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2023-11-24
企業の人権尊重を求める声は、国内外問わず高まっている。日本のエンターテインメント業界で露呈した一連の性被害問題の社会的反響は大きく、問題を起こした企業と広く取引先までも巻き込み、ビジネスそのものに大きなインパクトを及ぼしている。
自動車産業も例外ではない。ドイツOEMは、新疆ウイグル自治区での強制労働への関与をめぐり、ドイツのサプライチェーンデューディリジェンス法(LkSG)に基づいて人権団体から告発されている。また、電気自動車のバッテリーに使われるコバルトの採掘では、児童労働の関与が指摘されている。
このような人権問題の解決を企業に促すため、2011年に国連ではビジネスと人権に関する指導原則が承認された。この原則は、国家に人権保護の義務を定めるとともに、企業に対しても人権尊重責任に関するコミットメントの表明、人権デューディリジェンス(人権DD)の実施、人権侵害への救済措置の実施を求めている。人権DDとは、企業が自社およびサプライチェーンにおける人権侵害のリスクを調査し、リスクの防止・軽減のための措置をとり、ビジネスにおける人権状況を改善していく継続的な取り組みである。
人権DDを義務付ける法律制定は諸外国で進んでおり、ドイツではLkSGが施行、EU全体でも人権DDを義務化するコーポレートサステナビリティデューデリジェンス指令の審議が進む。英国や豪州では強制労働を防ぐため企業に情報開示を求める法律が制定され、日本でも、2022年9月に策定されたガイドラインで人権DDの実施を求めている。
現在、自動車産業は日本最大の産業だが、そこには製造現場における安全衛生の不備、移民労働者が斡旋業者に支払う法外な紹介料、外国人技能実習生に対する賃金不払いや長時間労働など様々な人権リスクが存在する。特に社会的に弱い立場にある労働者への配慮が欠かせない。
企業の人権尊重への取組みに対する評価もシビアだ。企業人権ベンチマークのような国際的なイニシアティブは、自動車メーカーの人権尊重に関する取組みを評価・公表しており、サプライチェーンの取引先に対して実施している人権DDの内容も評価項目に含まれる。
自動車産業全体のサプライチェーンは非常に大きく、人権侵害を根絶するには、OEM・サプライヤー間の連携が欠かせない。Catena-Xのようなイニシアティブは、データの共有や協力を通じて、サプライチェーンの透明性を高めるもので、人権侵害の防止ツールとして活用することが期待される。もちろん事業の影響を受ける労働者や地域社会などステークホルダーから直接声を聞くことも欠かせない。
人手不足が深刻化する中、企業が優秀な人材を得てサステナブルな成長を遂げるためには、人権尊重の取組みを実践していくことが必須の条件になるだろう。なぜなら、人権が尊重される企業においてこそ、イノベーションや他者との効果的な協働が生まれ、生産性の向上に結び付くからである。
人権に関する取組みを規制対応として義務感から実施するだけでは、もったいない。サプライチェーン全体で働いている人が活き活きと働ける環境づくりの一環として取り組むことが自動車産業全体の持続可能性にとって不可欠である。
※本稿は、日刊自動車新聞2023年10月30日付掲載のコラムを転載したものです。
※本記事は、日刊自動車新聞の許諾を得て掲載しています。無断複製・転載はお控えください。
※法人名、役職などは掲載当時のものです。
企業が人権尊重責任を果たすために必要とされる「人権方針の策定」「人権デューデリジェンスの実施」「救済・苦情処理メカニズムの構築」およびそれらのベースとなる「ステークホルダーエンゲージメント」の取り組みを包括的に支援します。