
【2024年】PwCの眼(8)EV化における競争優位のポイントの変化
EV化が進む中、自動車業界の利益獲得の源泉は機械系/ハード系から半導体やソフトウェアといったデジタル系/ソフト系に移行しつつあるため、自動車メーカーやサプライヤーには事業戦略の再構築が求められています(日刊自動車新聞 2024年8月26日 寄稿)。
2024-07-04
近年、持続可能な未来を目指してカーボンニュートラル(CN)への社会要請が一層高まっている。特に自動車産業においては、米国カリフォルニア州のゼロエミッション車(ZEV)規制「ACC Ⅱ」や欧州の「Regulation 2023/851」など世界各国でZEVの普及を目指す政策が立案されている。また、消費者の環境意識の高まりもCN達成への要請を加速させている。
自動車のCNに向けた基本方針は、製品の電動化(xEV化)である。しかし、xEV化だけでは走行中の温室効果ガス(GHG)排出量(Tank to Wheel)のみの削減に留まり、真のCN実現には、車両製造、エネルギー製造、走行、廃棄・リサイクルまでを含むライフサイクル全体でのGHG排出量を考慮する必要がある。
まず、自動車利用時の効率を「Well to Wheel(油田から車輪まで)」の視点で捉え、走行に必要なエネルギー製造・輸送過程の削減を検討しなければならない。具体的には電気自動車(BEV)の場合、走行に必要な電力を化石燃料による火力発電から再生可能エネルギー(太陽光、水力、風力など)に転換することが求められる。
利用時の効率化と並行して、車両製造時のGHG排出量削減も重要な課題である。車両製造には部品の加工・組立と、鉄・アルミ・樹脂・リチウムイオン正極材などの材料製造(採掘・製錬・精製)に大別できる。加工・組立においては、再生可能エネルギーを活用した設備の電化が主な対応策となる。一方で、材料製造ではエネルギー使用に伴うGHG排出だけでなく、精練時の化学反応によるCO2排出も問題である。例えば、通常鉄の製錬では鉄鉱石(酸化鉄)とコークス(炭素)が反応しCO2が排出される。しかし、実用化検討が進む水素還元鉄は水素を用いて鉄を製錬することでH2Oが排出されるため、CO2排出量を削減できる。アルミニウムでも不活性電極を用いた製錬など、化学反応自体を変える新製法が研究されている。しかし、これらの新製法は技術・コスト面での課題があり、商業規模での利用には時間を要す見通しである。したがって、現段階の実現可能なCN対策としてはリサイクル材使用が重要な選択肢となる。
リサイクル材使用にも課題が存在し、品質向上と供給量確保が主な論点となる。品質向上には、分別精度の向上と不純物除去が必要だが、処理コストは高くなる。また、供給量確保には、使用済み自動車(ELV)の回収が重要である。多くの自動車はアジアやアフリカ等の地域で中古車として使用された後にELVとなるため、地域内にELVを留めるルール整備やグローバルでのリサイクルチェーン開発が必要である。
欧州では、循環型経済への移行を促進するため、2023年に改正ELV規則案が発表された。この規則案では、リサイクル材の最低含有率や一定条件下での欧州域外へのELVの輸出禁止などが規定されている。
資源循環の推進には、自動車メーカー、部品サプライヤー、素材メーカー、リサイクル業者、中古車流通市場など多くのプレイヤーが参画するバリューチェーンが必要である。これからの時代、自動車メーカーや部品サプライヤーは材料を単に購入するのではなく、各プレイヤーと共創し、資源循環バリューチェーンを構築していくことが期待される。
※本稿は、日刊自動車新聞2024年6月24日付掲載のコラムを転載したものです。
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