【2024年】PwCの眼(3)EV普及の次に控えるリサイクルの大波に備えて

2024-05-07

電池は劣化し、寿命を迎えるものである。身近な例で言えば、スマートフォンで実感されていると思う。車載電池の場合も、期間や品質は異なるものの、劣化や寿命はユーザーにとっての大きな懸念事項である。

電池にはリチウム、コバルト、マンガンなどのレアメタルが使用されているが、寿命を迎えた電池を単純廃棄してバージン材で補給していては、いずれ資源枯渇が問題になる。そこで欠かせないのがリサイクルだが、車載電池は車両とともに中古市場に流通して回収が困難なほか、大型のため金属を取り出すにはコストがかかる厄介な代物だ。

こうした事情も背景に、EV(電気自動車)の普及で先行する中国では、寿命を迎えた大量のEVが不法投棄された“EV墓場”の映像がかつて現地メディアを賑わせていた。しかし、今では電池のリサイクル率90%超を誇り、大手リサイクルプレーヤーを擁するまでに成長している。

中国の成功要因は政府の規制強化にあった。電池資源の価格高騰に目をつけ、廃材を買い漁るヤミ資源再生業者が横行したことで、さらに価格が高騰し、不法投棄などで管理を難しくしていたため、政府は業者の認可制と車載電池の背番号制を導入。廃棄資源の収集・回収を徹底した。
欧州では、その中国・韓国で施行された規制に倣い、2023年8月に欧州電池規則を発効している。
欧州では新型コロナウイルス禍の2020年にEV販売台数が一気に伸び、電池が寿命を迎える2030年ごろにリサイクル市場が活性化するとみられる。当初は供給過剰に見えるリサイクル処理能力もやがてフル稼働に入り、2035年までには大規模な追加投資が必要と見込まれる。

この車載電池のリサイクルに対し、寿命を迎えた電池の行き先としては、低速車などへのカスケード利用、定置用蓄電池へのリユースの他、全固体電池などで電池寿命そのものを飛躍的に延ばすような解決方法も考えられる。
しかし、再生可能エネルギーの導入には上限があり、定置用蓄電池市場もいずれは飽和する見込みだ。電池ケミストリーの技術開発にも時間がかかる。間近に迫る「車両電動化第一波の寿命」という大波を乗り越えるには、リサイクルによるクローズドループ構築が最優先、ということが業界の共通認識になりつつある。

日本は、欧州や中国と比較して、まだストックベースでも2%のEV普及率に留まる。つまり電動化第一波はこれから起きる事象であり、リサイクルビジネスの立ち上がりはさらにその先となるが、確実性の高い未来である。

既に足元では、国内資源・化学メーカー等が、ブラックマス製造・精錬工場の建設計画を発表しており、市場形成に向けた動きをとり始めている。
欧米では大型工場が一部建設されているが、将来的なニーズの高まりを期待しての先行投資のため、2030年前後までは低稼働に耐えざるを得ず、ブラックマスを国外流出させる可能性は低いだろう。
EV普及前の本邦において、工場の稼働を維持するに足る原料調達は、さらに大きな課題となって立ちはだかると想定される。
OEMを中心に形成が進む国内クローズドループがもたらす機会を見据え、車載電池リサイクル市場をスムーズに立ち上げるためのシナリオを想定した舵取りが求められる。

執筆者

桑原 永尚

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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※本稿は、日刊自動車新聞2024年3月25日付掲載のコラムを転載したものです。
※本記事は、日刊自動車新聞の許諾を得て掲載しています。無断複製・転載はお控えください。
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