構図に変わりがないことを考えると、資金拠出が期待されているわが国においても原資をいかに確保するかについては政策立案上の重要なテーマと言えよう。

わが国においては、2021年4月、菅首相(当時)は、従来からの排出量の削減目標を引き上げ、2030年までに2013年比で46%削減するという新目標を表明。2021年6月には、東京証券取引所より改訂コーポレートガバナンス・コードが公表された。

この改訂では、2022年4月に予定されている東京証券取引所の新市場区分のひとつである、プライム市場上場会社に対して「より高いガバナンス」の一環として、補充原則3-1③において「気候変動に係るリスク及び収益機会が自社の事業活動や収益等に与える影響について、必要なデータの収集と分析を行い、国際的に確立された開示の枠組みであるTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース:筆者追記)またはそれと同等の枠組みに基づく開示の質と量の充実を進めるべき」ことが示された。この補充原則で求められていることは単に開示上の対応を行えば良いということではない。気候変動リスクを直視し、自社にとっての収益機会を生み出すきっかけとし、経営戦略に織り込むことが期待されている。

2030年まで残すところ8年を切った。既に多くの事業上の意思決定をしていることから大幅な削減目標の積み上げが難しいという状況やカーボンニュートラルに向けた技術進歩に残された時間があまりにも短いといった解決困難な状況があろう。脱炭素活動は全社的な取り組みとなる。この待ったなしの状況を受け止め、皆で議論し知恵を出し合い精力的に取り組むことが期待されるところである。

執筆者

山中 鋭一

パートナー, PwC Japan有限責任監査法人

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※本稿は、日刊自動車新聞2022年1月24日付掲載のコラムを転載したものです。

※本記事は、日刊自動車新聞の許諾を得て掲載しています。無断複製・転載はお控えください。

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